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家入レオ「言葉は目に見えないファッション」vol.65ドライブスルー

  • 2022.10.14

クォーター・ライフ・クライシス。それは、人生の4分の1を過ぎた20代後半〜30代前半のころに訪れがちな、幸福の低迷期を表す言葉だ。27歳の家入レオさんもそれを実感し、揺らいでいる。「自分をごまかさないで、正直に生きたい」家入さん自身が今感じる心の内面を丁寧にすくった連載エッセイ。前回はvol.64空港でのサプライズ

vol.65ドライブスルー

お昼ご飯にしてはいささか遅すぎ、夕ご飯と呼ぶには少し早過ぎる時間帯。ドライブスルーは予想通り空いていた。フライドチキンのメニュー看板を運転席の彼が読み上げ、助手席、後部座席にいる私たちが「チキン8ピースは多すぎない?」「うん、6ピースで十分よ」と伝え、そのまま3つサイドメニューを選べるというオペレーションに流れた。

「コールスロー美味しいよ」「えー骨なしチキンも気になる」「ビスケットある?」と車内には意見なのか独り言なのか分からない事を口々に言うお腹を空かせた大人が3人。最後には注文をまとめてオペレーターのお姉さんに伝えた彼が数量限定のキャッチコピーに惹かれたのかレッドペッパーとホワイトペッパーにハバネロを利かせたチキンを追加して会計に進んだ。

商品が届くのを待ちながら、東京でドライブスルーを利用している現実が現実じゃないみたで戸惑った。チェーンのフライドチキン店に、ファミリーカー、後部座席のチャイルドシートで眠る友達夫婦の子ども。東京にいるのに実家の福岡にいるみたいな心地。懐かしくて、あったかくて、めんどくさいけどかけがえのないもの。「悪くない」「全然、悪くない」そう思った。東京は自分を削りながら磨いていく場所だと自分を追い詰めていたあの頃。でもあの頃があったから今がある。もう東京でもあったかい何かに触れても良いのかもしれない。そして、そんな風に自分の年齢を感じ入る瞬間というものが、何かを達成したり、しゃかりきになって仕事をしている、ちゃんとした自分でいる時よりも、こういう生活の何気ない場面やふと気持ちが緩んだ時に訪れるものな気がして曖昧に笑った。さぁ家に帰ったら、(正確にはお邪魔するのだけど)みんなで唇をテカテカにしながらフライドチキンを食べよう。手羽先文化で育った福岡出身の私は他県出身者のみんなが驚くくらい綺麗に食べるのだ。軟骨まで綺麗に。グーっとお腹が鳴って今度は曖昧にじゃなく、車に乗ってるみんなが笑った。

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