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“がむしゃらにやりきる”才能は一級品。「わた婚」で映画単独初主演を飾る、俳優・目黒蓮の歩みを振り返る

  • 2023.3.16
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3月17日(金)公開の映画『わたしの幸せな結婚』にて、目黒蓮が映画単独初主演をはたす。同作は、シリ和650万部を突破した同名大ヒット小説の実写化で、大正ロマンを思わせる時代を背景に描く壮大なラブストーリー。静かで美しい日常を丁寧に描きつつ、身体を張ったアクションシーンや迫力の映像効果も見どころだ。

【写真を見る】「教場Ⅱ」「silent」を経て「わた婚」へ…目黒蓮の映像作品をプレイバック!

【写真を見る】「教場Ⅱ」「silent」を経て「わた婚」へ…目黒蓮の映像作品をプレイバック! [c]2023映画『わたしの幸せな結婚』製作委員会
【写真を見る】「教場Ⅱ」「silent」を経て「わた婚」へ…目黒蓮の映像作品をプレイバック! [c]2023映画『わたしの幸せな結婚』製作委員会

目黒が演じるのは、名家の当主であり、災いをもたらす存在“異形”から国を守る陸軍対異特殊部隊長の久堂清霞。周囲がうらやむ美貌の持ち主でありながら、数多の婚約者候補が逃げだすほど冷酷無慈悲と噂される人物だ。そんな清霞のもとに、厄介払いの形で嫁入りを命じられたヒロインの斎森美世を、ピュアな存在感でティーンを中心に絶大な支持を集める今田美桜が演じる。メガホンをとるのは「MIU404」や「最愛」など次々とヒット作を飛ばし、その巧妙な演出でキャラクターの心情を丁寧に描きだす塚原あゆ子。『コーヒーが冷めないうちに』(18)以来の塚原が手がける映画作品とあって、公開前から大きな話題を呼んでいる本作。本稿では、目黒の映画単独初主演に際し、彼の役者としての経歴を辿りながら、その魅力について考えてみたい。

いま最もトレンディな存在、目黒蓮

これまでの婚約者と明らかに様子が異なる美世に、最初から調子を狂わされる清霞 [c]2023映画『わたしの幸せな結婚』製作委員会
これまでの婚約者と明らかに様子が異なる美世に、最初から調子を狂わされる清霞 [c]2023映画『わたしの幸せな結婚』製作委員会

ジャニーズの通例通り、舞台を中心に芝居の経験を積んできた目黒は、Snow Manとしてのデビュー以後、特に2021年を皮切りに映像作品への進出を本格化させた。2023年1月には『月の満ち欠け』(22)にて第46回日本アカデミー賞の優秀助演男優賞と新人俳優賞を、2月には第96回キネマ旬報ベスト・テンで新人男優賞を受賞。そのほか各テレビ誌が創設したドラマ各賞にも立て続けに選出された。わずか数年で人気俳優の仲間入りをはたした目黒は、いま最もトレンディな存在といっても過言ではない。

目黒が“役者”として世間に広く認知されたきっかけは、おそらく「教場Ⅱ」(2021年1月放送)への出演ではないだろうか。本作で目黒が演じた杣利希斗は、警察官になることを自ら望んだわけではなく、優秀ながらも冷めた態度の訓練生。しかし、恋人である同期の陶子(岡崎紗絵)の妊娠により、新しい家族を守るべく、警察官になることを改めて決意する。杣が心を決めたその瞬間から、目黒の表現はがらりと変わった。侮蔑ともとれるほど冷たく固まっていた表情は、ほどけてなおより一層引き締まり、恋人らしいシーンはなくとも、杣にとって陶子と生まれ来る我が子がいかに大切な存在であるかが、その眼差しから伝わってきた。派手な芝居ではないが、丁寧に心を表現する役者だということは、その当時から印象に残っている。

目線や表情で感情を丁寧に表現する、目黒の芝居の醍醐味

役者としての目黒の知名度と人気をさらに引き上げたのが、勘違いから始まったピュアなラブコメディ「消えた初恋」(2021年10~12月放送)。同名人気漫画の実写化において、なにわ男子の道枝駿佑とともに前評判以上の好演を見せ、同作は海を超えるヒット作となった。目黒が演じたのは、真面目で硬派、ポーカーフェイスの井田浩介。無自覚に相手をときめかせる、罪な役どころだった。恋愛に疎く、恋心に鈍感な井田。そんな彼が、青木(道枝)の思いにまっすぐ向きあおうとする実直さに、視聴者は心を動かされた。

物語全体を通し、ともすれば井田自身も気付いていないような青木への感情の変化を、目黒はあたたかく演じていたように思う。井田にとって、青木が少しずつ大切な存在になっていること、“想う相手”になっていることが、その優しい微笑みや瞳から確かに感じられたのだ。愛おしい相手、大切な相手を思う表情と、優しく見つめる笑顔。それは、目黒の芝居の醍醐味といえよう。

