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川田十夢がユーミンの歌詞を解析。「ユーミンはデビュー時から完成していた」

  • 2022.10.6
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川田十夢がユーミンの歌詞を解析。ユーミンはデビュー時から完成していた。全知全能の音楽家ですよ

シンガーソング・タグクラウドで解析する、ユーミンの歌詞

学生時代、プログラムを覚え始めた最初期。人工知能を使って、大量の情報を分析し、統計を出すデータマイニングという手法が発達してきたんです。アメリカの大学だったと思いますが、その手法を使い、各時代のアメリカ大統領がスピーチの中で使った言葉を解析し、タグクラウド化していた。世間が政府へ求めていることが、わかりやすく可視化されていてすごく面白い、と思い、自身の心情から言葉を紡ぐシンガーソングライターの作品に応用してみようと思ったのが、シンガーソング・タグクラウドの始まりです。

僕の場合、シンガーソングライターといえば、小学生の頃から聴いてきたユーミンでした。時代ごとに分析してみると、さまざまな変遷があることがわかったんです。例えば季節。荒井由実時代は一種のタームとして捉えていて、流れゆくものとして抽象的に描いている。ところが、松任谷由実時代になると、『SURF&SNOW』など、四季に宿る心象風景を具体的に、解像度を高めて表現するようになってくる。

体/抽象という言葉の変化は、サウンドとのバランスも影響していると考えられます。70年代のアコースティックで温もりのある演奏には、具体性の強い言葉を使うと、前時代的なフォークへ近づいてしまい、曲として聴いた感じが崩れてしまう。一方、電子音が導入された80年代のエレクトロニックなサウンドなら、具体的な言葉を用いても成立する。

コロナ禍に発表された『深海の街』(2020年)では、最も使用頻度の多い言葉が長年トップだった“私”から“君”に変わります。音楽は聴いてくれる人がいないと成立しないものなので、コンサートが開けない状況の中、“君”という存在が立ち上がってきたんじゃないかと考察しています。

荒井由実(1972〜1976)

シンガーソング・タグクラウドで解析したユーミンの歌詞

今も揺るぎない「私」という文体

「デビュー作から完成されているんです。“海”や“風”という言葉に“茫洋としているわね”と自己分析されていたのも、流石でした」(川田)

松任谷由実(1977〜2016)

シンガーソング・タグクラウドで解析したユーミンの歌詞

ラブソングの背景がより鮮明に

「多くのシンガーソングライターは具体的な事柄を歌った後、だんだん抽象的な表現になる。ユーミンは正反対。時には過激な表現もあって驚きます」(川田)

松任谷由実(2017〜2020)

シンガーソング・タグクラウドで解析したユーミンの歌詞
シンガーソング・タグクラウドで解析したユーミンの歌詞

初期を彷彿させながらも新しさが宿る

「『深海の街』のリリース後、“荒井由実時代を彷彿させる”と言われたそう。しかし、本質は変わっていない。それを踏まえて聴くと面白いです」(川田)

2020年には、僕の番組へユーミンがゲストでいらっしゃった際、こうした分析結果を直接お伝えしました。それまでのゲストは、自分でも気がつかなかった結果が出て、結構驚かれるんですが、ユーミンは違いました。「“私”という言葉を一番使われています」と言うと、「そりゃ、そうですよ。だって、私だもん」と返されて。つまり、とっくに自己分析はできている。さらに驚いたのは、自分の特性に関して「私が見たり聞いたりして、歌にしたものには一般性が宿る」とおっしゃったこと。多くのシンガーソングライターの場合、自分の視点で切り取ったある世界を歌にする。しかし、ユーミンの場合は、自分の視点を掘り下げるほど、誰もが共感するような歌詞になるのです。

音楽家の多くは、影響を受けた音楽を分解/再構築して、自分の作品に反映させる。ユーミンは作詞をする時、おそらく日本語自体も再構築されているのではないかと思います。例えば、「やさしさ」には包まれないし(「やさしさに包まれたなら」)、「リフレイン」は叫ばない(「リフレインが叫んでる」)。校閲が入ったら引っかかりそうな表現を、緻密かつ大胆にメロディに落とし込んでいる。独自のユーミン文法があるんだと思いますね。

ユーミンは、言葉の使い方は変化していても、デビューの時からすでに完成していたことが歌詞を解析してわかりました。若くてなにも知らないけど、たまたま書いた歌が当たった感じで出てきたラッキーパンチ的なタイプじゃなく、全部わかったうえで言葉を配置し、メロディも作っている。自らに宿る一般性とユーミン文法を魔法陣のように駆使して、新しい音楽を残してきた。本当に全知全能のミュージシャンですよ。僕はラジオが初対面でしたが、興奮と衝撃のあまり、3日間ほど知恵熱を出し、寝込んでしまいました。

未来にも語り継ぎたい、ユーミン・プログラム

今回、AIで再現した荒井由実とのデュエットによる新曲「Call me back」を聴き、改めて現代的な発想をする人だと思いました。テクノロジーの分野では、AIとしてその人の声や曲の作り方を残さないと、もはや作家の名前は残らないんじゃないかと言われていて。例えば、Photoshopで加工すれば“ピカソ”の画風になるとか。それを、作家自身が許さないと、次に行かないと思うんですよね。ユーミンは「Call me back」で、それを早い段階で許可したんだと思います。“ユーミン”という発想を残したら、メロディメーカーとしてはもちろん、作詞家としてもすごいものになるんじゃないかな。一番残すべき音楽家じゃないですかね。ただし、AIはイチからものは作れない、ただマネするだけです。だから、まだまだユーミンご本人には、素晴らしい音楽を発表していただきたいと思います。

もっと知りたい、シンガーソング・タグクラウド

川田さんが学生時代に開発。データマイニングという手法を応用し、シンガーソングライターの歌詞から使用頻度の高い言葉を抜き出して視覚化するプログラム。使用頻度の高い言語は大きく、さらに文字の色には同時期のジャケットデザインの配色を分析した結果が反映されている。現在は『INNOVATION WORLD』で発表されるほか、川田さん自身のnoteでも公開。細かい解説もまとめて書籍化熱望です!

Information

『INNOVATION WORLD』 J-WAVE(FM81.3MHz)

通りすがりの天才・川田十夢が、テクノロジーの進化を追うラジオプログラム。さまざまな分野で最先端の技術を担うイノベーターを招く。ユーミンは2020年12月4日にゲスト出演。

放送時間:毎週金曜日20:00〜22:00

profile

川田十夢

川田十夢(開発者)

かわだ・とむ/1976年生まれ。10年間のメーカー勤務で特許開発に従事したあと、やまだかつてない開発ユニットAR三兄弟の長男として活動。ラジオやテレビでも活躍する。著書に『拡張現実的』(2020年)。

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