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「まずは学校の準備を見るだけでよい」暴力をふるうようになったわが子に親ができること

  • 2022.11.15
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わが子が勉強に対して苦手意識を持ち、イライラして暴力的になってしまった場合にはどうすればよいか。信州大学医学部子どものこころの発達医学教室教授であり、同附属病院子どものこころ診療部部長の本田秀夫さんは「大事なのは標準を狭くしすぎないで、子どもに合った学び方を柔軟に考えること、そして、子どものモチベーションを大事にすることだ」という――。

※本稿は、本田秀夫『学校の中の発達障害 「多数派」「標準」「友達」に合わせられない子どもたち』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。

子どものイライラの原因は「勉強」であることが多い

児童精神科では子どものメンタルヘルスに関する相談を受けているわけですが、話を聞いていくと、お子さんの勉強に関する悩みが出てくることが非常に多いです。

例えば、幼稚園や小学校低学年の頃から本を読むことや勉強があまり得意ではなかったお子さんが、それでもがんばってやってきたけれど、小学3年生くらいになって、いよいよ勉強がつらくなってしまった、というような話がよくあります。

Frustrated
※写真はイメージです

親御さんも先生も「この子は勉強が苦手だな」ということはある程度、わかっていた。でも本人もがんばっていたので、一生懸命にサポートをしてきた。それが段々とうまくいかなくなって、子どもが授業中にイライラしたり、宿題をひどく嫌がるようになった、という話です。年齢が上がってくると、大人に対して反抗的な態度をとる子もいます。中には親に暴力を振るうようなトラブルもあります。

そういう状態の場合、親御さんは「子どもの暴力に悩んでいる」ということで、私たちのところに相談にきます。よく話を聞いていくうちに、背景に勉強がらみの衝突があることがわかってくるのです。

子どもが、勉強が苦手でイライラして、暴力的になってしまっている場合、親と先生には何ができるでしょうか。

暴力が出るような状態になったとき、どうやって子どものモチベーションを引き出せばよいでしょう。

みなさんはどう思いますか?

親ができること:子どもを苦しめている原因を考える

勉強関連で悩んでいる親御さんは、子どもに勉強させることを自分の義務のように感じている場合があります。子どもが社会に出るまでに、ある程度の学力をつけさせなければならないと考えていても、うまくいかなくて悩んでいるのです。そのせいで子どもを何度も叱ってしまって、反抗されてトラブルになり、苦しんでいるわけです。

私はそういう親御さんに「最初から攻撃性を持って生まれてくる人はほとんどいない」という話をします。子どもは、基本的には「誰かを攻撃したい」と思っているわけではありません。それでも暴力を振るってしまうということは、誰かから理不尽な仕打ちを受けて、それに反抗して身を守っているのだと考えられます。私はそのようなことをお伝えして、親御さんに心当たりがあるかどうかを聞きます。

すると、中には「自分が追い込んでいるかもしれない」と言う人もいます。理不尽に勉強を押し付けてしまったかもしれないと感じる人もいるのです。また、学校の勉強や宿題が難しすぎるということに気づく人もいます。

【図表1】困りごと 勉強が嫌で、暴力的になっている子
本田秀夫『学校の中の発達障害 「多数派」「標準」「友達」に合わせられない子どもたち』(SBクリエイティブ)より
子どもを「追い込んでいるのではないか」という視点を持つことが重要

勉強に関連して暴力が起きている場合には、「追い込んでいるのではないか」という視点を持つことが重要です。暴力が起きるということは、勉強をめぐる出来事の中に「理不尽な仕打ち」が発生している可能性が高いです。どこが理不尽なのかを考え、子どもをそれ以上追い込まないようにする必要があります。「どうやってモチベーションを引き出すか」の前に、「どうしてこの子のモチベーションは消えてしまったのか」を考える必要があるわけです。

黒板にチョークで書かれたHOMEWORK
※写真はイメージです
親ができること:無理させずにできそうなことを一つ、やってみる

おそらく読者の方の中にも「勉強のことで、子どもに厳しくしすぎたかもしれない」と感じる人がいるかもしれません。そう感じた場合には、子どもの学習環境を見直しましょう。勉強関連で子どもにそれ以上、無理をさせないようにしてください。

