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パリ留学中の和田彩花が語るフランス映画の醍醐味「作られた場所の文化や歴史、作り手のルーツなどが組み合わさっている」

  • 2022.11.30
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映画ファンのための“ここでしか観られない”作品の数々を発信する動画配信サービス「スターチャンネルEX」。現在、“あなたの知らないフランス映画祭”と題して、日本初公開&初配信となる19本の新旧フランス映画を一挙配信中だ。現地から直接買いつけしてきた作品を多数含むファンにはうれしい類まれな特集で、すでに配信している作品と本特集を合わせると、全56本のフランス映画を楽しめる絶好の機会となる。

【写真を見る】「シンデレラ」の舞踏会を男女逆転したら?『ジャッキーと女たちの王国』のおかしくて考えさせられるワンシーン

日本初公開&初配信となる19本の新旧フランス映画を一挙配信する“あなたの知らないフランス映画祭”
日本初公開&初配信となる19本の新旧フランス映画を一挙配信する“あなたの知らないフランス映画祭”

そこで今回、アイドルグループ「アンジュルム」のリーダーとして活躍し、卒業後は芸能活動を続ける傍ら、西洋美術を学び、いまはフランス・パリに留学中の和田彩花が、本特集からおすすめの5作品を鑑賞。「パリにはミニシアターがたくさん集まっている地区があるので、それがすごくうれしいです。気軽に映画館に足を運んで、フランス映画をよく観るようになりました」と話す和田に、ピックアップ作品の見どころやフランス映画ならではのおもしろさ、パリでの生活についても語ってもらった。

和田彩花がフランス映画の魅力を語る [c]YU-Mエンターテインメント株式会社
和田彩花がフランス映画の魅力を語る [c]YU-Mエンターテインメント株式会社

『野獣死すべし』「細かく説明しなくても、想像できたりする余白があるところが魅力」

まず紹介したいのは、ヌーヴェル・ヴァーグの旗手であり、“フランスのヒッチコック”と評された奇才、クロード・シャブロルの監督作『野獣死すべし』(69)。スターチャンネルEXで配信中のドラマ「ビースト・マスト・ダイ/警部補ストレンジウェイズ」と同じ原作にあたる、俳優ダニエル・デイ=ルイスの父で作家のニコラス・ブレイクの小説を映画化した傑作サスペンススリラーだ。

作家の主人公が息子をひき逃げした犯人を追うサスペンス『野獣死すべし』 [c]1969BRINTERCOLTD
作家の主人公が息子をひき逃げした犯人を追うサスペンス『野獣死すべし』 [c]1969BRINTERCOLTD

車のひき逃げ事故により、最愛の幼い息子を亡くした作家シャルル・テニエ(ミシェル・デュショーソワ)。いつまでも犯人を見つけられない警察にしびれを切らした彼は、自ら犯人を捜し出し、復讐することを決意する。黒い手帳に殺人計画を綴りながら、独自の調査を進めていくなか、事故当日に怪しい車を目撃したという人物が現れる。その車に乗っていたのは、ある意外な人物だった。

「ヌーヴェル・ヴァーグを代表する監督の1人とのことだったので、最初は作家性の強い難解な作品なのかなと、ちょっと構えちゃったんですけど、ストーリーもしっかりあって、とても観やすかったです。あるひどい男と家族との関係とか、登場人物たちのキャラクターもすごくリアルに描きだされていました。その男が、詩を書いている妻や繊細な息子のことをバカにするシーンがあるんですけど、私自身アートや本が好きで、自分で詩を書くこともあるので、奥さんや息子さん寄りの気持ちで観てしまいました」と率直な感想を語る和田。

ニコラス・ブレイクの小説を映画化した『野獣死すべし』 [c]1969BRINTERCOLTD
ニコラス・ブレイクの小説を映画化した『野獣死すべし』 [c]1969BRINTERCOLTD

