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「男のアダルト雑誌は、女の生理用品と同じくらい必需品」こんな比較がまかり通るほど貧弱な日本の性教育

  • 2022.10.30
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最近、性教育が変化してきており、男性が生理を学んだり、女性もあらためてよく知ろうという動きが出てきている。前回も「女性の性欲」について書いた漫画家の田房永子さんは「相変わらず『生理が訪れる体を持つ女性』と『生理について知らない男性』の溝は深いが、その背景には、性教育で『男性には性欲があるが、女性にはほとんどない』かのように教えられてきたことがあるのではないか」という――。

黒板いっぱいの疑問符の前で考える男女
※写真はイメージです
生理用品と成人向け雑誌を同列に語るツイートに「1.5万いいね」

2016年、「被災地の避難所へ生理用品を運んだら高齢男性に『こんな非常事態に不謹慎だ』と受け取りを拒否された」という話がSNS上で出回りました。

この話に登場する「生理を性欲的な何かだと思ってるおじいさん」は実在するのかしないのかに注目が集まり、ニュースサイトが検証した結果、「この話自体が事実ではない」という結論になっていました。

しかしこの架空の「生理を性欲的な何かだと思ってるおじいさん」を通して、多くの女性の中にある「生理の話が男性に通じなかった時のエピソード」が呼び覚まされ、SNSにたくさん書き込まれました。

「そういう男性がいてもおかしくはない。むしろありえる」と思えるからこそ、「ありえない」で終わらず「本当にいるかどうか」の検証がされたのではないでしょうか。

【イラスト】“生理用品返しじいさん”により召喚されし、生理についてトンチンカンなこと言ってた男の記憶

2019年に大手コンビニ3社が成人向け雑誌の販売を中止すると発表した時も、Twitterでは「(エロ本をコンビニで売ることが女性の人権の軽視と言うなら)ドラッグストアで堂々と生理用品を売っていることは男性軽視なのでは?」という、男性向け成人雑誌と生理用品を同列に語るツイートに1万5000「いいね」が集まりました。

そのツイートに賛同する方のコメントを読んでみると「男は精子が溜まると放出しなければいけないんだ、男にとってエロ本は生理用品と同じくらい必需品なんだ」と書いてありました。

それを言うならエロ本ではなくティッシュでは? いや、ティッシュはその時のためだけのものじゃないし……。

ツッコミどころが満載すぎる上にいろいろ間違っている。だけどイチから説明しても理解してもらえなさそう。1.5万も「いいね」されてるし。

「生理について知らない男性」との深い溝

閉口してしまうほど「生理が訪れる体を持つ女性」と「生理について知らない男性」の溝は複雑に深い。

でもその原因を追究すれば、「学校での生理についての指導の時、男子を別にしていたからだ」という答えに1秒足らずでたどり着きます。

男たちが生理について詳しく知らないことによって、女たちが苦労し面倒なことになる。

2010年代後半のネット上のこうした話題は、その事実がハッキリと可視化した瞬間でもあったのではないでしょうか。

この頃から「男性も生理について知ろう、女性も改めて学ぼう」という動きが表立つようになってきたように思います。テレビやラジオで生理特集が組まれるようになりました。

最近は小学校で男女一緒に生理についての授業を受けたり、生理用品の会社からサンプルが配られたりもします。小学生向けの漫画雑誌には「生理について」の冊子が付録で付いていて、子ども向けの生理に関する書籍もたくさん出ています。

生理の授業がある男子校のニュースが流れるようにもなって、現在の性教育は目まぐるしい変化が起こっていると感じます。

生理と射精を“対”にして教えることの弊害

生理をタブーにしない、という部分は進化した一方、「『生理』と『射精』を男女の“対”にして教える」というのは、いまだに性教育の定番であるように思います。

学校や教員、地域によって違いはあると思いますが、私が去年見た東京の公立小学校の性教育で配られた一枚のプリントは、表に「生理」、裏には「射精」の解説が印刷されていました。

この「生理と射精を対にして」教えることは「男子には生理について教えない」と同じくらい、男女の溝をむやみに複雑化させているのではないかと個人的に思っています。

まず、女性の生理は『生殖』にまつわるもの。男性の射精は『生殖』にまつわることと『性欲』にまつわることがセットになっているもの。

これを男女の“対”として学校で教わることで、「女性には『性欲』にまつわる機能がない」「あっても男性に比べ、教科書に特筆するほどでもないレベルで微弱である」かのように錯覚してしまうように思います。

男子は「性欲」、女性は「ときめき」

現在発売されている、性教育の書籍を保護者向けと子ども向けを含めランダムに15冊ほど読んでみたら、内2冊に「男性にも女性にも性欲はあってマスターベーションをすることはおかしくない」という記載がありました。『「性」のはなしはタブーじゃない! 小学生だから知ってほしい SEX・避妊・ジェンダー・性暴力』と『イラスト版 10歳からの性教育―子どもとマスターする51の性のしくみと命のだいじ』という本です。

けれど、いまだ多くのテキストでは「男子は性的なことを考えたりするようになり、マスターベーションをします」とある一方「女子は憧れの男子にときめいたりするようになります」とか「男子は性欲担当、女子はときめき担当」みたいに書いてあったりします。

「女性には性欲がないかのようになっている」

生理用品の会社が子どもと保護者向けに現在配っている性教育のパンフレットでは、女子の性欲については一切触れないまま、男子の性欲についてはどういうタイミングで起きるか、の解説も書いてありました。

