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ピース・又吉直樹の担当編集者が語る秘話 インドの路上からLINEで原稿が<最強の時間割>

  • 2023.1.30
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ピース又吉の担当編集者としても知られる九龍ジョーが登場 (C)TVer
ピース又吉の担当編集者としても知られる九龍ジョーが登場 (C)TVer

【写真】「才能の引き出し方」や「本の素晴らしさ」を学ぶ櫻坂46の武元唯衣と田村保乃

民放公式テレビ配信サービス・TVer初の完全オリジナル番組「最強の時間割〜若者に本気で伝えたい授業〜」が無料配信中だ。1月27日(金)に配信開始となったLesson8では、編集者でライターの九龍ジョーが「本を好きになる授業」を展開した。

敏腕編集者が語る「才能の引き出し方」

「最強の時間割 ~若者に本気で伝えたい授業~」は、さまざまなジャンルのトップランナーが特別授業を実施し、ラランドのサーヤとニシダ、櫻坂46のメンバー、そして学生ゲストが参加。トップランナーたちの授業がアーカイブされることで、TVerに「最強の時間割」が完成するというコンセプトの番組だ。

Lesson8では、編集者兼ライターとして活躍する九龍ジョーが講師として登場。壮絶な転職劇を繰り広げてきた“型破り編集者”による「本が好きになる授業」に、ラランドの2人と、櫻坂46の田村保乃と武元唯衣、虹のコンキスタドールの岡田彩夢が参加した。

九龍が登場するやいなや、「もう、好きなんですよ」と緊張気味のニシダ。実はかなりの読書家で、作家デビューも果たしているニシダにとって、「BRUTUS」や「文學界」など、数々の人気雑誌を担当している九龍は憧れの存在だという。

編集者としてこれまで数多くの名作を世に送り出してきた九龍。そもそも"編集者"という仕事に対して、人々がどんなイメージを持っているのか。「文豪が泊まってる宿まで行って、トントンする」とサーヤが語るように、多くの人は編集者=締め切りを守らせる人というイメージを持っているが、もちろんそれだけではない。まず第一に「その人の最高傑作を作るために、作家のモチベーションを刺激する」ことが、編集者の大事な仕事だと九龍は語る。例えば世の中で流行っているものを雑談の中で伝えたり、時には作家と一緒に音楽ライブに行ったり、作家のスタイルに合わせてコミュニケーションの仕方を変えながら、その人の才能を引き出していくそうだ。

また、学者が著書を出版する場合、一般の人に向けて易しく書くのが難しいときには、編集者が学者から話を聞き筆を執ることも。驚くかもしれないが、実はこの“聞き書き”スタイルは歴史が長く、例えば「新約聖書」はキリストの弟子がその教えを書き記したものだ。100万部を超えるベストセラーとなった矢沢永吉の自伝「成りあがり」も、コピーライターの糸井重里が矢沢へのインタビューをもとに構成したものである。ただ、誰が書いても同じではないそうで、九龍は「意外とそこにも芸があって、下手な人と上手い人で構成も全然差が出る。『成りあがり』は糸井重里さんが書いたから面白くなった」と持論を語った。

ここで、敏腕編集長である九龍に、ライターのバイトをしたことがあるという学生から「文章がうまく書けなくて悩んだときはどうすればいいか」という質問が。九龍はそれに対して、文章には“正解”がなく、その文章がいいか悪いかは自分で判断することができないため、師匠を見つけることが大事だと語る。迷ったとき「あの人だったらどうするか」という風に、その人を通して自分の文章を客観視できるような師匠を見つけること。そして、その師匠にもまた師匠がいて、脈々と続く大きな歴史の中に自分がいると思えば「怖さや不安が和らぐ」のだという。

「最強の時間割 ~若者に本気で伝えたい授業~」に出演するラランドのサーヤ (C)TVer
「最強の時間割 ~若者に本気で伝えたい授業~」に出演するラランドのサーヤ (C)TVer

