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【連載】「MINAMOの話をきいてミナモ?」 第8回 元汚部屋住人の三度の気づき

  • 2022.10.30
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いま人気急上昇中のAV女優、MINAMOが愛する映画や本、音楽、さらには自身の様々なことを語る連載「MINAMOの話をきいてミナモ?」。第8回は、汚部屋に住んでいた過去を持つMINAMOが質の良い生活について語ります。

【画像を見る】元汚部屋住人のMINAMOが質の良い暮らしとは何かを考えてみた

正直に言う。私はかつて汚部屋住人であった

【画像を見る】元汚部屋住人のMINAMOが質の良い暮らしとは何かを考えてみた 撮影/SAEKA SHIMADA ヘアメイク/上野知香
【画像を見る】元汚部屋住人のMINAMOが質の良い暮らしとは何かを考えてみた 撮影/SAEKA SHIMADA ヘアメイク/上野知香

便利な物が次々と現れる世の中に感謝しながら、便利グッズなるものにハマっている私はインターネットで「QOL」という言葉を見つけた。いったい何やそれはと思った私はさっそくGoogle先生に聞いた。そうするとそれは「クオリティ・オブ・ライフ」の略であった。直訳すると「生活の質」だそうだ。

QOLが注目される主なきっかけとなったのは、働き方改革と健康経営だそうだが、今では「#QOL向上」とInstagramで使われるほどでより身近なものとなった。生活の質を上げようにも、生きているだけで身も心も消耗するのだからそんなうまくいく話ではないな、などとぼやきながら私は「質の良い暮らしってなんだろうか」と考え出した。毎朝白湯を飲み、ヨガをする。野菜を育て、サラダに入れたり天ぷらにしたりする。身体をいたわり、食にこだわる、掃除は隅から隅まで綺麗にし、趣味を楽しむ。これがおおよその「質の良い暮らし」ではなかろうか。

正直に言う。私はかつて汚部屋住人であった。何をもって汚部屋というのかは分からない。だが、いろんな人が私の部屋を見て汚部屋だと言ったのだからそうなのだろう。足の踏み場がない床に、物が積み重ねられすぎてミルフィーユ状態の机の上、もはやどれがゴミか分からない。部屋をきれいにするために買った物すら放置し、ただ物が増えただけになる。腐ったゴミも部屋の中にあったが、そもそも部屋が汚すぎて気がつかない。そんな部屋に住んでいた。今思い返せば、確かに汚部屋としか言いようがない。

“三度の気づき”によって汚部屋生活から脱出したMINAMO 撮影/SAEKA SHIMADA ヘアメイク/上野知香
“三度の気づき”によって汚部屋生活から脱出したMINAMO 撮影/SAEKA SHIMADA ヘアメイク/上野知香

数えきれないほど、人に部屋が汚いと言われても何とも思わなかった私だが、今何故変わったのかは分からない。思い当たることはただひとつ。好きな人を部屋に入れた時、なんとカップラーメンが腐っていたのだ。その人はさぞびっくりしたであろう。だが彼は何も言わずにその腐ったカップラーメンを片付けてくれたのだ。そこで私はようやく羞恥心というものが芽生えた。遅すぎやしないか。汚部屋住人はこの後、三度の気づきを得て生活の質に向き合うこととなる。

自分に合わないことをしてもQOLは上がらない

 大好きな本や映画がMINAMOの生活を変えた 撮影/SAEKA SHIMADA ヘアメイク/上野知香
大好きな本や映画がMINAMOの生活を変えた 撮影/SAEKA SHIMADA ヘアメイク/上野知香

自分の自堕落な生活にようやく羞恥心を覚えたのち、私は図書館で「西の魔女が死んだ」という小説を見つけた。中学1年生のまいという少女がある事がきっかけで不登校になり、母方の祖母の家に預けられる。祖母との生活の中で、たくさんの教えや知恵を身につけてまいは大きく成長する。

手作りのジャムに、ラベンダーの上に干した布団。ここに描かれている丁寧な暮らしぶりを見て私はハッとさせられたのだ。今までの生活はなんだったのだと。まいの祖母の口から語られる、しかる訳でもなく、甘やかす訳でもない優しい言葉に癒され、自然と共に生きるその暮らしぶりに魅せられた当時の私はすっかり目が覚めた。こんなふうに丁寧に生きたい、と。今思い返せばその時の私はまいの祖母の言葉を理解したようでしていなかった。ただ「憧れ」の念を持つばかりだった。

主人公のまいが、自らを魔女と呼ぶおばあちゃんとの生活を回想する「西の魔女が死んだ」 「西の魔女が死んだ」著/梨木香歩 新潮文庫刊
主人公のまいが、自らを魔女と呼ぶおばあちゃんとの生活を回想する「西の魔女が死んだ」 「西の魔女が死んだ」著/梨木香歩 新潮文庫刊

