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阪急「バレンタイン本」が異例の人気、溢れすぎたバイヤーの熱量

  • 2023.2.8
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全国の百貨店で盛大におこなわれるイベント『バレンタインフェア』。なかでも、約3000種を取り扱い日本トップクラスの規模を誇る「阪急うめだ本店」(大阪市北区)では、チョコレートに負けない濃厚な「ガイドブック」が名物となっている。

「阪神うめだ本店」のバレンタインガイドブック。全352ページがフルカラー&丈夫な紙質で、重さは580g!(2023年版)

2023年版は352ページと過去「最厚」を更新し、ネットでは「年々分厚くなってて笑う」「なんでタダやねん」「この気合いはどこから」というツッコミの声も多くあがるほど。ガイドブックをもらうために店に行ったという人も多く、今回は1月4日の配布開始からわずか10日間で予定冊数に達した。

そんな人気のガイドブックの制作指揮を15年にわたって執る同百貨店のバイヤー・高見さゆりさんに、その尋常でない熱量の原点を訊いてみた。

■ わずか10日で配布終了、転売も・・・異例の「ガイドブック」人気

──バレンタインの冊子は各百貨店が力を入れて制作されますが、阪急さんの場合はネットで出品されるほどとりわけ人気です。

無料のカタログですが、「パラパラっと見ただけで ゴミ箱に捨てられるようなものは作らない」と、たくさんの想いを込めて制作しています。ほかの百貨店さんもそうだと思うのですが、自分たちが一生懸命作ったものを捨てられるのはやっぱり残念ですよね。

紙の高騰で昨年より少し減っていることもあり、今年はとくに配布終了が早かったので、部数については今後検討していきます。

──昔からこのボリュームだったのですか?

15年前に私が担当になった当初はCDブックレットのようで、商品の写真・値段・場所の記載だけでした。どの百貨店も同じ感じで、あまり個性がないなと。

そこで、モノを売るだけではなく何かメッセージを伝えたいと思い、「フェアトレード」(公正な貿易)や社会貢献に取り組まれているブランドを紹介し、さらにその商品やブランドを選んだ理由まで伝えたいと考えるようになり、2011年頃からだんだんページが増えていきました。

(左)チョコ以外の商品や生産者の顔も(右)人口や関空からの距離まで…「地球の歩き方」ならぬ「チョコレートの歩き方」だ(「チョコレートガイドブック」2023年版より)
■ 「エクアドル行かへん?」ある有名シェフの一言

── なるほど。そこからどうされたのですか?

当時、いち早くフェアトレードの原料を商品化されていた「パティシエ エス コヤマ」の小山進シェフにお話を伺ったところ、「現状を見ないとわからないと思う。僕は現地に行って想いを感じたから、こういう商品にしたんだ」と。そして「一緒にエクアドル行かへんか?」と誘っていただいたんですよ。

──そこではどんな体験を?

あるカカオ農家の男の子に会ったんですが、小山シェフが初めて訪れた時は「将来サッカー選手になりたい」と言っていたのに、3年後には木になるカカオの実を見ただけで熟度の選別ができるほど勉強していて、前向きに「家族とカカオ農家をやっていく」って決心していたんです。

フェアトレードって児童労働させられているというネガティブなイメージもあったので、丁寧にカカオを作ることで価値を上げ、適正な価格で売買するという現状を見させてもらったことや、自分たちが栽培しているカカオに誇りを持たれていることにすごく感動しました。

ほかにも、コロンビアを拠点に活動されているカカオハンター(R)小方真弓さんから「あなたはどんなチョコレートが食べたいですか?そのチョコレートの価値は?」と問いかけられたことで、お客さまに伝えるべきことをより考えるようになったり。このときから、ほかの百貨店と比べるのではなく、「自分が何をしたいか」と強く思うようになりました。

──そういった出会いや経験が、ページ数に反映されているんですね。

実際に現地を見ているので、彼らの想いを伝えたいんですよね。生産者から消費者までの想いを繋ぐ、それが私の仕事だと。そうやって関わるブランドや人が増えるほど、伝えたいことも増えてきて。当時のカタログではサイズやページ数が完全に足りなかったので、CDサイズからA5判に変わり、ページ数も年々増加していきました。

