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「こうすれば老後は公的年金だけで生きられる」プロが見直しを勧める60代後半がハマる"無駄遣い"の代表格

  • 2023.2.1
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公的年金だけで生きていけるか。確定拠出年金アナリストの大江加代さんは「厚労省のデータによると、公的年金を受給している世帯の約半数、48.4%が公的年金のみで暮らしています。また、老後の無駄遣いを減らせばさらにお金の不安は減るでしょう」という――。

※本稿は、大江加代『役所や会社は教えてくれない! 定年と年金 3つの年金と退職金を最大限に受け取る方法』(ART NEXT)の一部を再編集したものです。

電卓を使用して計算している税理士の手元
※写真はイメージです
約半数の人は公的年金のみで暮らしている

定年後は、現役時代より生活費が減るとしても、「公的年金だけでまかなえるのか?」と心配する人もいると思います。

しかしこれは、あまりむずかしいことではありません。公的年金の受給額に合わせたライフスタイルにすればよいだけです。実際に、厚生労働省の「国民生活基礎調査」(令和元年)のデータによると、公的年金を受給している世帯の約半数、48.4%が公的年金のみで暮らしています。

家計に赤字を出さないためには、繰り下げなどによって受給額を増やすとともに、老後の生活に合わせて支出を減らす工夫が必要です。

家計の支出を減らすというと、まっさきに「節約」ということが頭に浮かぶかもしれません。節約というのは、ふだんの食費や光熱費を切りつめて、生活費を浮かせる方法です。また、ほしいものがあっても我慢するといったニュアンスもあると思います。

こういった節約は、面倒なうえにそれほどの効果は期待できません。しかも「定年を迎えて、これから好きなことができる」というときに、生活を切りつめるとか、やりたいことを我慢するというのでは、これまでなんのために働いてきたのかわかりません。

これからの人生はケチケチ生きる必要はありません。それよりも、家計の無駄を徹底的になくしたほうが、支出を減らす効果は絶大です。

しかも、もともと無駄で必要のないものを減らすわけですから、暮らしへの影響はなく、ストレスもほとんど感じないと思います。

生命保険を解約すれば10年で400万円貯まる

家計の無駄を見つけるとき、いちばんに見直すべきは「保険」です。60歳を過ぎて子どもが独立したならば、生命保険はほぼいらなくなります。なぜなら、前回もお伝えしたように、生命保険がなくても、遺族年金という制度によって配偶者の生活はある程度守ることができるからです。巨額の資産があり、相続対策のために保険に加入している人は別ですが、高い保険料をいつまでも支払うより、解約して保険料を貯金するか、積み立て投資にまわすことをおすすめします。

公益財団法人生命保険文化センターの「生命保険に関する全国実態調査」(2021年12月発行)によると、民間保険に払い込んでいる世帯別年間払込保険料は65~69歳がもっとも高く、42.3万円です。この保険をやめて、年間40万円を貯蓄にまわせば、10年で400万円、20年で800万円も貯えられます。

医療保険もほとんど必要ない

また、医療保険も同様に見直し対象です。入院や手術などに備える保険も、実はほとんど必要ありません。なぜなら、日本には公的医療保険という社会保険制度があるからです。会社なり個人なりで「健康保険」に加入しているかぎり、医療費の自己負担は収入に応じて1~3割負担に抑えられています。この1~3割の負担も高額になった場合は、「高額療養費制度」という費用の軽減制度により、一定額以上は支払わなくて済むのです。

図表1をご覧ください。これは年齢別の医療費と自己負担額を比較したものです。

【図表】現役時代と退職後の医療費
※『役所や会社は教えてくれない! 定年と年金 3つの年金と退職金を最大限に受け取る方法』(ART NEXT)より

たとえば、85~89歳の医療費は50~54歳の4.6倍の105.6万円かかっています。ところが、実際に払う自己負担額はわずか8.3万円です。さらに、公的医療保険の保険料は所得に応じて変わるため、収入が減少する高齢期には保険料もかなり安くなります。収入の多い50~54歳にくらべると5分の1になっています。年を取るほど保険料が高くなる民間の医療保険とは真逆のしくみです。