そんな、"目覚めたつもり"の私は質の良い、丁寧な暮らしを送ろうと、意気込んでいろんな挑戦をしてはことごとく失敗した。早寝早起きはもちろんのこと、ベッドメイキングや毎日の水回りの掃除、朝のウォーキングなど。どれも見事に続かなかった。未だに続かないのは日記である。最初に紙の日記を諦めた私はアプリの日記に挑戦した。だがそれすら続かず、毎日24時に「今日の出来事を一言だけでも書いてみましょう」とアプリから通知が来る始末である。だが私はそんなことで屈する女ではない。今もなお日記アプリの奴は私のスマホにいるが、24時の通知で一日の終わりを教えてくれる便利なアプリと化している。自分に合わないことをしてもQOLは上がらないことを学んだ。

荻上直子監督によって映画化もされた「かもめ食堂」 「かもめ食堂」 著/群ようこ 幻冬舎文庫刊
荻上直子監督によって映画化もされた「かもめ食堂」 「かもめ食堂」 著/群ようこ 幻冬舎文庫刊

そんな折、小説「かもめ食堂」に出会った私は、またハッとさせられる。豊かな食生活を芯とし、地に足のついた生活を築いてゆく主人公サチエの魅力に囚われたのだ。フィンランドでのゆったりと流れるように送られる日常は読んでいて心地よい世界に浸れる。そして、内側ばかりに向いていた私の狭い視野を広げてくれた。力んで生きなくても、美味しいご飯を食べて、近くにいる人を大切にする。それが一番幸せじゃないかと、生きる良さをこの本の緩やかな文章と共に教えてもらったのだ。質の良い暮らしをするためにどれだけいろんなチャレンジをしたとして、失敗ばかりなはずである。早起きも日記も掃除も、やりたくてやったことではない、私が自分自身に課した課題と化してしまっていたのだから。

MINAMOが敬愛するジム・ジャームッシュ監督作『パターソン』 [c]Bleecker Street Media /Courtesy Everett Collection / AFLO
MINAMOが敬愛するジム・ジャームッシュ監督作『パターソン』 [c]Bleecker Street Media /Courtesy Everett Collection / AFLO

次に気づきを与えてくれたのは、私が心酔するジム・ジャームッシュ監督の映画『パターソン』(16)。バス運転手のパターソンが送る七日間がただ淡々と流れるこの映画は、文字どおりただ一人の男の日常を同じ視点で、7回観るだけの作品である。三度目の正直。私はまたまたハッとしたのだ。同じ調子で繰り返されるパターソンの毎日だが、小さなことから大きなことまで彼が何に幸せを感じているのかが、見て取れる。変わり映えしない日常であったとしても、視点が変わるとこんなにも世界は美しいのだと考えさせられる。このように、この映画からはたくさんのことを教えてもらった。

日常の小さなことが幸せと思えるようになった今の私の生活は、質の良い暮らし進行形

「日常の小さなことが幸せと思えるようになった」と語る 撮影/SAEKA SHIMADA ヘアメイク/上野知香
「日常の小さなことが幸せと思えるようになった」と語る 撮影/SAEKA SHIMADA ヘアメイク/上野知香

いつのまにか汚部屋を脱出した私は、毎朝3つの大きなおむすびと昆布、梅干し、海苔を代わる代わる食べ比べし、味噌汁をすする。たまに朝9時に開店したばかりのパン屋に行き、焼きたてのクロワッサンを持ち帰る。キャンドルに火を灯し、大好きな小説の世界に入る。カーテンを開ければすぐに感じられる四季と、物は多いかもしれないが、大好きな人たちとの思い出と、愛してやまない数々のアーティストがこの世に生み落とした素晴らしいモノや音に囲まれて生きる毎日は幸せ以外のなにものでも無い。

そんな日常の小さなことが幸せと思えるようになった今の私の生活は、質の良い暮らし進行形と言えるであろう。何をし、どこへ行けば自分が幸せかを知ることができた。さらにそれが今の自分にとってベターであることが大事なんじゃないかと思う。そう思えるようになったのは、私の心が少しばかり成長して部屋の片付けだけでなく、頭の中が整理できるようになったからかもしれない。

皆、毎日を必死に生きているのだ。他人が聞いたらくだらないと笑われるような悩みにも、頭を抱えるほど悩んでいる。世界で一番不幸だと思う瞬間もある。何のために生きているのかすら分からなくなることもある。けれど、お金がなくても、友達がいなくても、大切な人と別れても、将来の夢がなくても、何も無くても大丈夫なのだ。自分が生きてさえいれば。気が向けばQOLでも上げるか、くらいでいい。

真心ブラザーズの「のりこえるの歌」を聴きながら、最近ちょっとばかり忙しい私は味噌汁をほっこりとすすりながら、汚部屋の景色を時々思い出している。

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