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コラージュアーティスト・河村康輔の棚。「感覚を頼りに探した始まりのビジュアル本の棚」

  • 2022.9.20
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コラージュアーティスト・河村康輔の自宅本棚

感覚を頼りに探した始まりのビジュアル本の棚

2009年、30歳の時に友人と借りたタウンハウスの6畳間。仕事が軌道に乗り、忙しくなった10年近くを見守ってきたアトリエの本棚には、ビジュアルへの初期衝動がぎっしりと押し込められている。高校時代に好きで買っていた『スタジオ・ボイス』。そこに掲載された本棚の写真に小さく写っていた背を頼りに探した本。お金がなかった20歳前後の頃から集めてきた洋書……。優に数千冊は超えている。

「20代でコラージュを始めた当時、古本屋の“外の箱”を漁って買った数百円の本から、自分がずっと影響を受けてきた大切な一冊まで、ここにあるもののすべてが宝物ですね。これがなかったら、いまの自分は100%いないと思います」

コラージュアーティスト・河村康輔
現在は別の場所にもアトリエを構えるが、駆け出しの頃の思い出が詰まったこの場所は、いまのまま残しておきたいという河村さん。知人を呼んで、ここで一緒に過ごすこともある。
グラフィック集団BAZOOKAによる1978年のタブロイド、70年代の『gq』
右はパリのグラフィック集団BAZOOKAによる1978年のタブロイド。何年も探し、ようやくメンバーとつながって譲り受けた。左は20歳の頃、友人宅で見て以来探していた70年代の『gq』。
コラージュアーティスト・河村康輔の自宅2階の個人部屋
当時、金銭的な都合でこの一部屋しか自分専用にできなかったという2階の6畳間。作業机は、原宿の〈BOUNTY HUNTER〉の閉店時に譲り受けたもの。床にも作品や書籍が積み重なる。

分類は特になく、手当たり次第、入る隙間に入れ、置ける場所に置くスタイルだが、一冊一冊、棚から引き出せば本との出会いの記憶が蘇る。友人の家で見て以来、何年もかけて見つけた古本や、ヨーロッパまでアーティスト本人を探し訪ねて譲り受けた貴重なタブロイド。いまも地方や海外へ行くと必ず古本屋を巡り、欲しい本は「足で探している」という。

「お金さえ出せば超レアな本だって、だいたいどんなものでも手に入る時代じゃないですか。でも、高い本は買わないと決めているんです。買おうと思えば買えるのだけど、そこに抗うのが楽しいんですよね。価値がついて流通しているものほど簡単に見つかりますが、ガラスケースに入った段階からではなく、お店で雑多に扱われている“発見されていなかった本”を見つけ出したい。

子供の頃におもちゃを探していた感覚とあまり変わらないのかなと。どうやって本を選んでいるか、よく聞かれるんですが、本は背で大体わかるんです。探し続けた時間によって、直感が鍛えられたのかもしれません。いいなと思って無意識に買っていた本の作者と何年も経ってつながったり、結構な確率で一緒に仕事をさせてもらうことも多いのが面白くて」

コラージュアーティスト・河村康輔の自宅/オーディオラック
オーディオラックには、映画『時計じかけのオレンジ』のキリスト像のフィギュアや、ウィーンから持ち帰った思い出のマグカップが。
ハルクの80年代のヴィンテージ貯金箱
散らばったコピー用紙の山の上に、ハルクの80年代のヴィンテージ貯金箱(中身は空)。どうしても片づけられない……と、河村さん。
コラージュアーティスト・河村康輔の自宅本棚
デスク脇の棚には、大友克洋、根本敬らの漫画、ロイヤルファミリーやオリンピック、オカルト、怪獣、日本の雑誌などの和書も。
亀井雅文とのコラボ作品、北山雅和の作品「NO WAR
右は亀井雅文とのコラボ作品、左は北山雅和の「NO WAR」。壁にはアートピースもたくさん飾られているが、自身の作品はほぼない。

カラフルな背を背景に、おもちゃやカードなど、イメージの破片たちが混沌とした秩序で折り重なる。その棚は、河村さんのコラージュそのもののようでもある。

「いまこの棚を見ても、結局こんなもんか、別にたいして面白くないじゃん、っていう本もたくさんあります。でも、嗅覚を頼りに少しずつ買い集めてきたものたちは、確実に自分のなかのどこかに蓄積されている。年とともに知識も情報量も増え、より洗練された本を手にするようになってはいますが、たぶんそれは、表層的な上辺なんですよね。

当時は考えていなかったけれど、いま必要としている“感覚的なもの”って絶対にあって、ここに座って昔買った本を見返していると、価値のないものに費やしてきた時間や、掘り続けてきた日々を思い出すんです。技術が先行して手先だけになってしまいがちな時、この棚は、まだ食べられなかった頃の初心を呼び戻してくれる。自分の原点です」

長年かけて集めた一冊一冊混沌の棚に、「始まり」がある

コラージュアーティスト・河村康輔の自宅本棚
〈IKEA〉の黒い本棚に、古書店などで買った洋雑誌や作品集、リトルプレスなど、稀少なビジュアルブックが。おもちゃや小物は海外のマーケットで見つけたもの、もらったものも。右下は、雑誌『V/Search』など、本を集めるきっかけになった大切な本が並ぶコーナー。空山基、田名網敬一、大友克洋、HAMADARAKAの作品やカードも飾られている。

profile

河村康輔(コラージュアーティスト)

かわむら・こうすけ/1979年広島県生まれ。『大友克洋GENGA展』「ルミネ×エヴァンゲリオン」のビジュアルほか、企業やブランドへのアートワーク提供、国内外での個展多数。今年、ユニクロ〈UT〉クリエイティブ・ディレクターに就任。

HP:http://www.studiozaide.com/Kosuke_kawamura/about.html

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