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クイーンエリザベス奨学金トラストで選ばれた石彫家ゾーイ・ウィルソンの展示を京都で

  • 2022.9.11

英国発ニットブランド〈ジョン スメドレー〉が主宰する「ジョン スメドレー クラフト プライズ」を2022年に受賞したアーティスト、ゾーイ・ウィルソンの展覧会が「ジョン スメドレー京都店」にて開かれる。2022年9月10日(土)から25日(日)まで。

イギリスの伝統的な工芸技術を持つ作家を支援する「ジョン スメドレー クラフト プライズ」。2022年の受賞者は、石彫アーティストのゾーイ・ウィルソンだ。

イングランド西部のシュルーズベリー生まれ、現在は南部のハンプシャーで夫と息子と住みながら活動するゾーイ。その作品は緻密で繊細、正確な技術に支えられた彫りが美しい。といっても、彼女は最初から石彫りの道を志していたわけではなかった。

ファインアートで学位を取り、卒業後にいくつかの職を経験。それから御影石加工の会社で働き始めたことに深い理由はなかった。けれどそこで石を彫ることの楽しさに目覚める。ドアの飾りや、暖炉の囲いなど、住む人の生活を取り囲むものを作る作業に打ち込みながら、ゾーイは伝統的な技術を身につけていく。

©︎Asia Werben

その後著名な文字彫刻家ジョン・ニールソンに師事し、レターカーヴィングを学ぶ。そして2013年にCity and Guilds of London Art Schoolに入学。「ジョン スメドレー クラフト プライズ」とも繋がりのある奨学金QESTを受け、石彫刻を専門的に深める3年間を過ごす。

本展の出品作品に見られる幾何学模様は、卒業後に2年間を過ごした東南アジア・ボルネオ島での経験からインスパイアされたものだ。イスラム教の影響色濃い文化のなかで触れた様々な意匠、そして何より熱帯雨林の持つ圧倒的なインパクトが、ゾーイを幾何学的デザインへと向かわせた。

イギリスに戻ったのち、ロックダウン中にジオメトリー・ドローイングを学び、ゾーイはいろいろなパターンをどんどん作品に落とし込んで行った。確かな職人技術があるからこそ実現できる、細かな表現。端正な線の交わり、曲面のなめらかさにはついうっとりしてしまう。

「Breath」。ウェールズ地方特産の石板に、コンパスと定規のみでデザインした曲線の重なりを表現。

「Breath」。1984年にイギリスで開発された水性樹脂素材ジェスモナイトを使用。

「Breath」。ジェスモナイトを彫刻したあとに、手作業で金メッキを施した。

「ネクサス」。素材となっているポートランド・ライムストーンは、17世紀のロンドンの建造物で多く使われたもの。

「Vector」。赤みが特徴的な砂岩は、スコットランドで採取されたもの。球体で立体的な幾何学模様を表現。

「Force」。ウェールズ石板に手彫りされた模様は、谷型に掘られる線によって複雑な美しさを見せる。

「Pyramids」。最初に掘られたのは、六角形の中心を通る3本の直線。そこにさらに線を重ねていくことで、小さな三角錐のような形がたくさん浮いてくる。

「Peace」。同じ点に収束していく線の連なりを何組も重ね、直線的な造形を生み出した。

ゾーイにとって彫刻とは「素材と人間との関係」だという。石を打ち彫る行為は、有史以前から人間とともにあったもの。それがさらに洗練され、進化し、世代を超えて受け継がれて伝統技術となった。それでも伝統は古いままではいられない。若い世代の発想によって新しいアートとして生きること、それも伝統の一つの側面であるはずだ。2022年の今、ゾーイという一人のアーティストが石彫技術で何を表現するのか。京都で、ぜひ体感してみたい。

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