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アニエスベー監督作! 秘密を抱えた少女が旅に出る、珠玉のロードームービー『わたしの名前は...』

  • 2015.10.23
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アニエスベー(監督としては、本名アニエス・トゥルブレ)が手がけた本作は、第70回ヴェネチア国際映画祭に出品され、昨年の東京フィルメックス映画祭での上映を経て、いよいよ日本公開へ。

秋もぐっと深まり、コートやブーツなどが気になるこの時期、ファッショニスタなら彼女の名前を知らない人はいないであろう、アニエスベーの監督作が公開になる。

え!? ファッション・デザイナーの彼女が映画監督? と驚くなかれ、アニエスベーと映画との繋がりは深い。デヴィッド・リンチ監督の『マルホランド・ドライブ』やクエンティン・タランティーノ監督の『パルプ・フィクション』など、数々の映画で衣装を手がけてきただけでなく、ハーモニー・コリン作品をプロデュース。自身の製作会社ラブ・ストリームスを設立し、さまざまな形で映画に情熱を捧げてきた。そして、幾本かの(服のための)短編映画を経て、今回はアニエスベー自身が脚本を担当、彼女にしか描けない珠玉のロードムービーを創り上げた。

セリーヌ役のルー=レリアは本作で映画初主演。アニエスベーがオーディションを重ねてやっと出会えた女の子なのだそう。彼女の魅力や着こなす洋服もぜひ楽しんで。


◆ストーリー

フランス、ボルドー地方。主人公の12歳の少女セリーヌは、夜遅くまで働く母親の代わりに妹と弟の面倒を見ながら暮らしている。そして、職がなくずっと家にいる父親からは虐待を受けていた。そんなある日、セリーヌは学校の遠足で出かけた海辺で、偶然停まっていたトラックに乗り込んでしまう。彼女が乗っていることを知らず、運転手のピーターは出発。結果、一緒に旅に出ることに。スコットランド人のピーターとセリーヌ、言葉が通じないふたりは次第に心を通わせていくが......。

少女と旅をするトラックの運転手役には、『ジダン/神が愛した男』を監督したダグラス・ゴードン。実は、世界の主要美術館での個展、グループ展を多数開催し、数々の賞を獲得しているアーティストとしての顔も。


◆アニエスべーが描く、旅の出逢い、自由であること

本作は、かつて新聞の片隅に書かれていた記事を元に、アニエスべーが想像を膨らませたのだという。それぞれ悲しい現実を抱えたふたりが、トラックの運転席と助手席で静かに心を通わせていく。彼らの横を通り過ぎていく風景、彼らが立ち止まって一緒に過ごす景色、印象的に流れる音楽、旅の途中で出会う哲学者、そのワンシーン、ワンシーンが鮮烈で、ふたりの何気ないしぐさを見ているだけなのに切なさや優しさ、言葉に出来ない感情が溢れてくるから不思議だ。

森の中でダンサーが暗黒舞踏を踊るシーンがあまりに神秘的。アニエスベーはかつてヴェネチア映画祭で暗黒舞踏に出合い、惹きつけられたという。映画で取り上げたのは、彼女の日本へのオマージュなんだそう。


◆集結した才能溢れるアーティストたち

また、参加している面々があまりに豪華すぎてクラクラする。音楽にはフランスのエレクトロポップ・デュオ、エール(Air)のジャン=ブノワ・ダンケル。またソニック・ユースも未発表音源を提供。さらには、アンディ・ウォーホールやジョン・レノンらと交流の深かったアメリカン・アンダーグラウンドを代表する映画監督、ジョナス・メカスがゲストカメラマンとして撮影したシーンが挿入され、そこにはイタリアの政治哲学者アントニオ・ネグリが登場。贅沢すぎる......。そして、そんな唯一無二な才能が集結しながらも、全編アニエスベー色に染まっているのが、これまたすごいところ。

今回はカメラを回し編集もすべて行ったというアニエスベー。独創的なシーンもいっぱいなので、お楽しみに。(c)kazou ohishi


◆さいごに

アニエスベーは1941年生まれ、ということは現在74歳。70歳を過ぎて、脚本・監督・撮影・美術を手がけるというエネルギーに感服するが、何より初監督とは思えない(なんて書くのもおこがましい気が......)自由で洗練されていて、繊細でいながら大胆で、優しくはあるが決して甘くはない、その瑞々しい感性に言葉が出ない。

シンプルで、カジュアルさもあるけれど品があって、時にロックで、ユーモアも覗かせたり、アートでもあったり......アニエスベーが手がける服やバッグ、アクセサリーはどんな人にでも似合うような親しみやすさと、着るとその人物の個性がにじみ出る不思議な魅力がある。本作も、シンプルなストーリーでありながら、観客それぞれが違った感想を持ちそうな、多くの魅力で溢れている。ぜひ、アニエスベーの感性が詰まった本作を、あなた流に心で着こなしてみて。

『わたしの名前は...』
監督・脚本・撮影・美術:アニエス・トゥルブレ(アニエスベー)
出演:ルー=レリア・デュメールリアック、シルビー・テステュー、ジャック・ボナフェ、ダグラス・ゴードン、アントニオ・ネグリ
(c)Love streams agnes b. Productions
2015年10月31日(土)、渋谷アップリンク、角川シネマ有楽町ほか、全国順次公開
http://uplink.co.jp/mynameis/


~これまで読んでくださった皆様へ~

今回で「きょうもシネマ日和」は終了となります。これまで読んでくださった方、本当にありがとうございました。毎回長い文章となってしまいました。(いい映画って語りたくなっちゃうんですよね......)もし、みなさんの映画セレクトのお役に立ったことが一度でもあれば、本当にうれしいです。

私も本コラムのおかげで、沢山の素晴らしい作品と出逢い、さまざまな気づきがありました。またどこかでお会いすることができますように。

最後に、ひとつだけお知らせさせてください。

<micひとり芝居のお知らせ>
micが作・演出・出演のワインをテーマにしたコメディ「メルシィ、Wine!〜ワインバーで生まれた4つの小さな物語」vol.2を上演します。もしご興味ある方は是非遊びにいらしてください! ワインを飲みながらご覧いただけるスタイルです♪

昨年の様子はこちら
https://www.youtube.com/watch?v=bZQ8Xy1R0jU&feature=youtu.be

詳細はこちら
http://www.kazumic.com/merci/

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