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「寒くなると気分が落ち込む」放置すると危ない"冬季うつ"2つの意外な兆候

  • 2022.11.21
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気温が下がり、日照時間が短くなると増える「冬季うつ」。産業医で精神科医の井上智介さんは「一般的なうつとは反対に、冬季うつは過食と過眠の症状が特徴。春になると症状がおさまることが多いが、本格的なうつに移行することがあるので注意が必要です」という――。

ベッドから出られずに葛藤する女性
※写真はイメージです
体がエネルギーを蓄えようとする

秋から冬に入る気温差の激しいシーズンは、自律神経が乱れやすくなります。人間は、常に体温をキープし、調整していかなければならないので、気温差が激しくなるほど自律神経が活発に働き、その分体に負担がかかり、疲労もたまるのです。

また冬になると、人間の体もほとんどの動物と同じように、厳しい寒さを乗り越えるための生理的な反応として、エネルギーを蓄える行動に移ります。眠気が強くなったり、カロリーの高いものが食べたくなったりするのはこのためです。

さらに冬は日照時間が短くなるので、意欲を高めたりする作用があり「幸せホルモン」とも呼ばれる脳内の神経伝達物質、セロトニンが作られにくくなってきます。日光はセロトニンの分泌を促す作用があるからです。そのため体内時計が乱れて、朝シャキッと起きられない、何事にも意欲が出ない、気分が落ち込み、ふさぎがちになる……といったことが起こります。

こうした変化は誰にでも起こりますが、症状がひどくなり、仕事や家事など日常生活に支障が出てしまうときは、冬季うつを疑うことになります。

「睡眠」と「食欲」に特徴

冬季うつは、正式には「反復性うつ病性障害」の一つである「季節性感情障害(SAD)」と呼ばれます。「うつ」というぐらいですから、一般のうつ病と同じように、気分が落ち込む、疲れやすい、何をするにもおっくう、今まで楽しめていた趣味や気分転換が楽しめない、思考力や集中力がにぶる、といった症状が出てきます。

ただし一般のうつの症状と明らかに違うのが「睡眠」と「食事」です。うつ病は眠れない、寝つきが悪いといった「不眠」の訴えが多く見られますが、冬季うつは、冬になると寝過ぎるという典型的な症状に輪をかけて、さらに寝てしまう「過眠」といった症状があらわれます。患者さんの中にも、夜8時や9時ごろから眠くなって寝てしまい、朝になってもなかなか起きられないという方がいらっしゃいます。

また、一般的なうつだと食欲がなくなって体重が落ちることが多いですが、冬季うつは、カロリーの高いものが食べたくなる、炭水化物を食べ過ぎるなど、過食になり、体重が増える傾向があります。

1日1時間は日の光を浴びる

冬季うつの治療は、抗うつ薬を使うこともありますが、それはまれで、まず生活習慣を改善するアドバイスをします。注意事項は大きく3つあり、これはそのまま冬季うつの予防にもつながります。

1点目は「日光を浴びる」です。先程もお伝えした通り、冬は日照時間が短く、セロトニンが作られにくくなります。ですから、特に朝、起きたときに10分間、顔いっぱいに日光を浴びるようにします。

ただし、冬は日の出の時刻が遅くなるため、朝日を浴びることが難しいこともあります。その場合は、1日に合計1時間は太陽の光を浴びるようにします。終日オフィスで過ごす人は、少し工夫が必要です。例えば通勤のときに、普段使う最寄りの駅でなく、1駅遠くの駅まで歩く。雨が降っていない日は昼休みに外に出て、公園でお弁当を食べる。細切れでもよいので、足し算をして1日1時間は日光を浴びましょう。

窓辺で冬の朝日を浴びる女性
※写真はイメージです
セロトニンのもとになるトリプトファンを取る

2点目は「タンパク質をとる」です。寒くなるとつい、ご飯やパン、麺類などの炭水化物を取りがちですが、炭水化物よりもタンパク質を取ることを心がけます。特に、セロトニンを作るための食事を意識しましょう。

タンパク質の中でも特に、セロトニンを作る過程で必要なトリプトファンという必須アミノ酸がたくさん含まれたものを取るようにします。トリプトファンが多く含まれるのは、豆腐や納豆、味噌といった大豆製品、そしてチーズや牛乳、ヨーグルトなどの乳製品など。

さらに、同時にビタミンB6を摂るとセロトニンが作られるスピードが速くなります。ビタミンB6は、マグロやブロッコリー、バナナなどに含まれています。特にバナナには豊富に含まれるので、朝食はバナナヨーグルトをおすすめしています。朝食を作るのが面倒という人も、バナナヨーグルトなら、バナナの皮をむいてヨーグルトを入れるだけなので簡単です。

「2番目に近いところ」を使う

3点目は「体を動かす」です。過眠になりがちだからこそ、日中はしっかりと動いて体を疲れさせると、質の良い睡眠を得られます。また血流アップや自律神経を整えることにもつながります。

ただ、いきなりウオーキングや筋トレを始めるのはハードルが高いと思います。まずは朝、起きたときに布団の中で伸びをする、布団から出て水を飲むなど、家の中でできることからスタートするとよいでしょう。

また、テレビやスマホを見るときは、寝転ばず椅子に座る。外を歩くときは、だらだら歩くのではなく早歩きや大股歩きをする。できるだけエスカレーターやエレベーターを使わず、階段を使う。こうして、日常生活の工夫をします。

「2番目に近いところ」を使うのも効果的です。例えば、オフィスでトイレに行くときは、一番近いところではなく、2番目に近いトイレを使う。買い物も、一番近いスーパーではなく、2番目に近いスーパーを利用する。車を使う人なら、あえて少し離れた駐車スペースに止める。こうした工夫で、日常の活動量を増やすことができます。

冬季うつは、春が近づき暖かくなると自然に良くなることが多いですが、そのまま悪化して本格的なうつに移行することもあります。ですから「どうせ暖かくなればよくなるから」と放置せず、さきほど挙げた3点に気を付けて生活習慣を改善し、予防してほしいと思います。

子どもも「冬季うつ」になる

冬季うつは、大人だけでなく、子どもがなることもあります。もともと子どもは、大人に比べて自律神経の調整が苦手です。10月ごろから調子を崩す子どもが出てきますが、1年のうちでも2学期は長いので、なかなか休んで回復する機会がないままになってしまうのです。

症状は、大人と同様に、疲れやすい、思考力や集中力がにぶる、元気がない、夜早く眠くなって寝るのに朝なかなか起きられない、すぐにお腹がすいてお菓子などの間食をするようになる、などがあります。

保護者ができるケアとしては、やはり先ほど挙げた3点がポイントになります。できるだけ日光を浴びるように、一緒に出かけたり、運動するよう声をかけたりしましょう。

食事については、保護者がある程度コントロールしてあげましょう。家にお菓子を置いておくと、子どもはつい食べ過ぎてしまうので、なるべく買い置きをしないようにしたり、低カロリーでトリプトファンが豊富なものを選ぶようにするとよいでしょう。

構成=池田純子

井上 智介(いのうえ・ともすけ)
産業医・精神科医
産業医・精神科医・健診医として活動中。産業医としては毎月30社以上を訪問し、精神科医としては外来でうつ病をはじめとする精神疾患の治療にあたっている。ブログやTwitterでも積極的に情報発信している。「プレジデントオンライン」で連載中。

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