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2015年末〜2016年春、(独断)おススメ公演

  • 2015.10.30
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このコーナーへの最後の寄稿となる今回は、これから来春にかけて注目の公演を、駆け足でご紹介したい。かなり、私の好みが反映されているチョイスなので、そこはあらかじめお断りしておきますね。

ちなみに私は、バレエならドラマ性・音楽性の強いもの、そしてコンテンポラリーダンスの型にはまらない表現が大好きだ。ただし、日々自分の身体と向かい合っているアーティストにしかない"テクニック"や"精神性"が感じられること、これが前提である。自分は何を伝えたいのか、どう見せたいのか、というところをすっ飛ばした、自由気ままな表現(それが天才的な輝きを感じさせるものであるならば別だけれど)や、単なる感情の垂れ流し、などで心が動くことはめったにない(私は)。卓越した身体性・精神性の持ち主によって、期待を心地よく裏切られることが好きなのだ。

そう、私は、踊る人たちの身体から、言葉で説明するのが憚られるような輝きが発せられる、その瞬間に立ち会うことに、ワクワクする。魅力的な作品と、魅力的なダンサーが繰り広げてくれる世界に、心が耕される気がするのである。

以下に、私が注目する公演を、日程が近いものからラインナップしてみた。


■ 中村恩恵が描く神秘的な情景『Silent Songs』

中村恩恵は、舞台に現れた瞬間に周囲の空気の彩を変えてしまう人である。
長身の美しいボディライン、オリエンタルな風貌もさることながら、手のひらをふわりと動かしただけで"何かが起こりそうな予感"を感じさせドキリとさせられる。

この公演は"振付"に注目したダンス・プログラムだと言う。長らくNDTで活躍してきた中村は、イリ・キリアンが最も信頼していたダンサーのひとり。帰国してからは、さまざまな角度から人間、および人間が生み出す感情を描いてきたその彼女であるが、首藤というパートナーを得てからは、まさに1+1=無限大、といった奥行きのある世界を描き出し続けている。今回はこのふたりに小㞍健太、渡辺レイが加わるが、ふたりともNDTでのキャリアを持つ、中村の後輩でもある。
生命を支配した人間の身体から聴こえる"Silent Song"静寂なる歌、とはいったいどんなものなのだろう。

『Silent Songs』
会場:横浜赤レンガ倉庫1号館 3階ホール
日程:2015年11月6日〜8日
振付:中村恩恵
出演:首藤康之・小㞍健太・渡辺レイ・中村恩恵
http://confetti-web.com/


■ 藤田善宏が異ジャンルのふたりとコラボCAT-A-TAC二人会『未亡人』『FUTARI de ZUCCU』

藤田善宏は、もともとはコンドルズの一員である。しかし、ここ数年、コンドルズのメンバーはそれぞれに別の活動も行っている。藤田も、一昨年から自身のプロジェクトCAT-A-TACを立ち上げた。昨秋、マイムの丸山和彰とのユニット"累累-ルイルイ-"の『おとしモノ』が大好評となり、今夏再演。これは何度見ても、心から笑えたし、泣けた。まさに二人の身体から発せられる"ことば"が見る者の心を動かし、脳内にストーリーが現れる、のである。このふたりの新作となるのが『未亡人』、無声劇ホラー、だそうだ。リーフレットにある"背中にぞわりとひと撫での感触 久しぶりのあの感覚、思い出してみちゃうかも......"のフレーズに、思わず期待してしまう!

『FUTARI de ZUCCU』は、藤田が新たに村田正樹というタップダンサーと組んだ作品。"親子で楽しめる ちょっと変わった 小人と靴のお話"とある。

そう、CAT-A-TACの公演には、親子連れで観に来た方々がたくさん楽しんでいたし、上演中も遠慮のない笑い声があちらこちらから起こり、客席は大変リラックスしていいムードに包まれていた。心からどきどきしたり、笑っちゃったり、舞台に立っているアーティストと客席の間に温かい空気が生まれるのである。これは"劇場型(心の)温泉体験"(なんのこっちゃ?)と呼んでもいいんじゃないかと、私は思った。

『未亡人』
会場:スタジオ空洞(池袋)
日程:2015年11月13日〜15日
出演:累累-ルイルイ(藤田善宏×丸山和彰)

『FUTARI de ZUCCU』
会場:スタジオ空洞(池袋)
日程:2015年12月18日〜20日
出演:ニヴァンテ(藤田善宏×村田正樹)

特設サイト:http://cat-mibojin-zuccu.tumblr.com/

●問い合わせ
CAT-A-TAC
http://www.cat-a-tac.jp/


■ "見る"音楽『ストラヴィンスキー・トリプル・ビル』

『春の祭典』

ストラヴィンスキーは、バレエに多大な影響をもたらした作曲家のひとりである。ディアギレフが率いたバレエ・リュスを皮切りに、名作を遺している。

その中でも、代表的な3作品に世界的に活躍する3人の振付家が挑むのがこの公演。ストラヴィンスキーがバレエのために最初に創り大成功を収めた『火の鳥(のパ・ド・ドゥ)』、バレエではないが初期に手がけた舞台作品である「兵士の物語」を悪魔の視点からの視点に置き換えた『悪魔の物語』、そしてあまりに有名で振付家の試金石とも言われる『春の祭典』である。