左から、「パティシエ エス コヤマ」の小山シェフと「阪急うめだ本店」の高見バイヤー(『バレンタインチョコレート博覧会2023』にて)
■ 目指すは「楽しさ世界No.1」

──2023年は過去最多の352ページとなり、ずっしりとしてますね(笑)

2021〜22年は、コロナ禍での催事場の混雑を回避するために、地下の洋菓子売場専用のカタログを作ったのですが、その役割を果たせたので2023年は1冊に集約しました。また、「全館バレンタイン百貨店」として3年目を迎えるのですが、各階でもバイヤーそれぞれの想いや商品をしっかりと紹介したくてこんな分厚さになってしまいました。

ページの編集は各企画担当者がおこなっているのですが、2023年だと「かんきつジェット」でマニアックなチャートを作っていたり、小さなサイズで食べ比べできる「ミニタブレット」特集をしたり。若手による新しいエッセンスが加わって毎年進化しています。

──「カタログ」ではなく「ガイドブック」という呼び方も珍しいですよね。

これだけ内容が詰まっていると熟読してご来店いただいた方がより楽しめるので、分厚くなった2017年からは「ガイドブック」という表記に変更しました。

もちろん会場の演出にもこだわっていて、ガイドブックがそのまま売り場に飛び出してきたような、老若男女みんなが楽しめる、わくわくドキドキする空間を心掛けています。「阪急うめだ本店」のバレンタインは、お客さまの心を動かすことのできる「楽しさ世界No.1」を目指しているので!

──SNSでは「圧倒的情報過多!」「通称チョコレート同人誌」「立派すぎて貰えるんですか?と聞いてしまった」などの声もあり、お客さんも熱量を感じているようです。

阪急の熱が凄いと思ってくださり、お客さまにちゃんと想いが伝わっているのがありがたいなと思います。「想いを届ける」という意味でも ガイドブックは 1冊1冊、スタッフから手渡しさせていただいております。また、遠方の方もデジタルパンフレットで楽しんで下さっているようで本当にうれしいです。ネットでは「数年分置いているけど阪急頭おかしい」とか、同人誌界隈では誉め言葉だという「鈍器」と言われたりもしてるみたいですね(笑)

阪急うめだ本店『バレンタインチョコレート博覧会2023』の様子。各所に遊び心が溢れており、フォトスポットとしても楽しめる



バイヤー・高見さんのガイドブック制作の転機となった「パティシエ エス コヤマ」の小山シェフにも話を訊いてみた。

──なぜ現地へ誘われたのですか?

当時、カカオのことをちゃんと知る時代に突入していたので、時間はかかるけど、現地に行くことで彼女が感じたことを数珠つなぎで伝えるイベントになった方が阪急さんの特徴になると思って。でもまさか上司から出張の許可が降りるとは(笑)

──でも、それにいち百貨店バイヤーが付いてくるのは、簡単なことではないですよね。

(フェアトレードは)僕らいち個人のブランドだけでやっていてもダメで。百貨店全体でそれを思って下さっていて、むしろリードしてくれるくらいにならないと、イベントっていうのは成功しない。いろんな人が共感しながら参加するというのが重要だと思います。

── 小山シェフから見て「阪急うめだ本店」のバレンタインはいかがですか?

情報量とかだけじゃなく、居心地の良さとかいろんなところが毎年進化してる。みんなが楽しめて、チョコレートをもっと知りたいという人が増えたら、また新たに出来ることがあると思うのでこれからが楽しみですよね。



企画チームのメンバーが「かなり大変ですけど・・・楽しいです」と話すように、高見バイヤーはじめスタッフたちの想いがぎゅっと詰め込まれ、名物の分厚いガイドブックが作り出されていた。会場の楽しさはもちろん、イベントを盛り上げる名脇役のさらなる進化に期待したい。

「阪神うめだ本店」9階催事場ほか全館で開催中の『バレンタインチョコレート博覧会2023』は2月14日まで、営業時間は朝10時〜夜8時(最終日の催事場は夜7時終了)。公式サイトでは、紙タイプと同じ内容のデジタルガイドブックを公開中。

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