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コロナ禍、戦争......混乱の2020年代に『風の谷のナウシカ』が教えてくれること

  • 2023.2.4
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新型コロナウイルス、ウクライナ侵攻、AI問題、気候変動......。混乱する現代とよく似た世界を、まるで言い当てたかのように描いた、1980~90年代のマンガがある。それは宮﨑駿さん作『風の谷のナウシカ』(徳間書店)だ。

今の時代を生きる私たちに、『ナウシカ』が教えてくれるメッセージとは。2月2日、『危機の時代に読み解く『風の谷のナウシカ』』(徳間書店)が発売された。

本書は朝日新聞デジタルで2021年3月、同5月、2022年12月に配信された「コロナ下で読み解く 風の谷のナウシカ」のすべてのインタビュー記事を、加筆修正のうえ収録している。

マンガ版『風の谷のナウシカ』は、1982年から1994年にアニメ情報誌「アニメージュ」(徳間書店)誌上で連載され、1984年には宮﨑さん自身の手で劇場版アニメ化された。アニメになったのは全7巻のマンガのうち2巻目の途中まで。マンガ版のストーリーはアニメ版よりもさらに先へ進み、まったく違う結末にたどり着く。

『ナウシカ』が描いたのは、戦争で科学文明が崩壊し、菌類の森「腐海」に巨大生物「蟲(むし)」が生息する世界。菌類が発する猛毒の「瘴気(しょうき)」を吸い込まないために「瘴気マスク」を装着した登場人物たちの姿は、コロナウイルス予防でマスクをしている私たちと重なる。

『ナウシカ』が時代との不思議な共鳴を起こしたのは、2020年代の今だけではない。本書を編集した朝日新聞文化部記者の太田啓之さんは、こう書いている。

漫画『ナウシカ』の最も驚くべき要素が、現実世界との度重なるシンクロニシティー(共時性)だ。『ナウシカ』の連載が完結した1994年以降、私たちは何度も何度も「想像を超えた途方もないできごと」に遭遇してきた。1995年の阪神淡路大震災と地下鉄サリン事件、2001年の9・11テロ、2011年の東日本大震災と福島第一原発事故。そのたびに、ことの成り行きに呆然としつつも、僕は心の片隅で密かにこう思い続けてきた。「これは『ナウシカ』の世界を旅する中で、すでに体験したことだ」と──。
2012年、宮﨑駿監督にインタビューした時にも「原発事故についてもお話をうかがいたかったんですけど、監督の答えはもう『ナウシカ』に全部書いてありますね」と話しかけた。宮﨑さんは、ただ微笑んでいた。
(「はじめに」より)

『ナウシカ』がどの時代にも通ずる理由とは。そして、今『ナウシカ』を読み解くことで見えてくるものとは。本書には、以下の18名のインタビューが掲載されている。

【収録著者】
民俗学者・赤坂憲雄/俳優・杏/社会哲学者・稲葉振一郎/現代史家・大木毅/社会学者・大澤真幸/漫画家・大童澄瞳/映像研究家・叶精二/作家・川上弘美/軍事アナリスト・小泉悠/英文学者・河野真太郎/ロシア文学者・佐藤雄亮/漫画研究者・杉本バウエンス・ジェシカ/文筆家・鈴木涼美/スタジオジブリプロデューサー・鈴木敏夫/漫画家・竹宮惠子/生物学者・長沼毅/生物学者・福岡伸一/評論家・宮崎哲弥 (五十音順、敬称略)

太田さんは、語り手の多くから「『私たちが生きるこの世界』への深い愛着」と「困難な時代を生き抜こうとする強い意志」を感じたという。『ナウシカ』を通して、これからの時代を強く生き抜くヒントを、きっともらえる一冊だ。

【目次】
はじめに
主な登場者などの相関図
作品世界を理解するためのキーワード

I 序章
スタジオジブリプロデューサー 鈴木敏夫
「漫画版は映画への裏切りでは」という僕の言葉に、宮さんは激怒した

俳優 杏
「母に愛されなかった娘、巨神兵の母」としてのナウシカの思いを受け止めたい

映像研究家 叶精二
アニメーション化を想定していなかった漫画版『ナウシカ』

軍事アナリスト 小泉悠
現実のウクライナとナウシカの世界 戦争の「ネイチャー」は変わらない

II キャラクターの魅力
作家 川上弘美
ナウシカは現実にはいなくてもいい─ノイズとしての物語がもたらす救い

生物学者 福岡伸一
老いるからこそ、死ぬからこそ人は美しい─ナウシカと鬼滅の刃・煉獄杏寿郎が辿り着いた場所

漫画家 竹宮惠子
〈素晴らしきディストピア〉の拒絶 ナウシカとキースの叫び

文筆家 鈴木涼美
「夜の街」=腐海に生きた私が憧れたクシャナ

英文学者 河野真太郎
ナウシカとクシャナを結ぶ「シスターフッド」の裏にあるもの

III 作品のディテールと時代背景
漫画家 大童澄瞳
驚嘆させられるナウシカ世界の作り込み 飛行機を「船」と呼ぶ理由

漫画研究者 杉本バウエンス・ジェシカ
ナウシカはなぜ「青き衣」を着ているのか─西欧からの洞察

現代史家 大木毅
『なんという戦争!! いかがわしい正義すらカケラもないなんて』 絶滅戦争・独ソ戦とナウシカ

評論家 宮崎哲弥
高畑勲『かぐや姫の物語』は『ナウシカ』へのアンチテーゼだった

社会哲学者 稲葉振一郎
お先まっ暗のだれも歩いたことのない未来を肯定する─ナウシカの嫡子としての『エヴァ』

IV 物語から現実へ
民俗学者 赤坂憲雄
母性が壊れてしまった時代に降臨した「血塗られた母」ナウシカ

生物学者 長沼毅
ナウシカが「シュワの墓所」を破壊したのは、あまりにも短慮だった

ロシア文学者 佐藤雄亮
トルストイ『戦争と平和』と『ナウシカ』─「人類は滅びるしかないのか」 究極の問いを巡る壮大な実験

社会学者 大澤真幸
『ナウシカ』を思想化する試み─現実を変える力とするために

ブックガイド:漫画『風の谷のナウシカ』の攻略法
おわりに

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