『火の鳥のパ・ド・ドゥ』 photo:Hidemi Seto

『悪魔の物語』 photo:Hidemi Seto

挑む3人の振付家もそれぞれに魅力的だ。『火の鳥のパ・ド・ドゥ』にはシュツットガルト・バレエ団の常任振付家として国際的な注目を集めているマルコ・ゲッケ。彼の『モペイ』は私の大好きな作品のひとつでもある。『悪魔の物語』には香港を拠点に活躍するユーリ・ンが2004年に愛知芸術文化センターで初演した作品に、香港バレエ団で活躍する江上悠が振付として参加し、リ・クリエイションを行う。そして『春の祭典』は、音楽と一体化した振付で高く評価されているウヴェ・ショルツのソロ・バージョンだ。過去にいくつかの彼の作品を観る機会に恵まれた折、ダンサーひとりひとりが楽器、あるいは音符になったかの如く、まさに"シンフォニーの可視化"が行われている! と思ったのが忘れられない。その彼が、バレエに革命をもたらしたこの作品をどう料理したのか、実に楽しみである(ちなみにウヴェ・ショルツは2004年に46歳の若さで急逝している)。

『ストラヴィンスキー・トリプル・ビル』
全日程:2015年11月28日〜12月12日

●『火の鳥のパ・ド・ドゥ』
振付:マルコ・ゲッケ
出演:アレクサンダー・ザイツェフ、酒井はな

●『悪魔の物語』(兵士の物語より)
振付:ユーリ・ン(演出兼)、江上悠
出演:小㞍健太、酒井はな、津村禮次郎、ジョバンニ・ディ・パルマ

●『春の祭典』
振付:ウヴェ・ショルツ
出演:アレクサンダー・ザイツェフ、髙比良洋(ダブルキャスト)

愛知公演:11月28日〜29日(愛知芸術劇場小―ル)
東京公演:12月8日〜9日(草月ホール)
熊本公演:12月12日(市民会館崇城大学ホール)


■ 踊る世界遺産!? マリインスキー・バレエ来日公演『ジュエルズ』『ロミオとジュリエット』『愛の伝説』他

私は、マリインスキー・バレエのウリヤーナ・ロパートキナが大好きなのです。そして彼女が今回の来日公演で、幻の作品『愛の伝説』を踊るというではありませんか!! もう、夏からチケット買って待ってました。何しろ、マリインスキー・バレエが『愛の伝説』を海外で上演するのは初めてだと言うんですから。

しかも、ものすごい物語。不治の病に侵されている妹を助けたいと悲しみに暮れている姉である女王の前に託鉢僧が現れ、「お前の美しさを差し出せば妹を助けることができる」と言う。妹のために醜くなることを受け入れた女王であるが、やがて健康を取り戻した妹は女王が思いを寄せている画家と恋に落ちてしまう......。この女王を演じるロパートキナはインタビューで「この女王は尋常ならざる人物、で、善悪両面、窺い知れない内面性を秘めた恐ろしさが私にとっては魅力的」と語っている。愛の葛藤が、どんな終末を迎えるのか、これは楽しみ。

そして私に『ジュエルズ』という作品の素晴らしさを教えてくれたのもロバートキナ。国内のガラ公演などでこの作品を観るたびに(ごめんなさい!!)心地よい眠気に誘われていた私だったのだけれど、彼女がこの作品の中の"ダイヤモンド"を踊ったのを観たとき、まさにそこに高貴に輝くダイヤモンドの存在を感じたのだ! バレエ界の宝石、とはこの人のことだ、とその時思った。

そして、ロシアのバレリーナのジュリエットはきっと、情熱的なんだろうなー、と思うし、信じられないほどの長い美脚がずらりと並ぶ『白鳥の湖』も圧巻に違いない。

『マリインスキー・バレエ』
全日程:2015年11月26日〜12月6日

●『ジュエルズ』
会場:東京文化会館/文京シビックホール
日程:2016年11月26日
振付:ジョージ・バランシン

●『愛の伝説』
会場:東京文化会館/文京シビックホール
日程:2016年11月27日〜28日
振付:ユーリー・グリコゴローヴィチ

●『ロミオとジュリエット』
会場:東京文化会館/文京シビックホール
日程:2016年11月30日〜12月2日
振付:レオニード・ラヴロフスキー

●『白鳥の湖』
会場:東京文化会館/文京シビックホール
日程:2016年12月4日〜12月6日
振付:マリウス・プティパ/レフ・イワーノフ

他、11月20日 三重県文化会館大ホール、11月21日〜22日 大阪フェスティバルホール、11月23日 びわ湖ホール大ホール、11月29日 愛知県芸術劇場大ホール

