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1978年、日本で『スター・ウォーズ』を撮った高校生がいた!映画愛が“刺さる”青春映画『Single8』を知っているか?

  • 2023.3.26
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平成「ウルトラマン」シリーズや『なぞの転校生』(98)、NHKで放送されたテレビドラマ「いいね!光源氏くん」などを手掛けてきたジュブナイルSFの名手、小中和哉監督が、8ミリ映画づくりに熱中した自身の“原点”ともいえる青春時代を映画にした自伝的作品『Single8』が、現在渋谷のユーロスペースほか全国順次公開中だ。

【写真を見る】宇宙船が1978年の地球に襲来!高校生たちが憧れの『スター・ウォーズ』を目指して邁進

“刺さる”という評判が、SNSなどでじわじわと広がっている本作の魅力や見どころを、小中監督が明かした想いや、本作に魅了された、是枝裕和、黒沢清、樋口真嗣ら名だたる映画監督たちのコメントと共に紹介していこう。

物語の舞台は、『スター・ウォーズ』(77)が日本で公開された1978年の夏。自分も巨大な宇宙船を撮りたいと大興奮の高校生の広志(上村侑)は、友人の喜男(福澤希空)と宇宙船のミニチュアを作り8ミリカメラで撮影を始める。そんな折、文化祭でのクラスの出し物を決める際に、勢いに任せて8ミリ映画を作ることを提案した広志は、想いを寄せているクラスメイトの夏美(高石あかり)にヒロインをお願いするもあっさりと断られてしまう。そして広志は、彼女を説得するため、喜男と映画マニアの佐々木(桑山隆太)の3人でストーリーを練り始める。

小中和哉監督の“原点”を、注目の若手キャストたちが演じ切る!

ものづくりの喜びが、彼らに絆を生んでいく [c]『Single8』製作委員会
ものづくりの喜びが、彼らに絆を生んでいく [c]『Single8』製作委員会

「8ミリ映画づくりに夢中になっていたあの頃のことを映画にしたいとずっと前から考えていた。映画を観るのはおもしろいけれど、作ることのほうがもっとおもしろい。その感覚を観客にも共感してもらえる映画を作りたい」。そう語る小中監督は、中学生の時にスティーヴン・スピルバーグ監督の『ジョーズ』(75)を観て触発され、8ミリ映画『CLAWS』を初めて製作。本作の冒頭では、そのワンシーンを再現した8ミリ映画が登場する。

劇中で主人公たちが制作する8ミリ映画『タイム・リバース』もまた、小中監督が高校1年生の時に手掛けた『TURN POINT 10:40』を再現したものだ。「映画を作っていくなかで、映画にとって大切なのは特撮だけではなく、ストーリーやカメラワークやカット割や演技など、他にも多くの大切なことがあると気づき、“映画ごっこ”から脱皮して“映画”を作らないといけないと思い至った」。後に商業作品で活躍する小中監督のまさに“原点”ともいえる瞬間を、この『Single8』で見ることができるだろう。また、Bカメ・8ミリ協力として、8ミリ映画からキャリアをスタートさせた今関あきよし監督がクレジットされているのも、映画ファンには見逃せないポイントだ。

上村侑、髙石あかりら注目のキャストが勢ぞろい! [c]『Single8』製作委員会
上村侑、髙石あかりら注目のキャストが勢ぞろい! [c]『Single8』製作委員会

また小中監督といえば、長編デビュー作『星空のむこうの国』(86)では本作にも主人公の母親役として出演している有森也実を、『なぞの転校生』では先日の第45回日本アカデミー賞で最優秀主演男優賞に輝いた妻夫木聡を輩出。『ぼくが処刑される未来』(12)では本格ブレイク前の福士蒼汰と吉沢亮、『赤々煉恋』(13)では土屋太鳳を主演に抜擢するなど、若手俳優を育成してきた監督としても知られている。本作のメインキャストたちも、将来有望な注目株ばかりで、「8ミリ映画時代の自分と仲間たちを、若い俳優たちに演じてもらうのは、照れ臭くもワクワクする体験でした」と小中監督は振り返っている。

