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カウシェ社長・門奈剣平。“1人では買えない”ソーシャルECがユーザーと事業者にもたらす新たな可能性

  • 2022.10.7
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カウシェ社長・門奈剣平。“1人では買えない”ソーシャルECがユーザーと事業者にもたらす新たな可能性

友人や家族、SNS上の誰かと、自分を含めて2人以上で購入をすることで、お得な価格で商品を購入できるのが特徴の「シェア買い」。今、シェア買いアプリで年間売り上げNo.1※1を獲得しているのが、2020年9月にリリースされた「カウシェ」です。カウシェの社長・門奈剣平さんに、ソーシャルEC※2に着目した理由や、創業2年という短い期間での急成長の要因、カウシェが消費者や事業者にもたらす新たな可能性を伺いました。

※1 日本マーケティングリサーチ機構調べ(2021年8月期_指定テーマ領域における競合調査より)
※2 SNSとEコマースを掛け合わせて販売促進を行うサービスのこと

15歳で中国から日本へ。社長と2人でスタートアップの創業期を乗り切る

——門奈さんは日本と中国のハーフだそうですね。どのような幼少期を過ごされたんですか?

門奈剣平さん(以下、門奈さん):父が日本出身、母が中国・上海の出身で、両親ともに経営者として、それぞれの国でビジネスをしていました。中学まで上海で母と暮らし、父が日本から帰国するのは月イチ程度。僕は日本語を話せなかったので、父とは母を介して話すことが多かったですね。ただ、日本への興味も大きかったので中学2年生から日本語学校に通い、15歳で日本の高校と大学に進学しました。

——日本語も中国語も自在に操れるなんて、すごい強みですね。

門奈さん:ちょうど人生の半分が日本、もう半分が中国で過ごした結果こうなりました。これまで、中国では「日本ってどう?」と聞かれ、また日本にいる時はその逆も経験し、日本と中国それぞれのコミュニティー内で常に少数派であるという実感がありました。ただ、たとえ上手に言語が話せなくてもコミュニケーションしながら、集団に馴染んで適応するスキルは身についたと思いますね。

中国で幼少期を過ごしたという「カウシェ」社長の門奈剣平さん。15歳で来日し、日本の学校に進学した

——今の会社経営に役立っている側面はありますか?

門奈さん:メンバーひとりひとり、スタート地点が違うことに対する理解や共感は、人一倍できていると思います。多様な人々が同じ環境で力を発揮するために、自分ができることは何だろうと常に考えるようにしています。

——慶應義塾大学在学中、門奈さんは宿泊予約サービスの「Relux」の運営会社であるLoco Partnersでインターンをされていたそうですね。

門奈さん:慶應義塾大学の湘南藤沢キャンパスでビジネスやテクノロジーについて学んでいたんですが、そのおもしろさを痛烈に感じて、実践の場で経験を積みたいと思っていたんです。大学1年生のとき、Loco Partnersの当時の社長で創業者の篠崎孝哉さんと出会い、インターンをすることになったのですが、実際に働いてみると、僕と彼以外にメンバーがいなかったのには驚きました(笑)。

結果的に、従業員が2人から200人程度になり、サービスのアイデアを組み立てるシード期からM&A後のPMI※までを経験できました。代表の篠崎さんと同じ空気や温度を感じながら、社員が安心してチャレンジできる環境をつくる過程を8年間ほど体験できたのは、とても良い経験でした。

※Post Merger Integrationの略。M&Aなど経営統合後の新しい会社の企業価値向上を目指した統合プロセスやマネジメントのこと

——具体的にはどういった業務を担当されたんですか?

門奈さん:インターンの最初の頃はプロダクトの完成前だったので、受託ビジネスを経験しました。新卒入社1年目は、インバウンド事業の立ち上げを任されてアジア各国を出張し、さまざまな修羅場を経験しました(笑)。2017〜2019年はLoco Partnersの中国支社の社長として上海で生活し、月イチで日本に来るというスタイルをとっていました。その頃、中国ではスタートアップが盛り上がっている真っ最中だったんです。日本と同じくスマホが普及し、キャッシュレスサービスが浸透、ECも流行り始めていました。今僕たちが取り組んでるソーシャルEC※もまさに盛り上がりを見せ始め、日々進化しているところでしたね。当時、中国ではすでに消費の20〜30%をECが占めていたんですが、日本のEC化率(BtoC)は2019年で7%弱だったので、今後日本でも中国のようにEC需要が急激に増えるだろうと予想していました。

※SNSとEコマースを掛け合わせて販売促進を行うサービスのこと

——日本でもEC市場がますます盛り上がり、ソーシャルECも根づくと考えたことから、門奈さんはカウシェを創業することにしたんですね。

門奈さん:日本のEC市場を自分たちの手で盛り上げたいというのが起業の動機です。いつか起業して社会課題を解決したいという小さな火が僕のなかにあったのですが、さまざまな経験を経て一気に気持ちが燃え上がりました。それで、2020年4月にカウシェを創業しました。

2020年4月、門奈さんはカウシェを創業した

SNS拡散でお客の一人ひとりが営業マンになる「シェア買い」

——コロナ禍で外で買い物する頻度が減り、消費が冷え込んだことも起業を後押しするきっかけになったのでしょうか?

