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舞台芸術を新たな視点で楽しめる!おすすめのドキュメンタリー作品を一挙紹介

  • 2023.1.27
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舞台芸術のアーカイブをオンラインで閲覧可能にし、舞台芸術をより身近に、そして未来へつなげる様々な活動を行っている「EPAD」。MOVIE WALKER PRESSはEPADの取り組みに賛同し、スペシャルサイトをオープン。「普段映画を観るように、気軽に舞台を楽しんでほしい!」という想いのもと「初心者におすすめの舞台作品は?」「どんなアーカイブがあるの?」など、舞台芸術の楽しみ方を提案します。

【写真を見る】俳優が「百姓」として生きる「Koji Return」など、興味深いドキュメンタリー作品をまとめて紹介!

2.5次元から実験的演劇作品、伝統芸能、バレエにコンテンポラリーダンスまで。幅広い舞台芸術をカバーするEPADでは、舞台芸術に関するドキュメンタリー作品も扱っている。だがなぜドキュメンタリーなのか。実は、舞台芸術のドキュメンタリーには、作品の上演やその記録映像を見るだけでは十分に触れることができない、舞台芸術の魅力が映しだされている。言い換えれば、ドキュメンタリーを見ることで、舞台芸術をより楽しむための新たな視点を得ることができるのだ。今回は「土地」「人」「背景」の3つの視点とともに、4本のドキュメンタリーを紹介する。

舞台と密接な関わりをもつ“土地を知る”

兵庫県豊岡市で開催されている演劇祭の様子を追った「豊岡演劇祭2022の記録」はVimeoにて配信中
兵庫県豊岡市で開催されている演劇祭の様子を追った「豊岡演劇祭2022の記録」はVimeoにて配信中

舞台芸術の大きな特徴の一つとして、それを体験するためには上演される場所に足を運ばなければならないという点だ。もちろん、アーカイブを通して事後に作品を鑑賞することは可能だが、それでも、作り手と観客がその場所に足を運ばなければ作品が存在することはない、ということは言うまでもない。ゆえに、舞台芸術はそれが上演される場所としばしば密接な関わりを持つことになる。

「豊岡演劇祭2022の記録」は兵庫県豊岡市で毎年開催されている演劇祭の様子を追ったドキュメンタリーだ。城崎温泉など複数の観光地を有し、2021年には芸術と観光を専門的に学べる、芸術文化観光専門職大学が開学した豊岡市。隣接する養父市と香美町を加えた9つのエリアで展開した2022年9月の演劇祭では、97のプログラムが実施され、全国から延べ18250人もの観客が訪れた。カメラは豊岡市街のモダン建築、城崎の温泉街、竹野の砂浜など個性豊かな地域の風景と、そこで上演されるバラエティに富んだ舞台芸術の数々を映しだす。大道芸やダンスで盛り上がり、屋台の出店で賑わう街の様子も楽しい。

地元の子どもたちと作り上げた作品が、農村歌舞伎の舞台で上演されるまでを収めた「但東さいさい_」は1月31日(火)よりYoutubeにて配信開始予定 [c]bozzo
地元の子どもたちと作り上げた作品が、農村歌舞伎の舞台で上演されるまでを収めた「但東さいさい_」は1月31日(火)よりYoutubeにて配信開始予定 [c]bozzo

演劇祭では地域と深く関わる作品も創作、上演された。その一つが京都の劇団・烏丸ストロークロックによる「但東さいさい」だ。ドキュメンタリー「但東さいさい本日開演」には、地域の民話に取材し、地元の子どもたちとともに作り上げた作品が、農村歌舞伎の舞台で上演されるまでの様子が収められている。観客の目に触れることはなかなかないが、上演にいたるまでの人と人との交流もまた舞台芸術の重要な側面だ。

作り手の人となりや生き様など“人を知る”

【写真を見る】俳優が「百姓」として生きる「Koji Return」など、興味深いドキュメンタリー作品をまとめて紹介!
【写真を見る】俳優が「百姓」として生きる「Koji Return」など、興味深いドキュメンタリー作品をまとめて紹介!

舞台芸術の魅力はなにかと問われて、生身の人間が目の前にいることだと答える人は多いだろう。しかしその「生身の人間」のことを観客はどれだけ知っているだろうか。舞台からはうかがい知れない、作り手の人となりや生き様を知ることができるのも、ドキュメンタリーのおもしろさの一つだ。

だが、ドキュメンタリー「Koji Return」は「俳優のドキュメンタリー」と言われて多くの人が想像するものからは大きく異なっている。なぜならこの作品は、劇団FAIFAIに所属する俳優・山崎皓司が地元の静岡に帰郷し「百姓」として生きる様子を映したものだからだ。ここでいう「百姓」とは農家のことではなく(いやその意味も含むのだが)、百の姓、つまりは百の仕事を持つ者を指す。山崎は畑を耕し、狩りをし、友人の仕事を手伝い、物々交換をし、そして俳優として舞台に立ちながらできるかぎり自給自足の生活を営もうとする。「世界全体が幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」という宮沢賢治の言葉を受けて「世界全体の幸福」とはなにかを問い、それを実現するための実践として百姓たらんとする山崎の姿は、チャーミングでありながらどこまでも真摯だ。

作り手の思考や歴史といった“背景を知る”

「ダンスの系譜学 ドキュメンタリー」はU-NEXTにて1月31日(火)より配信開始予定
「ダンスの系譜学 ドキュメンタリー」はU-NEXTにて1月31日(火)より配信開始予定

芸術の楽しみ方は人それぞれ。しかし背景を知ることでより作品を楽しめる場合もある。「ダンスの系譜学ドキュメンタリー」が追うのは「ダンスの系譜学」というコンテンポラリーダンスの企画。世界的に活躍する3名のダンサー、安藤洋子、酒井はな、中村恩恵がバレエの歴史を踏まえたうえでそれぞれ「振付の原点」と「振付の継承/再構築」となる2作品を踊る意欲的な取り組みだ。

バレエ作品「瀕死の白鳥」における白鳥の死因が語られる「瀕死の白鳥 その死の真相」 [c]Naoshi HATORI
バレエ作品「瀕死の白鳥」における白鳥の死因が語られる「瀕死の白鳥 その死の真相」 [c]Naoshi HATORI

たとえば酒井が踊る「瀕死の白鳥 その死の真相」はバレエ作品の小品「瀕死の白鳥」を踏まえた新作なのだが、そこではタイトルの通り白鳥の死因(なんと環境破壊!)が語られることになる。配信されている映像だけでも十分に楽しめる作品だが、作り手の思考や背景を知ることで見えてくるものもあるはずだ。そうして「芸」に対する自らの「目」を鍛えていくことも、舞台芸術を見る愉しみのうちだろう。

舞台芸術の上演には準備のための長い時間が必要であり、舞台の上には決して現れないその時間は、作品それ自体と同じかそれ以上に豊かなものであったりもする。ドキュメンタリーが映しだすその豊かな時間は、見ることにとどまらない舞台芸術の喜びを教えてくれるはずだ。

文/山﨑健太

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