本田秀夫『学校の中の発達障害「多数派」「標準」「友達」に合わせられない子どもたち』(SBクリエイティブ)
本田秀夫『学校の中の発達障害 「多数派」「標準」「友達」に合わせられない子どもたち』(SBクリエイティブ)

「子どものためにやり方を変えよう」と思ったとき、本記事がきっと役に立つはずです。

大事なのは標準を狭くしすぎないで、子どもに合った学び方を柔軟に考えること、そして、子どものモチベーションを大事にすることです。

具体的なポイントをいくつも紹介してきました。できそうなことを一つでもよいので、実践してみてください。まずは子どもの学校の準備を観察するだけでもかまいません。よく観察すると、いろいろなことの見え方が変わってくると思います。そういう工夫を積み重ねていけば、状況は少しずつ変わっていくはずです。

先生ができること:宿題の量や難易度を調節する

学校の先生ができることも、基本的には同じです。先生も、子どもに対して理不尽な課題を出していないかどうかを考えましょう。

宿題が多すぎたり難しすぎたりして、子どもを苦しめてしまっている場合には、量や難易度を調整してください。できないことを何度もやらされた子は「何も学べていない」「何も楽しくない」と感じてしまいます。そのままでは、学校に通うモチベーションを維持できなくなる可能性があります。

授業や宿題について見直せるところがあれば、柔軟に変えていきましょう。少しの調整によって、子どもがまた意欲を持てる場合もあります。ただ、本記事の内容を何もかも実践しようとすると、今度は先生が追いつめられてしまうかもしれません。先生も無理をせずに、できることをどれか一つ実践することから始めましょう。

協力してできること:気づきを伝え合い、子どもをサポートする

親と先生がどちらも子どもに無理をさせないようにして、学習環境を見直していけば、状況は改善していくでしょう。何か気づきがあれば、お互いに伝え合うようにするのもよいと思います。例えば学校で先生が「この子はこういうやり方が得意なんだ」と感じたとき、それを親に伝えれば、親も子どもに対する理解が深まります。親と先生で連絡を取り合い、授業や宿題を調整していけたら、子どもの学びやすさは大きく向上するはずです。そのような協力を心がけてもらえればと思います。

親としては、「勉強がうまく進まないくらいで学校に相談するのは、やりすぎかもしれない」と感じるかもしれません。しかし、子どもの学習環境を整えるためには、学校との情報交換が必要な場合もあります。「宿題に苦労している」といった話しやすい話題から始めて、様子を見ながら学校との相談を検討してみてください。

学校の先生には、親からの相談をクレームだととらえずに、話を聞くようにしてほしいと思います。家庭との情報交換によって、子どもの得意なやり方やその子をサポートするコツがわかり、授業を組み立てやすくなる場合もあります。

握手した手の上を渡る小学生のイラスト
※写真はイメージです
協力してできること:状況が良くならない場合は特別支援教育の検討を

ただ、家庭と学校で相談し、いろいろと調整をしても、状況がなかなか良くならないこともあると思います。例えば子どもに学習障害や知的障害があり、親や先生にはその詳細がわからず、よい対応法がなかなか見出せないという場合もあります。

環境を整えてみても子どもが苦労しているという場合は、私たちのような専門家に相談するのもよいと思います。中にはそのような相談をきっかけにして発達障害に気づき、特別支援教育の利用を検討する人もいます。

本田 秀夫(ほんだ・ひでお)
信州大学医学部 子どものこころの発達医学教室教授・同附属病院子どものこころ診療部部長
特定非営利活動法人ネスト・ジャパン代表理事。精神科医師。医学博士。1988年、東京大学医学部医学科を卒業。東京大学医学部附属病院、国立精神・神経センター武蔵病院を経て、横浜市総合リハビリテーションセンターで20年にわたり発達障害の臨床と研究に従事。発達障害に関する学術論文多数。英国で発行されている自閉症の学術専門誌『Autism』の編集委員。2011年、山梨県立こころの発達総合支援センターの初代所長に就任。2014年より、信州大学医学部附属病院子どものこころ診療部部長。2018年より現職。日本自閉症協会理事、日本自閉症スペクトラム学会常任理事、日本児童青年精神医学会理事。著書に『自閉症スペクトラム』『発達障害 生きづらさを抱える少数派の「種族」たち』(ともにSB新書)などがある。

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