「主人公のテニエが作家という設定なので、文学的な引用があるのもおもしろかったです。引用される言葉自体もすごくきれいで、文学好きな人が観ても楽しめるだろうなと感じました。あとは、テニエが亡き息子との幸せな日々を撮影したフィルムを見ているシーンもよかったですし、ところどころに挟まれる描写がすごく美しい作品でした。特に印象的だったのは、太陽の日差しに反射してキラキラ光る海の上を、ヨットが進んでいくラストシーン。細かく説明しなくても、そこに映っているものだけで、観ているこちらがいろいろ感じたり、想像できたりする余白があるところが魅力です」。

『ようこそ、シュティの国へ』「普段パリで聞いている言葉の発音と全然違って、めちゃくちゃ笑った」

続いては、19世紀から続くフランスの老舗映画会社Pathe(パテ)の日本未公開作品『ようこそ、シュティの国へ』(08)。南仏から、閉鎖的と言われる北部の街へ単身赴任した郵便局員と地元の人々との交流をユーモラスに描いたコメディドラマで、フランスでは歴代興収2位という大ヒットを記録。フランスの国民的コメディ俳優であり、自身もフランス北部出身のダニー・ブーンが監督と脚本を手掛けている。

フランス北部の町に赴任してきた郵便局員と地元の人々との交流を描く『ようこそ、シュティの国へ』 Bienvenue chez les chtis [c] 2008 LA PETITE REINE - PATHE FILMS - TF1 FILMS PRODUCTION - LES PRODUCTIONS DU CH'TIMI –CRRAV
フランス北部の町に赴任してきた郵便局員と地元の人々との交流を描く『ようこそ、シュティの国へ』 Bienvenue chez les chtis [c] 2008 LA PETITE REINE - PATHE FILMS - TF1 FILMS PRODUCTION - LES PRODUCTIONS DU CH'TIMI –CRRAV

南仏プロヴァンスの郵便局長フィリップは、地中海のコートダジュールに異動したいために不正をはたらくも、それがバレてしまい、北部の小さな街ベルグへ単身赴任させられることになる。北部は寒くて閉鎖的というネガティブなイメージを抱いたまま、嫌々その街で暮らし始めたフィリップだったが、北部の訛りの強い言葉や、特有の慣習に戸惑いながらも、地元の人々との交流を通して、しだいに北部の魅力に気づいていく。

「すごく気楽に観られる楽しい映画でした!北部の言葉って、普段パリで聞いている言葉の発音と全然違うんですよね。もうなにを言っているかわからないくらい発音が違っていておもしろかったです。めちゃくちゃ笑いました」と現地で暮らす和田ならではの感想が。その一方で、どの地域でも変わらぬフランスらしさを感じたのは、本作で描かれる“教会の鐘の音”だったという。

「ダニー・ブーン演じる郵便局員の青年が、教会の鐘を演奏するシーンが何度か出てくるんですが、実際にフランスに住んでいると、本当に朝からずっと教会の鐘の音があちこちから聞こえてきます。私も教会美術を鑑賞するためによく教会に行くので、鐘やオルガンの音が好きなんです。その響きをこの作品でも感じられたのがうれしかったですね」。

北部は寒くて閉鎖的という偏見や独特のアクセントがあることを、ブラックユーモアを交えて描く(『ようこそ、シュティの国へ』) Bienvenue chez les chtis [c] 2008 LA PETITE REINE - PATHE FILMS - TF1 FILMS PRODUCTION - LES PRODUCTIONS DU CH'TIMI –CRRAV
北部は寒くて閉鎖的という偏見や独特のアクセントがあることを、ブラックユーモアを交えて描く(『ようこそ、シュティの国へ』) Bienvenue chez les chtis [c] 2008 LA PETITE REINE - PATHE FILMS - TF1 FILMS PRODUCTION - LES PRODUCTIONS DU CH'TIMI –CRRAV

北部に対して偏見を持つ南仏の人たちと、個性的で人情に厚い北部の人たちとの人間関係、そしてすれ違っていた主人公と妻との夫婦関係が少しずつ変化していく様子にも胸がほっこり温かくなる。「日本でもきっと地域によって、雰囲気や人と人との温度感が違いますよね。特に外国の都市部じゃない、地方での慣習や文化を知る機会はなかなかないので、日本でこの映画が観られるのはすごくいいことだと思います」。

