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『アカイリンゴ』Pが語るテーマ「ベッドシーンを真面目に美しく描く」テレビの曖昧なタブーに挑戦する番組作り

  • 2023.3.13
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ドラマ『アカイリンゴ』が放送中 (C)ABCテレビ
ドラマ『アカイリンゴ』が放送中 (C)ABCテレビ

【写真】1話での優等生ぶりから豹変していく主人公・犬田(小宮璃央)

放送中のドラマ『アカイリンゴ』(毎週日曜深夜0:25-0:55、ABCテレビほか、DMM TVにて独占配信中)は、性行為が法律で禁じられた近未来の日本を舞台に、若者たちの欲望に揺れる心情と、理性で抑えきれない衝動を描き出す物語。地上波で放送できるギリギリと言われる過激な表現がSNSなどで話題を集めている。今回、ABCテレビの矢内達也プロデューサーにインタビューを行い、本作の狙いや撮影秘話について聞いた。「傷を負いながら番組を作っていけたら」と語る矢内Pの言葉からは、地上波の曖昧なタブーに挑み、テレビをもっと面白くするという気概が感じられた。

ベッドシーンを真面目に、美しく描く

――矢内さんが『アカイリンゴ』をドラマにしようと思ったのは、どのようなきっかけでしたか?

昨年の夏頃に(原作版元の)講談社さんから原作をご紹介いただいて、最初に読んだときは性描写が多いので映像化は厳しいかもと感じていたんですが、読んでいくうちにこれをドラマにしてみたいと思い始めました。「性行為が禁止されている近未来の日本」という設定が、意外とリアルなんじゃないかと思ったんです。人間は社会のルールに縛られて生きていて、それが究極までいったらどうなるのか。人間の三大欲求である性行為をルールで縛ることはできるのか?という深いテーマがある。それに、これを地上波でやれるとしたらABCテレビくらいだろうと思って。いい意味でバカというか、こちらの熱量を汲み取ってくれる懐が深い会社なので。それで企画書にしてみたところ、あれよあれよとハンコが押されていきました(笑)。

――海外ドラマだと結構ありますが、日本だとセックスについて正面から描いたドラマってあんまりないですよね。

今回、テーマとして「ベッドシーンを真面目にしっかり描く」ということがあります。海外の映画やドラマでは、ベッドシーンなどのインティマシ―・シーンを、淫靡でなく美しいものとして表す作品もたくさんありますが、日本では性的なものはタブー視されがちですし、ドラマでも布団に入ったら時間が飛んで朝になっているという描き方が多いですよね。でも性って、もちろん男女間に限らず、あらゆる形で人生にとって大事なこと。その描き方について明確なルールがないのが現状なので、今後こういうテイストの(性描写が多い)作品に挑戦する作り手にとって教科書のようなものにもなればいいなと思って作りました。この原作をお預かりする以上、中途半端に逃げて作ったら絶対に良いものにならないと思ったので。

――今伺って驚いたんですが、ベッドシーンの撮り方に明確なルールはないんですね。

女性のトップレス、男女とも下着をつけていない下半身などはダメというのはなんとなく決まっていますが、たとえば裸で抱き合っているところを横から撮ったらそれらは全部見えないので、そのシーンが大丈夫かどうかは判断する人の主観が入ってくる。そこで撮影に入る前に、監督、カメラマン、キャストに協力してもらい、1日かけて色々なインティマシ―・シーンのパターンをたくさん撮り、どこまでなら放送できるか考査してもらったんです。それである程度のラインを作れました。9割くらいがNGになりましたが…。

――本作の映像表現ではどのような点を工夫していますか?

漫画と映像で違うところは、見せずに想像させるエロさ。また、本編上下に黒みを入れることで映画的な画角にして、画の奥行きを広く見せています。こだわりのひとつは、暗いシーンでも肌色をきれいにしていること。そうでないと美しいベッドシーンにはならないので。あと、あまり気づかれていないんですが、音にもこだわっています。放送も深夜ですし、イヤホンで聞く人が多いかなと思って、耳元でささやかれているような声の遠近感を意識しています。

『アカイリンゴ』9話より (C)ABCテレビ
『アカイリンゴ』9話より (C)ABCテレビ

制作側にもメリットが大きい「インティマシ―・コーディネーター」

――本作では、性的なシーンの撮影においてキャストをサポートするインティマシー・コーディネーターとして西山ももこさんが参加されています。起用理由や作品に与える影響について教えてください。

ABCテレビでは『それでも愛を誓いますか?』(2021年)でお願いしたのが最初です。今回『アカイリンゴ』の企画がすいすい通っていったので、僕一人じゃ背負いきれないと焦り(笑)、監督と同じくらいのタイミングで西山さんにご連絡しました。「やるからには逃げずにやりたいので力を貸してほしい」とお伝えしたところ、原作をすぐに読んで「キャストもスタッフもすごく大変な作品になるけど一緒にやりましょう」と言ってくださって。

西山さんがやってくださることのひとつは、現場での所作の指導です。たとえば服の上からでも、身体に触るときは詰め物をしたりボールを挟んだりして、無駄な接触を減らすと同時に、シーンが綺麗に見えるようにする。俳優が自分のプライベートな部分を出さずにインティマシ―・シーンの撮影ができる。アクション指導と同じです。

もうひとつが、撮影が終わるまでのメンタルケア。インティマシ―・シーンの撮影時には、西山さんが事前に細かい流れを監督と確認して、それをキャストに伝えてフィードバックをもらう。前もってコーディネーターに間に入って確認していただくことで、キャストももちろん安心だと思いますが、プロデューサーの立場でも、当日に撮影が止まるリスクを減らすこともできて安心できます。