「男子はエッチな刺激を脳が受けると、それに反応して、ペニスがかたく大きくなります」

しかし女子も、エッチな刺激を脳が受けて反応する感覚ってあると思うんですよね。男性の「勃起」のような分かりやすい身体的変化がないから名前が付いてないだけで。

おそらく小中高生向けの性教育は、「生殖」の部分だけを最低限に教える、というのが前提になってるように思います。だから生理と射精は教えなきゃいけなくて、射精には性欲がどうしてもくっついてるので説明せざるを得ない、みたいな。だからそこでわざわざ女性の性欲のほうに触れるのはなんか逆にヘン、みたいな感覚が長らくあったとか、何かいろいろ理由があると思います。

別に男女ともに性欲についての話を大っぴらにしたほうがいいなんて思わないけど、この「生理と射精を対に教えることで、暗に女性には性欲がないかのようになっている」ことで起きる影響って結構あると思う。

「女性の生理は大変」と「男性の性欲は大変」

「生理は大変」という話になると、男性が対抗するように「男も性欲のコントロールが大変」という話を始めることがあるけど、これは「女性は性欲のことで困ることがない、性欲のことでの苦労は分からない」という前提になっているんじゃないかと思います。

先の「エロ本が必要なんだ」という意見の根っこにもその発想があることを感じます。

確かに男性は最後にビャッと出てくるものを処理するのはめんどくさいだろうから、できる場所や状況が限られる苦労はあるだろうな、と想像します。

でも「今すぐ処理できない状況なのにムラムラしちゃって大変」とか、「毎日のように訪れるムラムラにウンザリ」とか、1人でしたあとの罪悪感と眠気とか、誰かと性行為したいのに相手が見つからなくてずっと悶々としてしまうとか、そういう「性欲に関する大変なこと」って生理とは別のところで、女も同じようにあるんですよね。

だから本来、「生理大変」に対して「男は性欲大変」は対抗として成立しないわけです。

女性の性欲は教科書みたいな“公式”の場で触れられることがなく、男性が性欲を発揮することは「健全」と言われ、女性が性欲をほのめかすと「エロい」と称されてしまう。そのアンバランスさって、一体なんのために必要なのでしょうか?

だからもう、最初からハッキリ「男女ともに、生殖にまつわることと性欲にまつわることがある」と教えてしまったほうがいいと思うのだけど、きっとそれは難しいことなんだろうなとも思います。

【イラスト】本来はこうじゃないかと思うけど
男性と女性の性欲は違うのか

あとこれも性教育の文章でよく見るんですが、男女ともに性欲はある、とした上で「男の子の性欲は直接的」で「女の子は段階的」というものです。

男子は「すぐキスやセックスをしたくなる」性欲を持っていて、女子の性欲は「手をつないだりデートしたり一緒にいたいと思うもの」ってやつです。

確かに男女が好むエロって傾向があると思います。男性向けのエロ漫画はとにかく汗とか汁とか何かしらの液体まみれになっている。体の部位が巨大化していたり、とにかく射精シーンの爆発っぷりの非日常感が大事。でも女性向けの漫画は前戯を始め挿入したところで最終ページになって射精シーンはなしでENDとかあります。このあたりは私が読んだ作品に偏りがあった可能性も否めませんが、やっぱり両者の好みは全く同じ、ではないのはたしかにそうだと思います。

でも、自分の経験からして、男性ならばいつでもどこでも誰とでもセックスできればヒャッホーというわけじゃないと思うんですよね。

本当は人によって違うのではないか

セックス未経験の男性と付き合い始めた時、セックスをしようとしないので「どうしてなのか?」と聞くと「わざわざする理由が分からない」と言われてビックリしました。

「性欲はあるし1人でしているけど、別にセックスはしなくてもいい。好きな子と2人でゴロゴロしているだけで楽しい」と男性が言うのです。それは未経験の頃の私と全く同じ感覚でした。この感覚がある男性もいるんだ、ということを大人になってから知ったのでした。

エッチなものを見たり思い浮かべたり、敏感な部分に自分で触れたりした時に自分の中から湧き上がる性的欲求は、女性にもある。それを「性欲」と呼ぶとしたら、相手と性行為をしたいという欲求は「性行為欲」みたいな感じで、またちょっと別のものなんじゃないでしょうか。必ずしも連携しているわけじゃないのは、男性も女性も同じなのでは。

そして「性行為欲」は、経験したことがある、どんなものか知っているということも大きくかかわっていると思います。心地よさや興奮を知っているからやりたくなることもあるだろうし、「周りがもう童貞捨ててるから俺もやんないとヤベエ」みたいな焦りだったり、「セックスすると相手が喜んでくれるから」とか、性欲にも性行為欲にも、中身はいろいろ種類があるんじゃないかと思うんですよね。

自分の性的欲求を認識する前に教わってしまう

私たちは、「自分はどんな性的欲求を持っているのか」と考えたり感知したり認識する前に、男はこうだ、女はこうだ、と教わってきてしまいました。

自分の性的欲求がどんなものか分からないまま「性的同意はちゃんとしなさい」と言われても、何を基準にしていいのか、実は難しすぎる気がします。

田房 永子(たぶさ・えいこ)
漫画家
1978年東京都生まれ。2001年第3回アックスマンガ新人賞佳作受賞(青林工藝舎)。母からの過干渉に悩み、その確執と葛藤を描いたコミックエッセイ『母がしんどい』(KADOKAWA/中経出版)を2012年に刊行、ベストセラーとなる。ほかの主な著書に『キレる私をやめたい』(竹書房)、『お母さんみたいな母親にはなりたくないのに』(河出書房新社)、『しんどい母から逃げる!!』(小学館)などがある。

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