主人公の広志役を演じるのは、『許された子どもたち』(20)で第75回毎日映画コンクール新人賞を受賞した上村侑。ヒロインの夏美役には『ベイビーわるきゅーれ』(21)で注目を集め『わたしの幸せな結婚』(公開中)にも出演している高石あかり。また喜男役の福澤希空と、佐々木役の桑山隆太はともにホリプロ初の男性ダンス&ボーカルグループ「WATWING(ワトウィン)」のメンバーで、主人公たちが通うカメラ屋の店員の寺尾役には男女混成ダンス&ヴォーカルグループlol(エルオーエル)の佐藤友祐。彼らの今後にも注目が集まるところだ。

出演作が相次ぐ高石あかりが演じる、同級生のヒロイン像も本作の魅力 [c]『Single8』製作委員会
出演作が相次ぐ高石あかりが演じる、同級生のヒロイン像も本作の魅力 [c]『Single8』製作委員会

自主映画経験者や、現代の若者にも刺さるノスタルジイ

映画愛が“刺さる”と話題!エモーショナルな魅力にあふれた『Single8』 [c]『Single8』製作委員会
映画愛が“刺さる”と話題!エモーショナルな魅力にあふれた『Single8』 [c]『Single8』製作委員会

近年では松本壮史監督の『サマーフィルムにのって』(21)がスマッシュヒットを記録するなど、自主映画制作にかける高校生たちの姿には青春映画の醍醐味が詰まっている。45年近く前の出来事を描く懐かしさもありつつ、8ミリ映画を知らない現代の若者にも刺さる要素が満載の直球の青春映画でもある。

そしてもちろん、自主映画制作をしたことがある人なら誰もが経験したであろう“あるある”もいっぱい。映画を撮りたいという壮大な夢を叶える楽しさに、好きな女の子をキャスティングして距離が縮まるドキドキ感。出演者も手伝いをしながら数名で撮影に臨み、撮影後には同じ店で同じものを食べて、編集やアフレコに悪戦苦闘し、撮影が全部終わってからミスしていたことに気が付く。そして寝不足で授業中は起きていられない。

自主映画あるあるには、映画ファンなら思わずニヤリとしてしまうことだろう [c]『Single8』製作委員会
自主映画あるあるには、映画ファンなら思わずニヤリとしてしまうことだろう [c]『Single8』製作委員会

本作を観た名だたる映画監督たちは、こぞって賞賛のコメントを寄せている。是枝裕和監督は「なんだかとても幸せな気持ちになりました。僕のように8ミリにあまり触れてこなかった人間にとっても、記憶のなかにあるはずのない映画づくりを追体験していくような不思議なワクワク感に満ちていました」と語り、黒沢清監督は「撮ってるときは何が写っているのかさっぱりわからないのが8ミリ自主映画だった。だから出来上がった作品はいつも予想もしないものになる。あれがスタートだった」と懐かしむ。

ほかにも犬童一心監督や河崎実監督、ヴィジュアリストで映画監督の手塚眞や樋口真嗣監督ら、小中監督と同時代を生きた監督たちが、『Single8』という作品に込められた1970年代のノスタルジイに心打たれたようだ。

【写真を見る】宇宙船が1978年の地球に襲来!高校生たちが憧れの『スター・ウォーズ』を目指して邁進 [c]『Single8』製作委員会
【写真を見る】宇宙船が1978年の地球に襲来!高校生たちが憧れの『スター・ウォーズ』を目指して邁進 [c]『Single8』製作委員会

ちなみに本編の終盤には、主人公たちが作った8ミリ映画をフル尺で観ることができる。実際に8ミリカメラを使用し、当時と同じ方法で撮影・編集が行われた貴重な作品となっているので、2本の映画を観たようなオトク感。さらにエンドロールでは劇中で引用された小中監督らの8ミリ時代の作品のフッテージも観ることができるし、“シネカリ”など、若者たちを熱狂させた8ミリ映画特有の撮影方法にもフォーカスされ、当時を知る貴重な資料としての側面も。