門奈さん:はい、コロナ禍で売り上げが激減し、苦しんでいる農業や製造業、小売業の人たちの力に少しでもなりたいと感じたことも、創業のきっかけの一つです。コロナが蔓延し始めた当時、物の売り買いが急に停滞し、絶望感をみんなが体感していました。そんな状態を変えたいと、僕たちカウシェは「世界一楽しいショッピング体験をつくる」をビジョンとして掲げています。友人や家族、SNS上の誰かと、「シェア買い」仲間を見つけ、買い物の醍醐味ともいえる「この商品、良くない?」「私も買いたい!」といったコミュニケーションを取ることで、ショッピングが本来持つ生活する喜びをオンラインで体験していただけると感じています。

——日本にはすでに大小さまざまなECサービスがあり、そこに新規参入してゼロからソーシャルEC事業を始めることに不安はなかったですか?

門奈さん:日本のEC市場において、「楽しむ」という体験を提供できれば可能性は大いにあるんじゃないかと思ったんです。これまでのECは「安くてすぐ届く」という効率的な面にフォーカスし、「楽しい」という要素はそこまで必要とされてこなかった。もちろん現在の日本のECサービスは、合理性や配送の効率性という点で、商品の調達においては便利この上ないことは確かです。ただ、同じ買い物でも機械的な商品調達と、ワクワクしながら商品を選ぶショッピング体験があって、それぞれお客さまが求めるものは違います。とくに後者の場合、実店舗のショッピングでは空間や一緒にいる人の刺激を受けたり、行列を見て思わず興味を持って衝動買いしてしまったり。そういった情報やコンテキストが売り場に織り込まれているのが、ショッピングの醍醐味だと思うんです。そこで、カウシェは1人だと買えないというレギュレーションをあえて作り、2人以上でコミュニケーションが発生する買い物体験を提供しています。実際にみなさんに支持していただき、リリースから2年でアプリダウンロード数合計70万件を突破し、シェア買いアプリ年間売り上げ1位※となりました。

※ 日本マーケティングリサーチ機構調べ(調査概要:2021年8月期_指定テーマ領域における競合調査)

2020年9月にリリースしたカウシェは、現在アプリダウンロード数合計70万件を超えるほど人気に

——カウシェは割引価格で買えたり、お得なクーポンが発行されるのもお客さんにとっては魅力の一つですよね。その一方で事業者にとっては、価格破壊が起きることはあまり喜ばしくないのでは……?

門奈さん:当然、お客さまだけでなく、事業者にとってのベネフィットも作っていかないと、三方よしにはなりません。実際、事業者の傾向をみると、ほぼ離脱することなくカウシェでの販売を継続いただいています。その大きな理由は、ランニングコストや広告費がかからないこと。カウシェは完全成果報酬型で、取引成立時に課金される販売手数料10%と決済手数料しかかからないんです。しかも、カウシェは広告費をかけなくても、お客さまが「シェア買い仲間」を探すために、SNS拡散をしてくれるという強みもある。購買意欲の高い人が、別の方に対して商品の魅力を伝えてプロモーションをし、自ら営業マンになってくれる。これにより、広告では届かなかった層にリーチできる。事業者の方々にはこういった点を評価していただいていると感じています。

カウシェは購入したお客さんがまわりに拡散してくれるため、広告費がかからないという仕組みを構築している

——やっぱり口コミは効果絶大なんですね。

門奈さん:そうですね。従来のようにCMを打ち、さらに初回限定サービスを打ち出すといった二重構造で集客していく手法ではなく、カウシェはお客さまが親しい人に商品をおすすめして宣伝効果が高まるリファラルマーケティングを取り入れています。現在の新規顧客の多くは、このリファラルマーケティングによって獲得しているんです。

これまでカウシェが扱うカテゴリーは食品や日用品、家電製品でしたが、とくに口コミの訴求力が高いといわれる美容・コスメの取り扱いを今年7月から開始しました。コロナ禍でコスメをECサイトで購入する流れが強くなり、またコスメはSNSにおいてインフルエンサーより身近な人の投稿を重視して買うユーザーが多い。そのため、今後はコスメの取り扱い数を増やしたり、さまざまな施策を行う予定です。

——ちなみに、カウシェはどのように収益を上げているんですか?