全てが無駄じゃなかった……驚きの転職劇

今や、本好きの間では広く知られる存在である九龍だが、今の職業にたどり着くまでにはかなりの紆余曲折があったという。実は彼はストレートで出版業界に入ったわけではなく、大学卒業後はテレビ番組の制作会社に入社し、主にドキュメンタリーを撮っていた。しかし、「ドキュメンタリー論」などを読み込み、頭でっかちになっていた九龍は、現場の人たちがラーメンと野球の話しかしないことに腹を立て退職。

そんな中、たまたま築地市場で働いている人たちを見た九龍は「楽しそう」というだけで、市場の仲卸に転職を決める。だが、築地でも「みんな野球の話しかしない」と今度はIT系の広告代理店に就職。それも長続きせず、無職になったときにハローワークで見つけたのがアダルトビデオメーカーの求人広告だった。

アルバイトで入社し、モザイクがけの仕事を担当することになった九龍。動画に手作業でモザイクをかけなければいけないため、12時間やって2分しか進まない気の遠くなる作業を続けた。このままだと目が悪くなり、ひいては大好きな本が読みづらくなると考え「就職が決まったので辞めます」と切り出したが、実際には行くあてなどなかった。

どこに就職するのかを聞かれた九龍は、たまたま目の前にあった雑誌「BUBKA」の刊行元であるコアマガジン(現:白夜書房)の名前を出したという。その流れで同社の面接を受けに行くと、意外な展開に。当時、同社はアダルト雑誌の付録DVDにモザイクをかける作業を外注しており、前職でモザイクがけの仕事をしていた九龍が重宝されたのだ。

モザイクのおかげで出版業界に飛び込んだ九龍が編集者として担当することになったのが、暴力団幹部や闇金業者などの実態に迫るアウトローに特化した情報誌「実話マッドマックス」。もちろんトラブルがつきもので、ある日ともに取材をしていたライターが違法薬物を使用した罪で逮捕され、九龍は自分で原稿を書かなければならなくなった。そのとき、友人につけてもらったペンネームが“九龍ジョー”だったという。すぐに変えるつもりだったペンネームが現在に至るまで、九龍の人生を形作る大事な名前になったのだ。振り返るとかなり異色の経歴だが、「全てが本に繋がっていくということを考えると色んな経験が無駄じゃない」と九龍は語った。

担当編集者からみた作家・又吉直樹

異色すぎる経歴の型破り編集者・九龍ジョーが才能の引き出し方を伝授 (C)TVer
異色すぎる経歴の型破り編集者・九龍ジョーが才能の引き出し方を伝授 (C)TVer

九龍といえば、ピース・又吉直樹初の長編小説「人間」を担当したことでも話題。又吉は編集者である九龍からみて、どんな作家なのか。九龍は又吉が2015年に小説「火花」で第153回芥川龍之介賞を受賞したことを振り返る。当時、お笑い芸人が芥川賞を受賞したことに賛否両論が巻き起こったが、九龍からすれば何も意外なことには感じなかったという。

なぜなら、芸人は小説を書くのに向いている職業だと九龍は考えているから。日々コントや漫才でいくつもの設定を作り、競技人口が多い数々のお笑いの賞レースで戦っている人が「小説を書けないわけがない」と九龍は言う。実際に、月刊文芸小説誌「小説 野性時代」(KADOKAWA)電子版の2022年8月号にはラランド・ニシダによる読み切り小説「遺影」が掲載され、“暗黒青春小説”として話題となった。

ただ一方で、芸人としての仕事もこなしながら原稿を書かなければならないという難しさもある。特に又吉の「人間」は新聞連載だったため、絶対に原稿を落とすわけにはいかなかった。そのため、インドの路上で「アナザースカイ」(日本テレビ系)撮影中の又吉から、LINEで原稿が送られてきたこともあったという。

そんな編集者として様々なピンチを乗り越えてきた九龍が考える“かっこいい大人”とは、「ピンチのときでも笑っている人」。編集者には様々な仕事があるものの、その中で一番比重を占めているのが“トラブル処理”だという。人と濃密なコミュニケーションを取るため、関係性が拗れることも多いが、そういうときにこそ「編集者としての器が問われる」と言う九龍。彼自身もピンチのときに笑えるかっこいい大人を今も目指し続けている。

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