※映画会社「Pathe(パテ)」の「e」はアキュート・アクセント付きが正式表記

『ジャッキーと女たちの王国』「男女の立場を逆に描くことで、おかしな点が改めてあぶり出される」

また『ジャッキーと女たちの王国』(14)は、今回の特集のなかでもとりわけ個性的な作品だ。『ようこそ、シュティの国へ』と同じく映画会社パテの配給作品で、“バンド・デシネ(フランス文化圏のコミック)”の作家として知られ、父親がシリア人、母親はフランス人というルーツを持つリアド・サトゥフ監督が手掛けた長編映画の第2作。女性が権力を握る架空の国を舞台に、独裁者の娘との結婚を夢見る青年の奮闘を描くブラックユーモアあふれる作品で、今回が日本初配信となる。

女性が権力を握り、男性が家庭に入ることを求められる架空の国が舞台の『ジャッキーと女たちの王国』 Jacky au Royaume des filles [c] 2013 - LES FILMS DES TOURNELLES – PATHE FILMS – ORANGE STUDIO – FRANCE 2 CINEMA
女性が権力を握り、男性が家庭に入ることを求められる架空の国が舞台の『ジャッキーと女たちの王国』 Jacky au Royaume des filles [c] 2013 - LES FILMS DES TOURNELLES – PATHE FILMS – ORANGE STUDIO – FRANCE 2 CINEMA

架空の国ブブンヌ民主主義人民共和国では、女性が政治や軍事的権力を握り、男性はベールを被って、家事を行っている。20歳の青年ジャッキー(ヴァンサン・ラコスト)は、国中の多くの若い男たちと同様に、この国の独裁者である将軍の娘、大佐(シャルロット・ゲンズブール)と結婚することを夢見ている。そんななか、将軍が娘の結婚相手にふさわしい男を探すための舞踏会を開催することに。

「超おもしろかったです!男女の立場が逆になるという設定は、フランス映画に限らず、最近のフェミニズムの映画だと結構あると思いますが、本作は物語の舞台として、独裁政権みたいな架空の国を作り上げちゃっているところが独創的でした」とかなり楽しんだ様子。

【写真を見る】「シンデレラ」の舞踏会を男女逆転したら?『ジャッキーと女たちの王国』のおかしくて考えさせられるワンシーン Jacky au Royaume des filles [c] 2013 - LES FILMS DES TOURNELLES – PATHE FILMS – ORANGE STUDIO – FRANCE 2 CINEMA
【写真を見る】「シンデレラ」の舞踏会を男女逆転したら?『ジャッキーと女たちの王国』のおかしくて考えさせられるワンシーン Jacky au Royaume des filles [c] 2013 - LES FILMS DES TOURNELLES – PATHE FILMS – ORANGE STUDIO – FRANCE 2 CINEMA

その国の次期トップの結婚相手を探すために、大々的な舞踏会が開かれるというストーリーは、まさに「シンデレラ」のパロディ。「私はジェンダーの問題に関心があるので、もともとシンデレラ・ストーリーもおかしいなと思っていて。この映画では、男女の立場を逆に描くことで、そのおかしな点が改めてあぶり出されるという感じでした。男性の権利がないという描写はコミカルで笑っちゃうけれど、現実社会での問題と地続きになっているんです。もちろん純粋に楽しめるので、これを笑いながら観たあとに、現実でこの男女の関係性を反対にしたらどうだろうか?ということを、ぜひちょっと考えてみてほしいなと思いました」。

