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昭和世代にはわからない…イマドキの大学生は男子も女子も「賃金格差」のある会社を避けるこれだけの理由

  • 2022.10.6
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日本では男性の賃金を100とした場合、女性は77.5と他の先進国と比べると大きな格差がある。この格差は男女賃金差の公表義務化によって縮まるのか。大妻女子大学准教授の田中俊之さんは「賃金差が大きい企業は女子学生だけでなく男子からも敬遠されるでしょう。格差が見える化されることで改善に取り組む企業が増えることが期待できます」という――。

オフィスでオフィス ワーカー
※写真はイメージです
賃金差の公表は多方面に影響が及ぶ

今年7月、女性活躍推進法に関する制度改正がなされ、従業員が301人以上の企業に対して男女賃金差の公表が義務づけられました。また来年度からは上場企業を対象に賃金格差のほか女性管理職の比率など、男女格差を公開させることが検討されています。これはとても意義のあることだと思います。日本では今も、総合職と一般職という形で、実質的に男女別の雇用形態をとっている企業も少なくありません。

男女の賃金差が大きい企業の中には、いまだにこうした雇用形態をとっているところが多いと考えられます。賃金差を公表すれば、そうした企業体質があからさまに表れてくるでしょうし、その影響は多方面に及ぶでしょう。

あえて古い体質の企業を志望する学生はいない

例えば大学生にとっては、男女の賃金差は就職先を選ぶ際の判断基準になると思います。就活前に志望先の賃金差が大きいことがわかれば、「この会社は古い体質なんだな」と知ることができるわけです。

今、あえて古い体質の企業を志望する学生はほとんどいませんから、そうした企業は優秀な学生を採用できないということになってしまいます。それでは企業も困るので、公表義務化を機に改善に取り組み始めるところも当然出てくるでしょう。

男女賃金差が大きい企業を敬遠する傾向は、今後、特に女子学生で顕著になりそうです。僕はこの4月から女子大学で教壇に立っています。前期を終えて得た感触としては、今は女子学生のうちかなり多くの人が「自分で働いていかなければいけない」という認識を持っているようです。

昔は高収入の夫がいればそれほど一生懸命働かなくてもよかったけれど、今は男性もそんな高収入は望めない。その点を十分に理解していて、だから自分が就業を継続していかなければならないと考えているのです。

つまり、今の女子学生の多くは、何となくでも「定年まで働くしかなさそうだ」という認識を持っているのです。そうした学生たちが、女性だから賃金が上がらない、女性だから管理職になれないといった企業を選ぶとは思えません。その点を判断する上で、男女賃金差はとても重要な指標になるはずです。

男女賃金差が大きい企業を男子学生も敬遠する納得の理由

一方、男子学生はどうでしょうか。過去に共学の大学で教えていた経験から言えば、賃金差の大きい企業は男子学生からも敬遠されるでしょう。なぜなら、男性は総合職、女性は一般職と区別されていて賃金差が大きい企業を、今の男子学生は「男が無理に働かされる環境」と捉える傾向が強いからです。

会議室で居眠り
※写真はイメージです

昭和の時代のように、男性だという理由だけで転勤も残業も含めて無限定に働かなければいけないのかと感じるのです。今の男子学生の多くは、「男女の賃金差が大きい=男性が昇進しやすくて有利な環境」とは考えません。「男女の賃金差が大きい=男性にとってもしんどくて不利な環境」と考えるのです。このあたりの価値観は、昭和生まれの世代とは大きなギャップがあるのではないかと思います。

30~40代の転職希望者にも影響は大きい

男女賃金差の公表義務化は、転職市場にも影響を及ぼしそうです。この数値は、男女問わず30~40代の転職希望者に注目されるのではないでしょうか。この世代には、出産後もキャリアアップしていきたいと考える女性や、育児をしっかりやりたいと考える男性が増えています。

ですから、男女賃金差の数値は、2023年から公表が義務化される男性の育休取得率と併せて、「ワークライフバランスのとれた働き方ができる会社かどうか」の重要な指標として機能していくのではないかと思います。

今後、男女の賃金差を放置したままの企業は、優秀な人材を採用できないだけでなく流出のリスクも高くなるでしょう。賃金差があってそれが可視化されたら、人材獲得の面だけでなく、企業イメージにも決してプラスにはなりません。

その意味で、今回の賃金差の公表義務化には、そうした企業を改善に向かわせる効果があるのではと期待しています。時間はかかるでしょうが、改善に取り組む企業が増えれば、いずれは日本全体の男女賃金差も縮まっていくのではないでしょうか。

各企業の中で賃金差を解消していくには、総合職と一般職の区別をなくしていくという方法が考えられます。一般職で働いていきたいという女子学生もいますが、この職種はすでに先細りが始まっています。志望者がいるいないにかかわらず、企業はいずれ職種の違いをなくす方向へ進んでいくでしょう。それが賃金差の解消にも役立つはずです。

しっかり取り組んできた企業にとってはPRの機会になる

逆に、これまで賃金差解消にしっかり取り組んできた企業にとっては、公表義務化は自社PRのいい機会になります。従来、働き方や性別による格差解消に関する取り組みは、男性の両立推進に取り組む企業を表彰する「イクメン企業アワード」のように、自ら応募して受賞しないと世間には知られないままでした。

それが、今後は取り組みの成果が数値として公表され、かつ就活生や転職希望者からも注目されるようになります。優秀な人材の獲得や企業イメージの向上につながっていく可能性も高まるでしょう。

結婚しない男女が増えていることにも対応

社会的な側面から言えば、今回の公表義務化は未婚化の進行にも対応したものなのではないかと思います。これまで、性別による賃金の違いがある程度正当化されてきたのは、ほとんどの人が結婚する社会だったからです。

ところが今は、結婚しない人が男女問わず増えてきています。現状では、一般職の単身女性が、定年までずっと昇給しないまま働いていかざるを得ない例も出てきています。こうしたケースでは、生活がかなり厳しいものになるだろうことは想像にかたくありません

男女の格差 シーソー
※写真はイメージです

国も、結婚しない人が一定数いるという現実を理解しています。今年度の男女共同参画白書を見たとき、僕は「ようやく『既婚者以外の人』を視野に入れ始めたな」と感じました。賃金差の公表義務化は、そうした現実を前提とした、新たな制度設計を始めますよということなのかもしれません。

男女の賃金差の解消は、未婚化の進行や、子育てや介護をしている人のワークライフバランスの整備といった課題の解決にもつながります。また、多様な人が一緒に働ける社会にするうえでも欠かせないものです。

賃金に限らず、性別によって格差がある状態は、日本でもすでに正当化されにくくなっています。企業には今後、格差解消に向けた対応がますます求められていくと思います。

構成=辻村洋子

田中 俊之(たなか・としゆき)
大妻女子大学 社会学専攻 准教授
1975年、東京都生まれ。博士(社会学)。2022年より現職。男性だからこそ抱える問題に着目した「男性学」研究の第一人者として各メディアで活躍するほか、行政機関などにおいて男女共同参画社会の推進に取り組む。近著に、『男子が10代のうちに考えておきたいこと』(岩波書店)など。

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