●問い合わせ先:TEL 03-5774-3040
www.japanarts.co.jp/


■ 天才ダンサーの見納め『シルヴィ・ギエム ファイナル』

photo:Hidemi Seto

昨年末のシルヴィ・ギエム引退発表からあっという間に1年。ついに彼女が最後のレヴェランス(ご挨拶、お辞儀)をする時が迫ってきた。2015年12月30日、神奈川県民ホール、そして翌31日の『東急ジルベスタ-コンサート』である。
ファイナルツアーは12月9日の川口総合文化センターを皮切りに始まっているのだが、チケットはほぼ完売。私は、東京では良い席が取れないことを見越して、地方の公演でチケットゲット。

彼女についてはもはや何も言うことはないだろう。なので、とりあえずツアーの最終日となる30日の公演についてお知らせをする。(東急ジルベスタ―コンサート、はテレビ東京系でカウントダウン中継されるらしい)

この日のチケットの一斉発売日は11月7日。最後の目撃者になるチャンスが、10:00〜始まる。

『シルヴィ・ギエム ファイナル』横浜公演
日程:2015年12月30日
会場:神奈川県民ホール(11月7日10:00〜チケット発売開始)
http://www.nbs.or.jp/


■ Noism版『カルメン』期待に応えて再演決定!

photo:Kishin Shinoyama

昨年上演し好評を得たNoismの『カルメン』の再演が決まった!
バレエの『カルメン』とは一味も二味も異なる、照り付ける太陽や乾いた土の匂いまで感じ取れるある種のリアリズムを持った作品だった。そして、その粗野な環境の中でカルメンとホセ、男女の関係が複雑に絡み合い、物語を紡いでいくのだ。例えるならば、きらきら光る絹糸ではなく、ざらざらとした荒縄のような。

だからこそ楽しみなのは、カルメンを演じる井関佐和子の表現である。近年の彼女は舞台を重ねれば重ねるだけ、深みを増し成熟に近づいている感がある。踊る女優ランキング、なんてものがあったとしたら間違いなく5本の指に入るだろう。ホセに離れがたい情を抱きながらも拒絶する、しなければならないその葛藤を、今度はどんな風にスリリングに見せてくれるのだろう。そして、怪我で休養していた中川賢も復帰するという(万歳!!)。

Noismも今シーズンで12年目を迎える。ひとつのカンパニーが成長していくのを見守ることもまた、劇場へ足を運ぶ楽しみのひとつなのだ。

Noism1&Noism2 劇的舞踊『カルメン』
●新潟公演
会場:新潟公演=りゅーとぴあ/新潟市民芸術文化会館〈劇場〉
日程:2016年1月29日〜31日

●神奈川公演
会場:神奈川公演=KAAT神奈川芸術劇場〈ホール〉
日程:2016年2月19日〜21日
www.noism.jp


■ バレエの既成概念を打ち破りつつも豊かな叙情性を作品からアプローチ。ジョン・ノイマイヤー率いる『ハンブルグ・バレエ団』来日公演

もう20年前近くになるだろうか。世界バレエフェスティバルで、ノイマイヤーの「椿姫」の『黒衣のパ・ド・ドゥ』を観て衝撃を受けた。涙が止まらなかった。
あまりに有名な場面なので詳細を語るまでもないが、ショパンのバラードに合わせ、男女の複雑な心情が絡み合い、ぶつかり合いながら変化していく様に息を呑んだ。音楽の中に物語が立ち現れたのだ。

ジョン・ノイマイヤーの作品は、複雑な魅力に満ちている。正確なバレエテクニックに裏付けられた美を保持しながらも、時にその枠を大きく外れた身体の使い方をする。すでにあるバレエのストーリーに鋭い視線で切り込み、ある種のリアリズムをもたらしてみたり、抽象的な表現を通して美意識を現したり。彼の作品の元では、ダンサーたちの身体は雄弁になる。
来年3月の来日公演は、映画や舞台、ミュージカルなどで「回転木馬」としても知られている悲劇『リリオム』、演劇的な仕掛けが目を見張る『真夏の夜の夢』、そしてジョン・ノイマイヤーの作品から名場面を集めた『ジョン・ノイマイヤーの世界』を上演。また、元・ロイヤルバレエ団プリンシパルとして大活躍したアリーナ・コジョカルが客演するのも見どころのひとつである。

さらに。ジョン・ノイマイヤーは東京バレエ団に、日本にインスピレーションを得た「月に寄せる七つの俳句」「時節の色」という作品も振付けており、この秋には日本の稲盛財団の「京都賞(文化・芸術部門)」を受賞する。
日本と縁の深いノイマイヤーの世界が早春の東京でどんな風に花びらをほころばせるのか、まだ秋だというのに楽しみでならない。

『ハンブルグ・バレエ団』
全日程:2016年3月4日〜13日

●『リリオム』
日程:2016年3月4日〜6日
会場:東京文化会館

●『ジョン・ノイマイヤーの世界』
日程:2016年3月8日〜9日
会場:東京文化会館

●『真夏の夜の夢』
日程:2016年3月11日〜13日
会場:東京文化会館
http://www.nbs.or.jp/

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