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ヨーロッパと日本の近代建築の美点が出合った住宅建築の名作「江戸東京たてもの園 前川國男邸」:東京ケンチク物語 vol.34

  • 2022.10.1
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太陽の光が心地よく巡る室内、機能的かつ必要十分の余裕を感じる家具やしつらえ。ヨーロッパと日本の近代建築の美点が出合った住宅建築の名作を、小金井の公園に訪ねます。

江戸東京たてもの園 前川國男邸
EDO-TOKYO OPEN AIR ARCHITECTURAL MUSEUM/HOUSE OF KUNIO MAYEKAWA

理想の家を思うときに必ず頭をよぎる一軒。何度も訪れて、そこに身を置く感覚を覚えておきたい場所。そんなふうに言葉を重ねて、誰しもに見学をすすめたい住宅がある。移築・復元されて小金井の江戸東京たてもの園に建つ「前川國男邸」。日本のモダニズムを代表する建築家による、1942年完成の自邸だ。若き日にフランスに渡り、近代建築を切り拓いた建築家ル・コルビュジエに師事した前川。帰国後さらにアントニン・レーモンド事務所を経て独立したのは35年。晩年の80年代まで活躍し、各地に公共建築をはじめとする大規模な建築を数多く手がけた前川にとって、この自邸は初期の、珍しい住宅作品でもある。

41年に太平洋戦争が始まり、日本文化への回帰が叫ばれた時代背景を映すように、建物の外観は瓦を載せた大きな三角屋根に木枠の窓と、日本の伝統家屋に近いもの。ところがこの印象は室内に入ると劇的に変わる。家の中心は三角屋根のてっぺんまで2層分の吹き抜けになった開放感あふれるリビング。庭のある南側は大部分がガラス窓で、温かな陽射しが室内を満たす。一角にある階段を上ると、リビングを見下ろす屋根裏のような2階部分。さらにリビングの両側に、キッチン、寝室、書斎、バスルームなどがほぼシンメトリーに振り分けられている。戦時中の統制で総面積は30坪強、物資不足によって特別な素材は使わず大半が木製。広すぎも、贅沢すぎもしないシンプルな家なのに、入った途端に寛いだ空気に包まれて、何日でもここで過ごしたくなる豊かさがある。それこそがおそらく、日本のモダニズムを確立していく前川の底力だ。たとえばリビングは、南側に加えて北側も窓になっていて、両方の窓を開け放つと、風が通り抜けて半屋外のような気持ちよさ。コルビュジエの唱えた近代建築の5原則のひとつ、ピロティ(建築1階の、壁がなく柱だけで構成する空間)を、日本の木造住宅に持ち込んだともいえる。さらにキッチンや各所の棚などに、モダニストらしく余計な装飾のない、機能的なデザインが行き届いていることもまた、居心地のよさを押し上げる。欧米生まれの建築文化が日本に定着した瞬間を目撃するような傑作だ。どんな人が住んでもさまになる、そんな寛容さがこの建築にはある。

GINZA2022年4月号掲載

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