老後は保険より現金が大事

「でも、入院したときの食事や個室の差額ベッド代は、健康保険が使えないよね?」という人がいます。たしかにそうですが、それは貯蓄があればまかなえます。

たとえば、毎月3000円の医療保険に20年入っていると、総額で72万円の保険料を払い込んでいます。1週間入院して、日額1万円の入院給付が出たとしても、もらえるのは7万円です。その程度なら、保険に入らず72万円貯蓄しておけば払えた金額です。

したがって、退職金や貯蓄などのまとまったお金を確保しておけば、負担の大きい保険は全部解約しても問題ないと思います。

また、保険ではなく預金としてお金を持つメリットは、「何にでも使える」ということ。病気にならなければ、自己実現費や旅行や家のリフォームなどに使ったっていいのです。融通の利く使い方ができるからこそ、老後は「保険」より「現金」が大切なのです。

介護も公的介護保険と貯蓄でまかなう

これは介護費用についても同じ考え方です。最近は、民間の介護保険に入る人も増えているようです。しかし、40歳以上の人はみな公的介護保険に加入しています。

公的介護保険は、65歳以上であれば、介護が必要と認定を受ければ原因を問わず利用できます。40歳以上64歳以下の人も、糖尿病、がん、脳血管疾患など老化を原因とする特定疾病にかかり、常時介護が必要と認定されれば、介護保険の利用が可能です。

介護保険の場合は、要介護度に応じて介護サービス費の利用限度額が決められています。この限度額の範囲内であれば、収入に応じた1~3割の自己負担のみです。

ただし、介護保険は限度額を超える介護サービスを受けることもできますが、その部分は全額自己負担になります。高額介護サービス費という負担軽減制度もありますが、こちらは保険適用部分を軽減するもので、限度額を超えて負担した分は軽減の対象外です。

とはいえ、それを民間の介護保険でカバーするのはおすすめできません。理由は医療保険と同じです。不安だからと加入しても、要介護状態にならなければ保険はおりません。それよりも、保険料分を預金することを考えましょう。そして、高齢者施設などに入居するリスクに備えて、退職金を取り崩さずに持っていればいいのです。

介護費用の基本は「親は親、自分は自分」

もうひとつ。定年前後に気になるのが親の介護です。今は自分が60代、70代になっても親が存命で、親の介護に自分の老後資金を使わざるを得なくなったという人もいます。

しかし、介護費用の大原則は、親の介護は親のお金、自分の介護は自分のお金でまかなうということです。これは、自分と子どもとの関係にもいえることです。親子でお金の話はしづらいと思いますが、定年前後の年齢になったら、親が元気なうちに介護やお金の話をしておいたほうがいいと思います。

「子どもに迷惑をかけたくない」という思いは、みんな一緒です。であれば、その費用は自分たちで用意するべきです。

図表2のデータをご覧ください。介護にかかる費用は、住居のリフォームや介護用ベッドの購入といった一時的な費用の平均が74万円、月々の費用が平均8.3万円となっています。また、介護期間は平均で61.1カ月ですから約5年ということ。この数字から算出すれば、介護費用は、一人あたり500万~600万円必要だろうということがわかります。ただし、期間は単純な平均ですから、1年未満の人もいれば、10年以上介護が続く人もいます。介護期間の長さに応じて必要な費用も変わります。

【図表】介護に要した費用(公的介護保険サービスの自己負担費用を含む)
※『役所や会社は教えてくれない! 定年と年金 3つの年金と退職金を最大限に受け取る方法』(ART NEXT)より

民間介護保険に加入しても、10万~30万円程度の一時金が1回だけもらえるといったタイプのものが多いようです。また、要支援1・2や要介護1など介護度が軽い場合は、保険がおりないものもあります。そうなると、やはり頼りになるのは退職金ということになるでしょう。

サブスク、通信費、住まい、マイカー見直しのポイント

保険以外にも、数々の無駄が家計にはひそんでいます。

たとえば、スポーツジム、テレビの有料チャンネル、定額制の動画配信サービスなど。使っていないのに会費が口座から自動引き落としになっているものはありませんか?

