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“余白”のある設計が面白い「東京都現代美術館」:東京ケンチク物語 vol.33

  • 2022.9.18
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公園の中に建つ東京随一の現代アートの美術館は、建築自体も魅力十分。肩肘張らず、リラックスしてアートやカルチャーに触れられるきっかけが各所に待ち受ける秀作です。

東京都現代美術館
MUSEUM OF CONTEMPORARY ART TOKYO

ブルーボトルコーヒーが上陸して話題をさらい、それと前後するようにカフェやショップなど新スポットも増えて……と、この数年でカルチャー好きには外せないエリアになった清澄白河近辺。隅田川そばの下町情緒あふれる町だったこの辺りが大きく変わる布石を打ったのは、間違いなく「東京都現代美術館(MOT)」だろう。1995年に開館したこちらは、5500点を超える収蔵作品や約27万点に及ぶ図書資料を持つ、国内でも指折りのミュージアムだ。設計は2017年に逝去した建築家・柳澤孝彦。ほかに「東京オペラシティ」や「新国立劇場」なども手がけている。

およそ24ヘクタールの広大な木場公園の、北端に建つ堂々たる建築。最大の特徴はなんといっても幅10m、天井高8m、そして全長140m(!)のエントランスだ。都内ではなかなかお目にかかれない巨大スケールのトンネル状の空間は、片側がガラス張りで公園の緑が見え、自然光にあふれかえる。大小の展示室やライブラリー、講堂など、美術館の“機能部分”があるのはこのガラス面とは逆側の長辺。機能部分を収めた3つの箱型の建物を、この細長いエントランス部分に接続したようなつくりで、箱と箱の間の部分や、地下にくっつけた箱の上部といった“余白”のような場所に、中庭やサンクンガーデン、屋外展示場などさまざまな場が生まれている。美術館に入るなり広がる大空間に圧倒されて見逃しがちなことだけど、実は多くは無料で入ることができるこの“余白”部分こそが、とても面白い建築でもある。

こちらの美術館、3年に及ぶ改修を行って2019年に再オープンした。建築家・長坂常と、アートディレクター色部義昭の手でパブリックスペースのサインや什器などが一新されたのだが、それらの力で動線がさり気なく整理されたのも特筆すべき点だ。たとえばショップ奥にある中庭には、ベンチやパラソルなどが置かれてぐっと入りやすくなった。この中庭から階段を降りると、細長いエントランスの真下にあたる場所に、水盤にどっしりとした石が配された「水と石のプロムナード」が広がっていて驚かされる。ここを抜けて坂道を上がると公園の緑の中に出て、今度は美術館を外側から眺めることができる……。“余白”から“余白”へと渡り歩く、回遊性のある動線が生き生きと主張し始めたのだ。2人の建築家とデザイナーが時を超えて力を合わせた、それ自体がアートのような美術館だ。

GINZA2022年3月号掲載

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