――制作側としてもメリットがあるんですね。

ドラマは、より良いものにするために直前ギリギリまで煮詰める作り方が多いですが、インティマシ―・シーンはそうじゃなく準備が必要だということを改めて認識できました。それに監督の側としても、インティマシ―・シーンでの要求があった場合、特に異性の俳優さんに対して直接は言いづらい面があるんです。「言いにくいからやめておこう」ということが、西山さんのおかげでなくなりました。

その人自身へのリスペクトを持って進めるだけでなく、その人が準備に費やした時間に対しても同様にリスペクトを持って進めましょう、という考え方を学びましたね。

主演・小宮璃央のキャスティング理由は「悪に転換する演技を見てみたい」

第1話では優等生の主人公・犬田光(小宮璃央) (C)ABCテレビ
第1話では優等生の主人公・犬田光(小宮璃央) (C)ABCテレビ

――キャスト陣のキャスティング理由や、撮影中の様子についてお聞かせください。

まず小宮璃央くんは、演じる犬田光が序盤は純粋無垢で、後半ひっくり返るという、正義から悪への振れ幅が激しい役です。元々戦隊ものをやられていたこともあり、悪に転換する演技を見てみたいと思ってお願いしました。すごく振り切っていて、「小宮璃央」を一回置いて「犬田光」として現場に来てくれた印象がありました。たとえば2話で牛本(大久保桜子)に誘惑されるシーンの演技は、小宮くんが自分で考えているんです。彼が先頭で弾けてくれたので、みんなついていけたんじゃないかなと思います。

川津明日香さん演じる水瀬優は、原作者のムラタコウジ先生の言葉を借りるといわゆる「負けヒロイン」であんまり報われない。それに言葉遣いが男っぽくて、サバサバしたカラッと明るいキャラ。これってご本人の根がそうじゃないと難しい役だと思い、マネージャーさんに以前から人となりを聞いていた川津さんにオファーしました。ハマり役だと思います。水瀬って、この作品で唯一真面目な人なんですよね。後半それに気づいてきて、楽しんでやってくれていたと思います。

“ウチュラ”こと宇宙美空は、国民的美少女かつ謎が多いキャラなので、ミステリアスで不思議な印象があった新條由芽さんにお願いしました。水瀬との対比で、元気すぎずやや陰のあるイメージにしたかった。ちなみにムラタ先生からは、ビジュアルは原作に寄せなくていいので、キャストが一番魅力的に見える状態にしてと言われていたんですが、新條さんご本人から「やるからには(原作と同様に)髪を切って金髪にしたい」と言ってくださったんです。熱さを感じました。

壇田先生は、最もキャスティング不可能だと思っていた役です。でも過激なシーンの表現をマイルドにしたり省いて逃げたくなかったので、そのまま演じてくれる方を探し求めていました。森咲智美さんご自身もオファーに「これマジでやるの?」と思ったそうなんですが、「これをできるのは私しかいない」と受けてくださったそうです。撮影では女性が美しく見える身体の所作を実践いただいて、西山さんも感嘆されていました。

傷を負いながらも盛り上がる番組を作っていきたい

――「性行為が違法な世界」という設定自体、性的な話題や性教育が忌避される日本ならではの設定なのではないかと感じました。矢内さんはテレビの作り手として、規制の多い今の日本の地上波に一石を投じたいという意志もあるのでしょうか?

地上波って総務省の管轄なので、「公序良俗に反さない、善良な番組」を作ることが放送法で定められています。最近では未成年がお酒を飲む、タバコを吸う、道端で歩きスマホをする、なんかはもちろんダメですよね。公道で車を運転するときには、たとえどんな荒くれ者であってもシートベルトを締めます(笑)。クリエイティブという意味では、それでいいんだっけ?と思うときもやっぱりあるんですよね。

もちろん、テレビのルールに反抗したいわけではないんです。特にこの作品は本当に大変でした。考査や編成を担当する部署の人と、こんなにやりとりしたことはないなってくらい。腑に落ちないこともいっぱいあったんですけど、でもやっぱり楽しいんですよね。今作だと「エロすぎる」というところに焦点が当たっていますが、別作品でも「エロ」以外の部分も含めて「そこまでやるの?」って社内から言われながら番組作りができたら、しんどいけど良いなあと思っています。

ちなみに3話では、地上波で流せないシーンが出てしまったんです。それで現場もテンションが下がっていたんですが、(全話配信中の)DMM TVだったら編集せずに流せるということがわかり、配信に組み込むことができて救われました。そういう風に、傷を負いながらも盛り上がる番組を作っていけたらと思います。何も反応がなくスン…として終わるのが、作り手としては一番つらいことなので。

――放送もクライマックスですが、最後に今後の見どころを教えてください。

5話の途中くらいからは、原作漫画と違うオリジナルストーリーに突入しています。ちょっとバカバカしい展開やセリフもありつつ、脚本は非常にまじめに作っていますので、特に犬田・水瀬・ウチュラの3人がどうしてこういう思考の人間になっているのか、三角関係の結末をしっかり描いています。「ちょっとエッチなコメディ」と思って視聴していた人が、最終話で「ヒューマンドラマだったのか!」と気づいて、涙を流していただけるような後味を紡ぎ出すことができたらいいなと思っています。

『アカイリンゴ』8話より (C)ABCテレビ
『アカイリンゴ』8話より (C)ABCテレビ

■取材・文/WEBザテレビジョン編集部

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