スマホも、ずっと大手の通信会社一筋ならば、格安スマホなどに乗り換えれば、かなり通信費が抑えられます。どうしてもキャリアを変更したくない場合は、オプションやプランの見直しをしてみてください。とくに昔からずっとプラン変更をしていないという人は、当時より安いプランがある可能性が高いと思います。

そのほか、なんとなく習慣でやめられなくなっている新聞や雑誌の定期購読も、本当に必要かどうか考えてみてください。

これらを見直しただけでも、月に1万~3万円くらいの無駄は減らせるでしょう。

用紙を手に、スマホで電話をかけようとしているシニア女性の手元
※写真はイメージです

また、自家用車を持っている人は「いつまで運転するのか」ということを検討すべきです。定年後の買い替えの回数が1回で済むのか2回必要かでは、一時出費の予算も変わります。車は不要と判断すれば、維持費やガソリン代などでかなりのお金が浮くでしょう。

もっと大きなものでいえば、家の問題があります。今の家をリフォームして住み続けますか? それとも夫婦2人でもっとコンパクトな家に住み替えますか? 仮に自宅を売却し、暮らし方そのものをダウンサイジングすれば、さらにお金を貯えられると思います。

人生を楽しむお金はケチらない

老後のお金の管理は「年金の範囲内に日常生活費を収める」「医療や介護に備えて退職金または貯蓄は取り崩さない」という2つのことを守るだけ。あとのお金は、どう使っても自由です。

とくに、60歳以降に働いて稼いだお金は楽しみに使うための収入です。大いに好きなことに使いましょう。このお金なら世界一周旅行に使おうが、お店のオープン資金に使おうが、自分の勝手です。

「つみたてNISA」などで運用していたお金も、必要なときに必要な分を売却して、使ったほうがいいと思います。

よく、株や投資信託などの値動きがあるリスク資産は、ある程度の年齢になったら、元本割れしない預金などの安全資産に移して管理しましょうといわれます。しかし、そんなめんどうなことはしなくていいのです。

全部の財産を株や投資信託で持つのは危険ですが、必要なキャッシュは退職金でキープしてあるのですから、運用で出た利益も好きなことに使えばいいでしょう。

老後は見栄を張る必要がなくなる

人生を充実させるために使うお金は、無駄な支出や浪費ではありません。ただし、お金を使う前に「自分は何がしたいか」「何がほしいのか」を考え抜くことが必要です。

大江加代『役所や会社は教えてくれない! 定年と年金』(ART NEXT)
大江加代『役所や会社は教えてくれない! 定年と年金 3つの年金と退職金を最大限に受け取る方法』(ART NEXT)

そのうえでお金を使う基準は、自分の価値観で決めればいいと思います。他人に「なぜそんなもの買うの?」といわれても、自分が心底ほしければ気にする必要はありません。

むしろ、老後は、「義理、見栄、恥」のためにお金を使うのはNGです。「義理欠く、見栄欠く、恥欠く」の「サンカク」を実践しましょう。リタイア後は、義理でお歳暮やお中元を贈るとか、見栄をはって高級ブランドのスーツにお金をかける必要はありません。

それらをやめても、誰も気にする人はいないでしょう。自分が気にするほど、まわりはあなたのことを気にしていません。

90歳で全財産を使い切っても一生お金に困ることなし

定年まで勤め上げた人であれば、好きなことにお金を使い、やりたいことをやって、90歳ぐらいまでに財産を使い切ってしまっても、なんの心配もありません。日本では、それでもお金に困ることなく暮らすのはむずかしくないのです。なぜなら、生きているかぎり公的年金が支給されるからです。

90歳にもなれば、今よりずっと生活費も減りますから、年金があれば死ぬまで安泰です。

もちろん、施設入居費ぐらいは最後まで手をつけないほうがいいと思います。それで施設に入らずポックリ逝ったときは、遺言書で配偶者や子どもに相続させるなり、希望するところに寄付するなり、お金の行き先を自分で決めておけばいいのです。

「いい人生だった」と思えるよう、リタイア後は大いに人生を謳歌しましょう。

大江 加代(おおえ・かよ)
確定拠出年金アナリスト
1967年愛知県生まれ。野村証券で一貫してサラリーマンの資産形成業務に携わり、2012年に独立。確定拠出年金の分野においてはわが国の草分け的存在で、厚生労働省社会保障審議会委員、および内閣官房「資産所得倍増分科会」構成員を務める。主な著書は『「サラリーマン女子」、定年後に備える』(日経BP)、『iDeCoのトリセツ』(ソシム)等。テレビやYouTubeでもiDeCoの専門家としてざまざまな番組やチャンネルでコメントをしている。

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