『少女は砂漠を越えて』「みんな、いろんなものを抱えながら生きているし、誰もが前向きに生きられるわけじゃない」

『少女は砂漠を越えて』(06)はもう一つの老舗フランス映画会社Gaumont(ゴーモン)から直接買いつけた、ほかでは観られない日本初公開のレア作品。第72回アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされた『キャラバン』(94)のエリック・ヴァリ監督が、アフリカの雄大な砂漠を舞台に描いた少女の冒険物語である。主人公の少女グレースを演じるのは、ヴァリ監督の娘でもあるカミーユ・サマーズ。グレースの父親役を『眺めのいい部屋』(86)で一世を風靡したジュリアン・サンズが好演している。

砂漠で行方不明になった父親を救出しようとする少女の物語『少女は砂漠を越えて』 [c]2005 GAUMONT / LES FILMS DU DAUPHIN / France 3 CINEMA / THE TRAIL LIMITED / CASTEL FILMS srl / MIA FEATURES CC / MIN FILMS
砂漠で行方不明になった父親を救出しようとする少女の物語『少女は砂漠を越えて』 [c]2005 GAUMONT / LES FILMS DU DAUPHIN / France 3 CINEMA / THE TRAIL LIMITED / CASTEL FILMS srl / MIA FEATURES CC / MIN FILMS

14歳のグレースは母親の死をきっかけに、両親が離婚して以来、会っていなかった地質学者の父親に会いにアフリカへ向かう。しかし、再会の喜びも束の間、物資を届けに別の村に向かった父親の飛行機が、悪天候により砂漠に墜落。さらに墜落した場所で、砂漠のダイヤモンドをねらう集団に捕まり、帰れなくなるという事態に。警察の捜索でもなかなか行方をつかむことができないなか、グレースは父の友人であるアフリカ人のカジ(エリック・エブアニー)に懇願し、父を救出するための旅に出る。

「印象的だったのは、ダイヤモンドを採掘する武装集団のリーダーが、グレースのお父さんに『アフリカのどこが好きなんだ?野生の動物か?』って、皮肉交じりに笑いながら言うシーン。すごくハッとさせられました。外国の好きなところを挙げる時に、たとえそれが純粋な自分の探究心からくるものだったとしても、現地で暮らす人たちからすると、ちょっと無邪気すぎることがあるのかもしれないなと…」と振り返る和田。物語は少女の冒険ストーリーだが、そこには多くの“気づき”があったようだ。

14歳のグレースは父の友人であり、訳ありの過去を抱えたカジに協力を求める(『少女は砂漠を越えて』) [c]2005 GAUMONT / LES FILMS DU DAUPHIN / France 3 CINEMA / THE TRAIL LIMITED / CASTEL FILMS srl / MIA FEATURES CC / MIN FILMS
14歳のグレースは父の友人であり、訳ありの過去を抱えたカジに協力を求める(『少女は砂漠を越えて』) [c]2005 GAUMONT / LES FILMS DU DAUPHIN / France 3 CINEMA / THE TRAIL LIMITED / CASTEL FILMS srl / MIA FEATURES CC / MIN FILMS

「相手のルーツや背景に思いを馳せる」というスタンスは、和田がフランスで暮らすようになってから、より強く意識するようになったことの一つだという。「とにかく、(フランスは)いろんな文化が混ざった国だなって、すごく思います。ここで生きているのは、小さいころからフランスに住んでいるという人たちばかりじゃなくて。みんな、いろんなものを抱えながら生きているし、誰もが前向きに生きられるわけじゃない。他人の背景なんてまったく気にしなくても生きていけるような世の中でもあるからこそ、捕まったグレースのお父さんが、元は教師だったという武装集団のリーダーに『お前の過去にいったいなにがあったんだ?』と逆に尋ねるシーンが好きでした。観ている人に、相手の背景を想像させてくれる台詞だと思います」。

『ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地』「家事など、変わらないことを繰り返しているように見えることを、簡単につまらないとは言いたくない」

最後は『ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地』(75)。ベルギー出身で、フランスを中心に活躍した映画監督のシャンタル・アケルマンのオリジナル作品で、日本でも今年、再上映イベントが大ヒットし、再評価の機運が高まっている。アケルマン監督が20代半ばという若さで撮り上げた本作は、フェミニズム映画の傑作と評された貴重な代表作だ。主人公の主婦ジャンヌ役を、女性解放運動の活動家でもあった女優、『去年マリエンバードで』(61)や『ブルジョワジーの秘かな楽しみ』(72)のデルフィーヌ・セイリグが演じている。

