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お金持ちは「割引があるから旅行しよう」とは考えない…旅行割は富裕層優遇だという人の根本的勘違い

  • 2022.10.27
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今月始まった全国旅行支援事業に「富裕層優遇だ」という批判が起きている。米国公認会計士で富裕層との交流が多い午堂登紀雄さんは「その指摘は2つの点で的外れだと言わざるをえません」という――。

スーツケースを引いて空港ターミナルを移動する人々
※写真はイメージです
旅行者への支援ではなく観光業への支援

2022年10月11日から順次開始された全国旅行支援事業には賛否両論が飛び交い、中には「富裕層優遇だ! 庶民冷遇だ!」という声もあるようです。

経済的に余裕がなければ割引があったとしても旅行をすることはできず、この旅行割の恩恵が受けられるのは富裕層だけだという主張なのですが、これは2つの点で的外れだと言わざるをえません。

一つは、そもそもこれは国民(旅行者)への支援というより、旅行・観光業への支援であるということです。

零細事業者が多い業界で、コロナ禍の影響を大きく受けて支援が必要ということです。

ただ確かに、元はといえば行政が「移動するな」「外出を控えろ」「県をまたぐな」などとこの業界を痛めつけるような誘導をしておきながら、でもそれで困っているから助けようなどと、自分で火を付けておいて自分で火消しに走るという、壮大なマッチポンプのようにも見えますが。

富裕層は割引があるという理由で旅行をしない

もう一つは、多くの富裕層は割引の有無で旅行に行くかどうかを判断しないということです。

新型コロナの特性(飛沫を避ければ感染は抑制できる)は初期段階からわかっていましたから、このコラムでも繰り返し紹介している通り、私の周りの富裕層の多くは自粛も行動制限も最低限にとどめ(さすがに大人数イベントなどは控えていましたが)、対策をしたうえで旅行や近しい人たちとの会食を楽しんでいました。

ちなみにここでいう富裕層とはおおむね金融資産1億円以上、年収2000万円以上を想定しています。年収をこのラインに設定しているのは、節税のため保有する法人からの役員報酬を低く抑え、より税率の低い配当を受け取っているケースが散見されるからです。

また、先祖代々の富裕層ではなく、1代で財を成した人を意味しています。というのも、本人の努力や才覚とは無関係にお金を持っている人の習慣は、一般人にはあまり役に立たないと考えられるからです。

彼らの多くは起業家や経営者ということもあるからでしょう、自分の行動は自分で決定するものであり、他人に干渉されるものではないと考えています。だから旅行に行きたいときには行くし、仮に補助金が出たとしても必要のない旅行などはしないのです。

それこそ、「リベンジ消費」などとはしゃぐ理由も必要性もまったく感じない。

だから今回の旅行支援も、割引があるから旅行するわけではなく、このタイミングで旅行をしたい人はするし、予定や希望がない人はしないだけとなるでしょう。割引の有無など基本的に彼らの意思決定には関係ないのです(これが事業性の補助金・助成金なら話は別ですが)。「旅行割は富裕層へうんぬん~」などという指摘はまったくの的外れというわけです(むろん富裕層にもいろんな人がいるのは承知の上で)。

「高齢者優遇」とは言えるかもしれない

仮に優遇されるとしたら、平日でも旅行ができる高齢者でしょうか。

そもそも年金生活者はコロナによる経済的打撃はあまり関係ないにもかかわらず、10万円給付を受けられましたし、しかも今回ドタバタで決まった施策で約2カ月間ですから「そんな急に休みなんて取れない」というサラリーマンに対し、高齢者は柔軟に対応しやすいでしょう(金曜の夜に出発すればいいだけかもしれませんが、予約サイトを見てみると、割引を考慮した便乗値上げ的な価格になっているところもあるなと感じます)。

公園で一緒に座って時間を過ごすシニアカップル
※写真はイメージです

優遇かどうかはさておき、旅行に出かけることで業界が潤うなら目的は達成できるでしょう。しかし、私が個人的に感じたことではありますが、今回の支援事業には残念な点があります。

ほかにも支援が必要な業界はある

それは旅行・観光業支援に比重が大きく、同日に開始されたイベント割の支援が薄い点です。

たとえば私の友人知人に舞台演出家や音楽家がいますが、彼らも公演等がほぼキャンセルとなり大打撃を受けたにもかかわらず、イベント割の多くは割引率20%程度にとどまります。宿泊は40%+地域クーポンがあるというのに、この差は何なのでしょうか。

ほかにも結婚式場の経営者や葬儀場を経営する知人もいますが、結婚式は減り葬儀は規模が縮小し、店舗のいくつかを閉鎖せざるを得なかったそうです。しかし彼らには観光業ほどの支援はありません(「結婚披露宴割で40%オフ!」などとやれば婚姻数にもポジティブな影響があるかもしれません)。

あるいは全中・インハイ・インカレといったスポーツの全国大会なども中止に追い込まれ、吹奏楽祭や各種コンクールも中止、修学旅行まで中止などなど、大人の勝手な都合(それもほぼ大人側の保身)で青春の思い出を奪われた若者にも何ら支援はありません。もちろん短期的な経済政策の対象としてそぐわないのは理解していますが。

高い視座からの政策決定を

もう一つ気になっているのは、対象者をワクチンの3回接種証明もしくはPCR検査・抗原検査の陰性証明がある人に限定している点です。

ワクチン接種は任意のはずです。税金を投入するというのにこれで差をつける(税金を納めていても、希望者がワクチンを接種していないだけで公平にサービスが受けられない)のは理不尽ではないでしょうか。

ホテルも旅館も、これでもかというほど感染対策を入念に行っています。入館時に体温も計測しますし手指の消毒もします。個人的にはやりすぎではないかと思えるぐらい徹底していますから、業界への支援というなら制限なしでやればいいのに、と思います。

温度測定と手指消毒剤付きのホテルの受付
※写真はイメージです

ほかにも産み控えを解消するために、0~2歳児がいる家庭に子育てクーポンの支給を検討しているそうで、どういう思考回路を持てばこの程度の方法で産み控えが防げるという発想になるのか、理解不能な策を次々と打ち出しているぐらいですから、やむを得ないのかもしれません。

おそらく日本の政治家は抽象化思考が苦手で、時間軸を長く取って高い視座からの政策決定ができないのでしょう。

具体の世界でしか生きていないゆえに「目先だけ」「行き当たりばったり」「わかりやすい対象」「票田になる業界」にしか視点が向かないのだと思います(とりあえずの支持率狙いにしても貧弱過ぎますし)。

「人の話を聞く政権」を標榜していますが、「聞くけどスルー」にならないことを祈ります。「決断と実行の政権」を標榜していますが、「何もしないという決断」「動かないという実行」にならないことを祈ります。

午堂 登紀雄(ごどう・ときお)
米国公認会計士
1971年岡山県生まれ。中央大学経済学部卒。大学卒業後、東京都内の会計事務所にて企業の税務・会計支援業務に従事。大手流通企業のマーケティング部門を経て、世界的な戦略系経営コンサルティングファームであるアーサー・D・リトルで経営コンサルタントとして活躍。2006年、株式会社プレミアム・インベストメント&パートナーズを設立。現在は不動産投資コンサルティングを手がけるかたわら、資産運用やビジネススキルに関するセミナー、講演で活躍。『捨てるべき40の「悪い」習慣』『「いい人」をやめれば、人生はうまくいく』(ともに日本実業出版社)など著書多数。「ユアFX」の監修を務める。

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