あの頃8ミリ映画を作っていた人や映画づくりを志したことのある人はもちろんだが、現役の中高生にこそ観てほしい作品だ。8ミリフィルムに触れる機会は少なくなったが、いまではいつでも手に持っているスマートフォンで気軽に映画が撮れて編集もできる時代。この春休みに仲間たちとこの映画を観て、どんなきっかけでも自分の思いを映画にすることができる楽しさを知って、たった数年の学生時代にしか得られない、特別な喜びを味わってほしい。

小中監督のメガホンによって、若手俳優たちにどのようなケミストリーが生まれているか、劇場で体感してほしい! [c]『Single8』製作委員会
小中監督のメガホンによって、若手俳優たちにどのようなケミストリーが生まれているか、劇場で体感してほしい! [c]『Single8』製作委員会

<コメント>

●犬童一心(映画監督)

「私も、78年の夏、初めての映画を作っていました。8ミリカメラを握りしめたときの熱い気持ち暑い夏を思い出し、もうどうして良いやら胸が張り裂けそうです。10代の終わり、二度と戻れない夏をフィルムに閉じ込めることができた幸福な野郎どもに心から拍手。8ミリカメラは強く握りしめることができたから祈りを込めて作れたんだな」

●河崎実(映画監督)

「学生時代8ミリ映画を同時期に作っていた同志である小中監督は、わたし同様40年以上同じことをやり続けている。お互いプロになって映画の規模は大きくなっても、この初期衝動の熱さはなにも変わらないのだ。改めてフィルムっていい、青春ていい。わたしも自伝的映画作りたくなったよ。だってフィルムがたくさんあるんだもん」

●黒沢清(映画監督)

「ああ、懐かしい。撮ってるときは何が写っているのかさっぱりわからないのが8ミリ自主映画だった。だから、出来上がった作品はいつも予想もしないものになる。あれがスタートだった」

●是枝裕和(映画監督)

「なんだかとても幸せな気持ちになりました。僕のように8ミリにはあまり触れてこなかった人間にとっても記憶のなかにあるはずのない映画作りを追体験していくような、不思議なワクワク感に満ちていました。そこに感じたのが単純なノスタルジーではなかったのは、小中さんのなかに自らの原点をもう一度確かめたいという強い前向きな動機があったからではないかと勝手に想像してうれしくなりました」

●手塚眞(ヴィジュアリスト/映画監督)

「シングル8は魔法のランプだった。それに触ればなんでもできると思っていた高校時代。学校は文字通り、映画作りの宇宙だった。映画研究部のあの狭く汚い部室で、後輩だった小中監督やヒロインたちと過ごしたあの日々。等身大の8ミリ少年たちの青春群像は、甘く酸っぱく、ちょっと照れ臭く、しかし現代の映画少年たちも同じような夢を持ってくれればいいと、この優しい映画が未来を繋いでくれることを期待します」

●樋口真嗣(映画監督)

「忘れていた匂い。

現像したフィルムの入った紙箱を開ける瞬間に溢れ出る——

中で緩まないようにリールに詰め込まれたウレタンのブロック——

電源を入れると沸き上がる、コンデンサに負荷がかかり材質が気化して、

ハロゲン球に積もった埃の焦げるような——。

波のようにどんどん押し寄せてくる匂いたちよ。

あの日々を生きていた何者でもなかった自分たち。

そんなもの作ったところで何か変わるなんて保証もなく、

それでも説明出来ない何かに突き動かされていたあの日々。

そいつは甘いけれど、とても苦い。

ちくしょう。還暦前なのに。

あの日々の思い出に浸れる甘美な幸せなんかまだ知りたくなかったのに」

※高石あかりの「高」は「はしごだか」が正式表記

文/久保田 和馬

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