様々な役を経て、いま魅せる“目黒蓮”とは

そして昨年、ゴールデンプライム帯ドラマ「silent」(2022年10~12月放送)に出演し、中途失聴者の青年、佐倉想を演じた。本作は第1話から大きな話題となり、放送後の現在もなお多くのファンがロケ地を訪れるほどの社会現象に。涙の多い作品ではあったが、想については不思議と、笑顔のほうが強く印象に残っている。高校時代と同じジョークを飛ばす等身大の姿や、妹(桜田ひより)との何気ない会話――見ているこちらの顔が思わずほころぶほど、想は優しい顔で笑う青年だった。なにより、ヒロイン・紬(川口春奈)の一挙手一投足を見つめる穏やかな瞳の温度。目黒自身が愛情深い人なのか、あるいは役をまっとうし、役として生きているからなのか。きっとその両方なのだろうと思うが、端正なルックスからは想像もつかないほど、ぬくもりがにじみ出る役者だと、過去の出演作を重ねながら改めて感じたものだ。

冷徹ぶりを炸裂させる初対面から、心を開いていく清霞の表情の変化にも注目 [c]2023映画『わたしの幸せな結婚』製作委員会
冷徹ぶりを炸裂させる初対面から、心を開いていく清霞の表情の変化にも注目 [c]2023映画『わたしの幸せな結婚』製作委員会

こうして出演作の一部を振り返ってみると、朴訥で不器用、けれど優しく、静かな強い意志を持つ――ステップアップのここ数年で、目黒はそうした役を多く演じてきた。観る者は、そんな目黒演じるキャラクターに共感し、ときにその涙に心を痛め、その瞳に胸をときめかせる。そんないま、人々はどんな目黒蓮を見たいと思うのだろう。考えをめぐらせてみたところ、今回演じた「久堂清霞」こそ、まさにその答えではないかと思うのだ。これまで目黒が演じてきた役、養ってきた表現、すべてが詰まった集大成でありつつ、アクションという新境地も見せる。単独初主演という大きな節目にふさわしい作品に恵まれたと思う。

決して器用ではないところ、それでも、相手とまっすぐに向きあうところ、愛する人や仲間を心の奥で強く思い、守りぬくところ、そして美世を見つめる瞳、大切そうに触れる手――その愛情深さのすべてが、役者・目黒蓮の培ってきたものであり、彼が持つ魅力だ。強いけれど脆い。脆いけれど強い。スーパーマンではない、美しいだけでは生きられない“人間”を、目黒はなりふり構わず演じてきた。今回もそうだ。

やってくれる男「困った時の目黒」

右腕である五道(右、前田旺志郎)の前では、意外な一面も見せている様子 [c]2023映画『わたしの幸せな結婚』製作委員会
右腕である五道(右、前田旺志郎)の前では、意外な一面も見せている様子 [c]2023映画『わたしの幸せな結婚』製作委員会

さらに本作では、心を許した仲間に見せる無邪気な笑顔も印象深い。作中、清霞の部下が美世につぶやく“ある台詞”。これにはおそらく多くの人が膝を打つだろう。あまりにも清霞を、さらには役者としての目黒蓮を形容するにふさわしい言葉だった。

「困った時の目黒」という言葉を、ファンは耳にしたことがあるかもしれない。ジャニーズJr.時代、「滝沢歌舞伎 2017」で怪我をしたキャストの代役として急遽、一晩で振りを覚え、翌日の公演に立ったエピソードからも、その高いプロ意識と、“やってくれる男”ぶりは一貫している。テレビ番組をはじめ、素顔の目黒を見ていると、おそらくだが器用なほうではない。けれど“がむしゃらにやる”、“やりきる”才能は一級品だ。それは誰もが備えているものではなく、誰もが発揮できるものでもない。そして、全力でやるからこそ伝わるものがあるのだと、目黒を見ていて思う。

美世の危機を察知した清霞の大胆な行動に思わず息を呑む [c]2023映画『わたしの幸せな結婚』製作委員会
美世の危機を察知した清霞の大胆な行動に思わず息を呑む [c]2023映画『わたしの幸せな結婚』製作委員会

Snow Manとしてのデビュー以降、セルフブランディングに励み、経験の少ない芝居にも真摯に取り組んできた目黒。求められたことに応える姿勢は、「滝沢歌舞伎 2017」のエピソードから、そして役者としての異例の急成長からも見て取れる。それでも、「もっともっと」とその進化を見ていたくなるのは、彼が期待以上を返し続けた実績ゆえのこと。

申し訳ないほどにいま、日本中が君に注目している。

文/新亜希子

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