ジャンヌはブリュッセルのアパートで、思春期の息子と2人暮らし。毎日様々な家事をこなし、隣人の赤ん坊の子守りを引き受け、買い物へ出かけ、息子の身のまわりを清潔に保っている。規則正しい生活を続けているジャンヌだったが、ある日、その平凡な日常に少しずつほころびが生じていく。

ある女性が日々の家事を行う様子を淡々と映しだす『ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地』 [c] Chantal Akerman Foundation
ある女性が日々の家事を行う様子を淡々と映しだす『ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地』 [c] Chantal Akerman Foundation

家事やジェンダー、セクシュアリティは、アケルマン監督にとって重要なテーマ。本作では定点観測のように設置されたカメラが、ただひたすら、ジャンヌが家事をする様子を淡々と映し続ける。「いままでに観たことがないタイプの映画でした。息子のパジャマを畳んで、枕の下に入れて、ベッドをソファに戻すとか、買ってきた豚肉に溶き卵と小麦粉とパン粉を順番につけて油で揚げるとか。些細な家事の一つ一つに、こんなにも工程があるんだという驚きは、この映画を観た多くの人が感じることだと思います。これを知ったら、主婦の方に『あなたは家にいるんだから、時間があるでしょ?』という言葉は言えなくなると思う」。

上映時間は201分。ラストまでストーリーらしいストーリーはなく、ジャンヌの日常が3日間繰り返されていく。「こういう映画を普段見慣れない人は、退屈に感じるかもしれない。だけど、“退屈”みたいな言葉をこの映画にぶつけてしまうと、それがそのまま、いままで主に女性が担ってきた家の中のことすべてがつまらないことに置き換わるような気もします。変わらないことを繰り返しているように見えることを、簡単につまらないとは言いたくないなと思いました」と強いメッセージ性を感じ取ったようだ。

「政治家シモーヌ・ヴェイユの映画を学校の授業で見せるのはすばらしい」

もともと、「個人的にはシネコンよりもミニシアターで上映される作品のほうが好きだった」と語る和田が、はっきりとフランス映画というものを意識したのは、大学院時代のこと。「美学の先生がフランス映画にとても詳しくて。映画の歴史と絵画との関連性から、授業中にいろいろなフランス映画を見せてくれたんです」と振り返る。

フランス映画では、「ずっと前から『赤い風船』が好き」とのこと。1956年に製作されたアルベール・ラモリス監督作で、第29回アカデミー賞で脚本賞、第9回カンヌ国際映画祭では短編パルム・ドールを受賞している名作だ。「少年と風船の友情を描いたお話で、少年が歩くと、いつも風船が後ろをついてくるとか、普段からずっと一緒にいるとか、言葉ではないコミュニケーションで仲良くなっていくんです。そういう想像力で楽しむ描写を、ファンタジーに振り切った世界ではなく、現実のフランスの街中で撮っているところがすごく好きです。そのパリの街並みがいまとほとんど変わっていないのもフランスならではかもしれないです」。

和田彩花のお気に入りのフランス映画『赤い風船』 [c]Everett Collection/AFLO
和田彩花のお気に入りのフランス映画『赤い風船』 [c]Everett Collection/AFLO

今年2月に渡仏してから10か月が経った。「いまはまず語学の勉強をしています。渡仏当初から美術館にはすごく行っていたんですが、映画館の存在をすっかり忘れていて。ある日、授業で先生が『みんなで映画館に行こう!』と言って、映画館に連れて行ってくれたんです。その時、政治家シモーヌ・ヴェイユに関するフェミニズムの映画を観て、こういう映画を学校の授業で見せるのはすばらしいなと思いました。それで、もっとフランスの映画館を活用すればいいんだと気づくことができて、何度も通うようになりました。フランスの映画のチケット料金は大体7ユーロ(約1,010円)前後。日本よりもオトクなので、より気軽に観られるんですよ」とパリでの日々も明かしてくれた。

