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有村架純×中村倫也『石子と羽男』 8話「モチのロン」で心を掴む梶原善、「暮らしを守る傘」とは雨傘とランプシェード

  • 2022.9.9
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金曜ドラマ『石子と羽男−そんなコトで訴えます?−』(TBS系)、第8話のテーマは「ウェブサイト情報削除請求」、グルメサイトに掲載された投稿を削除してもらうことはできるのか。有村架純と中村倫也をダブル主演に迎え、『MIU404』『最愛』(ともにTBS系)などを手掛けた新井順子プロデューサー×塚原あゆ子ディレクターがタッグを組んだドラマの第8話を振り返ります。NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の名演が話題の梶原善にも注目です。

「モチのロン」で掴む梶原善

9月2日に放送された金曜ドラマ『石子と羽男−そんなコトで訴えます?−』(TBS系)第8話。隠れ家レストラン「inside」の店主・香山信彦役で、梶原善が登場した。

潮綿郎(さだまさし)は、香山が自分の知り合いということもあり価格を下げて依頼するようにと石子(石田硝子/有村架純)に伝えるが、石子はそれを許したくない。そんな石子に、香山は「モチのロン」と麻雀の「ロン」のジェスチャー。正規の相談料を支払うという。

こんなおじさんいるいると、ジェスチャーひとつで一気に香山が身近に感じられた。些細な仕草だけで、このひとは気さくでちょっと調子が良くて、ヌケたところもあるひとなんだろうなあ、というところまで想像が広がる。

香山の悩みは、口コミが投稿されるグルメサイト「ウマレポ」に自分のレストランの情報が掲載されてしまったこと。常連客を相手にひとりで店を切り盛りし、小規模な経営をしていたところに、グルメサイトを見た新規客が来て店の雰囲気が壊れて困っている。ウマレポの運営会社であるドットMに掲載情報の削除と損害賠償を求めるため、潮法律事務所に相談をした。

口コミサイトへの投稿は、投稿者の表現の自由。サイトのユーザーには知る権利がある。そんな考えが浸透した世の中に、石子と羽男(羽根岡佳男/中村倫也)は「知られない権利」について問いかける。

他の誰かが濡れることになってもいいんですか

表現の自由、知る権利、知られない権利をめぐる社会的な問題から、物語は徐々に「家族」の問題に焦点を絞っていく。香山には3年前に亡くなった妻がいた。妻の葬儀以降、息子夫婦である洋(堀井新太)と蘭(小池里奈)とは連絡を取っていない。常連客らには、息子夫婦は海外に住んでいると伝えていた。

ウマレポにinsideの口コミを投稿した「おかわり名人」というレビュアーは、蘭と友人でinsideの元アルバイトである沙月(橘美緒)だった。お店や香山、洋のためを思っての投稿だったが、insideへの悪い口コミが投稿されているのを見て「思ったより単純じゃなかった」と蘭は反省をする。

蘭と沙月の行動は、香山と洋の親子関係を良くできないかと考えてのこと。洋は、香山が「隠れ家」にこだわり苦労をさせたことも、母親の亡くなった原因のひとつだと考えている。しかし、香山が「隠れ家」にこだわったのは、亡くなった妻の思いを汲んでのことだった。

もっと早く親子で話していれば、こんなすれ違いは起こらなかったのに。そう思うけれど、実際、親子だからこそ話せないことや、意地を張ってしまうことは多い。石子と綿郎も、お互いに思うことはあってもそれを話せない親子だ。

「誰かのために、は、すばらしい考えだと思います。でも、誰かを助けるために他の誰かを苦しめていいのでしょうか。ずぶ濡れのひとに傘を差し出すことで、他の誰かが濡れることになってもいいのですか」

お客さんの記念日には価格を半額にしたり、その日の健康状態に合わせてメニューを変えたりと、サービスが良すぎる香山の姿に、石子は綿郎を重ねていた。

「お父さんが傘を差し出したうしろで、お母さんはずぶ濡れだったんですよ」

香山が「隠れ家」にこだわったのは、それが妻発案のものだったから。しかし、綿郎が無料で法律相談を受けたり、近所のひとたちを集めてご飯を振る舞ったりする大義名分は特にない。羽男が石子の母親について質問したとき、こんな会話があった。

「どんな人だったの、お母さん」
「ああ、穏やかで、自分より相手を優先するような」
「それ所長じゃん」
「ふふ、確かに。似てるかも」

そういう性格の人なのだ。香山と綿郎は似ているようでちょっと違う。大義があってもなくても「誰かのために」行動するひとをこのドラマは否定しない。

最後に、羽男に促されるようにして謝罪した綿郎を、石子もまた羽男に背中を押されたようにして許す。和菓子を出そうとする綿郎を止め、「お父さん、座ってて。私が出すよ」と敬語からタメ口になる。綿郎がずっと願っていた石子からのタメ口は、石子が綿郎に「譲った」部分だろう。

雨傘とランプシェード

今回も、セットの力が効いていた。綿郎のモットーは「真面目に生きる人々の暮らしを守る傘となろう」。潮法律事務所を見ると、傘がある場所が2か所ある。

1つは、石子と綿郎の居住スペースとなっている部屋の階段のそばだ。階段を下りた場所には、ランプシェードを被った照明が置いてある。もう1つは、羽男が石子に母親について聞いた事務所の階段の横。ここにも、アンティーク調の柄の大きなランプシェードがついた照明が置いてある。

「暮らしを守る傘」を、ずっと雨を遮るための傘でイメージしていた。だが、思い返してみれば、『石子と羽男』のタイトルでふたりが持っている傘は、中に照明が仕込まれてそれぞれを照らしている。綿郎は、雨という困難からひとを守る雨傘だけでなく、ときには光を増幅させる効果があるランプシェードのような傘という意味でも、モットーを掲げているのではないだろうか。

そう考えると今回の依頼は、石子と羽男がどちらかというとランプシェードのような傘になれた案件だったように思う。香山は洋と和解し、店も「新規客を1日3組限定で受け入れる」と、洋や蘭の考えに歩み寄って体制を変えることになった。困難を遠ざけただけでなく、幸福の光を増やすきっかけとなれた。

『石子と羽男』ももう終盤。9月9日(金)放送の第9話では、大庭蒼生(赤楚衛二)が放火殺人の疑いで警察に逮捕される。大庭は犯行を認めており、石子たちも相当混乱しているようだ。

綿郎が担当している「不動産投資詐欺」の案件。大庭が代表取締役となっている「株式会社グリーンエステート」というおそらく不動産関係であろう会社。第5話で綿郎が見ていたニュースのタイトルは「不動産投資詐欺でコンサルタントを名乗る3人の男を逮捕」だった。これらがどこかで結ばれているような気がして胸がざわつく。

■むらたえりかのプロフィール
ライター・編集者。エキレビ!などでドラマ・写真集レビュー、インタビュー記事、エッセイなどを執筆。性とおじさんと手ごねパンに興味があります。宮城県生まれ。

■pon3のプロフィール
東京生まれ。イラストレーター&デザイナー。 ユーモアと少しのスパイスを大事に、楽しいイラストを目指しています。こころと体の疲れはもっぱらサウナで癒します。

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