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ブランディングディレクター・福田春美の棚。「作為のない美しさを、思い出させてくれる場所」

  • 2022.9.25
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ブランディングディレクター・福田春美の自宅にある「自分の巣みたいな」棚

作為のない美しさを、思い出させてくれる場所

ひっそり静かな都内のマンションの、のびやかな空間に棚が並んでいる。一つはここ数年でどうしようもなく好きになった木彫り熊や中国茶の茶器の棚。もう一つは大量の本と神棚がある「本棚神棚」だ。

「熊の棚は自分の巣みたいな感じ。“本棚神棚”は軸になる場所かな」
そう話す福田春美さんの主な仕事は、新しく立ち上がるホテルやショップのブランディング。

ブランディングディレクター・福田春美
「器のコレクターだった父の蔵書や民藝の作家たちの本、世界の少数民族にまつわる書籍も、この棚の一部です」と福田さん。今、興味があるのはオホーツク海沿岸の縄文文化。
ブランディングディレクター・福田春美の自宅玄関の棚2
玄関の棚。左奥2体は北方民族ウィルタの精霊を象った“セワ”。ダーヒンニェニ・ゲンダーヌの作。その右2体は網走〈大広民芸店〉のセワポロロ。隣は渡辺北斗のニポポ。

「ホテルの客室に置く器を提案するのにも、なぜ、誰のためにコレを選ぶのか、どんな効果が望めるのかを、全部数値化して言語化して理詰めで説明する責任がある。打ち合わせ1回ごとに100ページの資料を作って臨むんです」
当然、仕事の場では緊張もテンションもマックスになるけれど、「ここへ帰ればいつもの棚と、理由なんてなくても好きなものが目に入る。心から救われます」。

棚は自作。東急ハンズで買った奥行き30cm前後の板と角材と箱を、部屋に合わせて組んだだけ。

「カッコいい家具にすると、景色が持っていかれちゃうので」と、10年ほどこのスタイルだが、そこに詰まっている本やアートピースの中には、20年30年という時間を共にしてきたものも多い。「本棚神棚」に飾られているのは、現代美術家マーク・ゴンザレスの彫像やオノ・ヨーコの作品「A Box of Smile」。まだお金がなかった若い頃に勇気とお財布を振り絞って買ったもので、その時の気持ちが、今も自分の中心と繋がっている。

ブランディングディレクター・福田春美の自宅/本棚神棚
部屋の奥にある「本棚神棚」。経験だけでは得られない広がりを仕事にもたらす多くの本と、20代で買ったマーク・ゴンザレスのアートピース3体。神棚はシンプルなものが欲しくて通販で購入した。榊立ては〈出西窯〉。

「それでね、ちゃんと仕事ができて日々の生活が送れていることへの感謝を、心で思うだけじゃなく態度でも示せる人間でいたいと思って、神棚を祀ってます。数年前から日本各地を旅することが増えたのですが、陶芸家や彫刻家などものを作る方々が皆、神棚を日常に取り入れている。その姿を見て素敵だなと思ったんです」

旅に出ることが俄然多くなったきっかけは、北の文化や景色に惹かれてハマったこと。数ヵ月に1度は北海道を訪ね、帯広、根室、別海、東川と巡るそうで、旅先で出会った木彫り熊や北方民族ウィルタの木偶(人形)“セワ”が、室内の棚にも玄関の棚にも丁寧に並べられている。網走の〈大広民芸店〉の先代が作ったものから、十勝の高野夕輝や別海町の渡辺北斗といった新進作家の作品まで、いわば「一人北方民族博物館」。

ブランディングディレクター・福田春美の自宅/木彫り熊のコレクション
左端、うつむき加減の姿がいじらしい木彫り熊は、北海道八雲町の鈴木吉次。上段左奥の熊は、漆を塗る前のものを然別の〈大和みやげ店〉で。手前の3体は十勝の現代作家、高野夕輝の初期作。
ブランディングディレクター・福田春美の自宅/中国茶用の道具
「中国茶の香りや道具が作る景色は、仕事で興奮した頭を数秒で鎮めてくれる。救われています」。茶会はもちろん茶摘みにも足を運ぶハマりっぷり。写真は三重県の作家、沓沢佐知子の茶器。

「ウィルタの末裔である作り手のことを知りたくて網走の博物館を訪ねたり、牛飼いをしながら木彫りを続ける作家と家族ぐるみの付き合いをしたり。彼らの物語や背景に流れる地域文化を、少しずつ持ち帰ってレイヤーのように棚へ積み重ねている。そこには、私が人生の目標にしている“作為のないこと”がある気がするんです」

旅の前日はうれしくてうれしくてしょうがないと福田さんは言う。
「それでも東京に戻って棚を見ると、私の場所はここにあるんだなってホッとします」

生き方や仕事の「軸」であり、自分に戻れる「巣」でもあり

ブランディングディレクター・福田春美の自宅にある「自分の巣みたいな」棚
部屋に入ってすぐの場所にある「自分の巣みたいな」棚。上段は木彫りの熊など北のもの。2段目は中国茶の道具。壁にはカードや手紙、書籍のグラフィックや展覧会のチケットなど、心に留めておきたい原点のようなものを。
ブランディングディレクター・福田春美の自宅玄関の棚
アトリエ兼自宅の玄関。「ウチの北方民族博物館」と福田さん。羽を広げた木の彫像は、アイヌのシマフクロウ“コタンコロカムイ”。コートを着たような中央のニポポ(樺太の少数民族の神様)とともに、渡辺北斗の作。

profile

福田春美(ブランディングディレクター)

ふくだ・はるみ/1968年生まれ。北海道育ち。北海道の〈MEMU EARTH HOTEL〉や京都の〈moksa〉など話題のホテルや企業プロジェクト、ライフスタイルショップのブランディングを手がける。著書に『ずぼらとこまめ』(主婦と生活社)。

Instagram:@haruhamiru

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