「なぜこういう映画が作られたんだろうと考えるだけでも、その国の文化を知ることにつながっていく」

フランスに来たことで、「日本にいた時にはわからなかった、いろいろなものが見えてきた」と和田は語る。「いろんな事情があって、いろんな国から来た人たちが住んでいる。私のように普通の留学というのは、わりと平和でのほほんとしているほうなんです。移民の方も多いし、みんな本当に必死に生きているので。日本にいる人たちは、フランスに対して、街並みがきれいとか、おしゃれとか、キラキラしたイメージを持っていて、私がフランスに留学していると言うと『すごーい、すてき!』とか言ってくれるんですけれど、実際はそうじゃない部分もたくさんある。いろんな人がいて、いろんな文化がある場所だということは、今回挙げた作品を観るだけでも充分に感じてもらえると思います」。

最後に、フランス映画にあまりなじみのない人たちのために、フランス映画を楽しむコツを聞いてみた。「旅行が好きな人や、海外の文化を知りたい人って多いですよね。映画に限らず、アート全般に言えることだと思いますが、私は外国で作られた作品を観ることは、異文化を知ることにつながると考えています。作品は作られた場所の文化や歴史、作り手のルーツなどが組み合わさってできているものですから」と説明。

ベルトラン・タヴェルニエ監督が、映画や監督について語りながらフランス映画史を旅するドキュメンタリー『フランス映画への旅』(「ゴーモン・セレクション」より) [c]2016 Little Bear Productions / Gaumont / Pathe Production+++
ベルトラン・タヴェルニエ監督が、映画や監督について語りながらフランス映画史を旅するドキュメンタリー『フランス映画への旅』(「ゴーモン・セレクション」より) [c]2016 Little Bear Productions / Gaumont / Pathe Production+++

また、映画はエンタメでもあるので、娯楽としてのおもしろさを求めるのも当然の心理ではあるが、「フランス映画の場合、その楽しさに気づくのは一度観ただけでは難しいかもしれないです。だけど、仮につまらないなと思うことも、一つの発見だし、なぜこういう映画が作られたんだろうと考えるだけでも、それがその国の文化を知ることにつながっていきます。だから、コロナ禍でなかなか旅行ができないなとか、外国の文化をちょっと覗いてみたいな、という気持ちがある人は、ぜひフランス映画にたくさん触れてほしいです!」。

ジャック・ドゥミ監督の遺作となったミュージカル映画『想い出のマルセイユ』(「パテ・セレクション」より) [c] 1983 - PATHE RENN PRODUCTION
ジャック・ドゥミ監督の遺作となったミュージカル映画『想い出のマルセイユ』(「パテ・セレクション」より) [c] 1983 - PATHE RENN PRODUCTION

今回のスターチャンネルEXの“あなたの知らないフランス映画祭”は、ここで紹介した5作品以外にも、クロード・シャブロル監督特集のほか、19世紀から続くフランスの老舗映画会社パテの作品をフランス在住の映画ジャーナリスト、林瑞絵がセレクトした、『シェルブールの雨傘』(64)などで知られるジャック・ドゥミ監督の『想い出のマルセイユ』(88)など貴重な本邦初公開作品が集まっている「パテ・セレクション」、もう一つの老舗フランス映画会社ゴーモンから直接買いつけした『フランス映画への旅』(16)などの「ゴーモン・セレクション」といった注目の特集が集まっている。その他、スターチャンネルEXでは、9月に急逝した巨匠ジャン=リュック・ゴダール監督の代表作など単品映画も数多く、『勝手にしやがれ』(59)や『気狂いピエロ』(65)を筆頭に、初心者からマニアまで楽しめる大充実のラインナップを配信中。この機会に、気になる作品を自由にめぐりながら、フランス映画の魅力をたっぷり堪能してほしい。

取材・文/石塚圭子

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