門奈さん:事業者側から販売手数料として売上の10%をいただいてます。カウシェでの販売数や総流通額が増えるほど収益が上がるというシンプルな仕組みになっています。

IVSが2021年6月に開催した「LaunchPad Entertainment」で優勝、「日本M&Aセンター30周年記念スタートアップピッチ」で入賞など、カウシェはスタートアップのピッチコンテストで数々の功績を収めている

消費者主導の「C2M」を実現し、フードロスや広告費を削減へ

——先ほどおっしゃっていた「三方よし」を実現するなら、売り手と買い手の満足度、そして社会貢献も追求しないとですよね。

門奈さん:おっしゃる通りです。僕らが将来目指すのは、消費者主導のビジネスモデル。BtoCではなく、「C2M」(Consumer to Manufacturer=消費者から製造者へ)です。お客さまが親しい人に商品を紹介するシェア買いならターゲット広告の費用は不要になりますし、商品を一定数まとめて販売できるようになれば、受注販売や予約販売といった構造の産業が成り立つ。原料や運送などあらゆるロスを削減できると考えています。メーカーや農家、製造者は、販売数がより確保された状態で市場に出せるだけでなく、将来的に決まった場所に配送できてコストを軽減できます。このように、消費者のBuying Power(購買力)を束にまとめ、新しいビジネスモデルを構築することが僕らの使命だと思っています。

買い手、売り手、世間に対する「三方よし」を叶えるため、門奈さんは使命感を持ってカウシェを運営している

——広告費や運送費などに関するあらゆるムダを減らせば、その分をお客さんに還元できる、と。

門奈さん:たとえば、フードロスによる損失をまかなうために売上が必要でそのために広告費をかけ、さらに利益をとるために商品単価を引き上げるという、矛盾を抱えた構造が今は発生してしまっている、と感じています。製造、マーケティング、消費という順のビジネスモデルである以上、この矛盾をなくすことはできません。カウシェはインターネットが得意としているお客さま主導の新たなビジネスモデルをつくり、製造や配送、販売チャネルなどにフィードバックしていきたいと考えています。

——なるほど、将来へのビジョンが明確だからこそ、カウシェは総額約22億円の資金調達が達成できたのですね。コロナ禍の創業を経て、2年で約100人が働く企業に急成長されましたが、その中で会社の組織力を高く維持するために行っていることはありますか?

門奈さん:カウシェではバリューの一つに「トライファースト」を掲げ、適切な課題設定をして、トライすることを推奨しています。実際、イノベーションを促進するためには多くの壁に打ち当たり、トライ&エラーを繰り返してようやく達成できるもの。失敗を問い詰めるカルチャーが社内にあると、新たな事業は立ち上げられないし、多くの先輩方が達成してきた偉業を越えることはできないと思うんです。だから、課題解決につながるトライ&エラーを推奨して、「ナイストライだね」というようにそれぞれの背中を押し合っていくカルチャーが根づくようにしています。僕自身も、前職のときに思い立ったら即行動し、ガンガントライして成果につながった実体験が今に生きている。社内にチャレンジできる環境を整えたことで、コロナ禍でもチームの一体感を高めることができました。

また、カウシェのメンバーは平均32歳と、創業2年のスタートアップにしては経験豊富なメンバーが多い。それぞれ自立して意思決定を持って進められる権限と裁量があるので、仕事が進めやすいという側面があります。メンバー100人のうち7割は複業人材で、正社員のうち約4人に1人がリモートワークといった多様性のある働き方を実現しています。その中でも、「リモートだと話しかけづらそう」といった不安や孤独感が起こらないように、Gatherというツールを使ってバーチャルオフィスを作り、リモートでも社員みんなが同じ空間にいるような感覚を持てるようにしました。かなり凝った作りで、日本一のバーチャルオフィスと自称しています(笑)。

北海道や福岡のほか、海外にもメンバーを抱えるカウシェ。リモートワークにおけるコミュニケーションの課題を解決するため、今年3月にバーチャルオフィスを作ったそう

——門奈さんはこの先もカウシェを成長させていくと思いますが、今後はどのようなことに取り組む予定ですか?

門奈さん:ゆくゆくは、よりゲーム的な要素をカウシェの買い物体験に取り入れていきたいですね。エンタメ性やソーシャル性をより高め、世界一楽しい買い物体験をお客さまに届けていきたいと思ってます。

失敗と成功を繰り返しながらチーム力を高め、門奈さんは事業を推し進めていく
門奈 剣平(もんな けんぺい)

カウシェ 代表取締役CEO
1991年生まれ。日中ハーフ、2007年まで上海で生まれ育つ。2015年慶應義塾大学環境情報学部卒。2012年よりLoco Partners2人目のメンバーとして入社、2人から200人、シード前からM&A後のPMIまで経験。Reluxの海外事業立ち上げから責任者を務め、年間取扱高50億円の大幅な事業グロースに貢献、海外担当執行役員&中国支社長兼任。2020年4月よりカウシェを起業。

写真/武石早代
取材・文/川端美穂、おかねチップス編集部

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