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吉高由里子さん、6年ぶりの舞台「沸き起こる喜怒哀楽や後ろめたさを噛みしめたい」

  • 2022.8.20
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主演作品が次々にヒット、この先も大河ドラマなどの主演が決まり、いま波に乗る吉高由里子さん(34)。この秋、2016年以来となる舞台に挑戦する。新人女優の死をめぐる映画監督と女優たちとの愛憎を描く『クランク・イン!』。映像作品とはひと味違う「生の空間」で、観客と同じ時間を共有する舞台に対し、吉高さんが抱く思い、俳優という仕事へのスタンスなどを聞きました。

「なんだったんだろう、この役」では終わりたくない

――『クランク・イン!』は、吉高さんにとって6年ぶりとなる舞台です。舞台作品についてどのような印象を持っていますか?

吉高由里子さん(以下、吉高): 映像作品とは、また感覚が全然違いますよね。例えば連続ドラマは週に1回放送されるので、次の回が流れる時間まで、ドラマを観ている皆さんの中でキャラクターがそれぞれ育まれているような感覚になると思うんです。連続ドラマで10回とか同じ役をやっていても、こうした放送日までの間(ま)があることで、毎回違う思われ方をされるのかなっていう印象があって。

でも舞台は、観ている方がステージに立っている俳優とヨーイドンで同時に始まる時間を共有できる。俳優と観客が閉鎖空間で、同じ時間を過ごす特別感があるなって思います。しかも生だから、毎回同じことが起こるとは限らない。観に来られる方も毎回違うし、私たち演じる側も同じ作品に出続けていても、毎日違う環境にいるような感じになります。

目に見えなかったものが形になって作品が育っていったり、自分の役を理解していったりする過程が楽しみというか。千秋楽の時に、「なんだったんだろう、この役」っていう感じで終わりたくないんですよね。

――そう感じた経験があったのですか?

吉高: 2015年に初めて出た舞台『大逆走』は、自分の中で整理しきれないまま初日を迎えて、最終的に整理しきれずに終わった印象があって。役に対しても自分でしっかりと掘り起こして、本番までに「大丈夫」と思えるところまで持っていけなかった時期だったのかもしれないですけど。だから正直、舞台に対してトラウマみたいな感覚がありました。

でも翌年の『レディエント・バーミン』は、1本目に比べて役をきちんと理解できていたと思います。舞台に対する気持ちや思いも、そこでだいぶ変わったんですよね。

演出の白井晃さんが、何もできない私に対して、ウォーミングアップも含めて一緒に体を動かしながら、理解できるまで粘り強く説明してくださって。役も含めて私のことを愛して、かわいがって育ててくださるみたいな。それこそ、本当に私のお父さんみたいでした。子どもの頃の1ヶ月の夏休みを過ごしたような深い思い出になりましたね。

朝日新聞telling,(テリング)

岩松さんは怖い。いい意味での「意地悪さ」がある

――今回の舞台『クランク・イン!』は、説明ゼリフを排し、感情やリアクションで戯曲を編む岩松了さんの作・演出です。岩松さんに対しては、どのような印象がありますか?

吉高: 岩松さんは、表面的なパブリックイメージと内面とのギャップや人間の裏表も考えながら、人の表情を見たり、話を聞いたりしている方なのかなと思うんですよね。

だから自分は岩松さんにどういう風に見られるのか、どういう言葉をかけられるのか、どういう風に挑発されるのか。役者という仕事の醍醐味として、稽古中に沸き起こる喜怒哀楽や後ろめたさを噛みしめる期間になるのかなって思います。怖いですけどね。

――やっぱり岩松さんには見透かされているようで、怖いですか?

吉高: 今回共演する眞島秀和さんも、岩松さんのことを「人間の本性、人間の汚い部分をかなりきちんと描いている人」と言っていたんですけど、どれだけ常識を超えた物語が書けるんだろうとか、俳優が発した1つの言葉の揚げ足を取るとか、普通の人では考えられないようないい意味での「意地悪さ」を持っている方なんじゃないかな、と思っています。

私は思ったことを本当にすぐ口に出しちゃうタイプなんですね。「それはイヤ」とかも。だから稽古中の余計なトークは控えようと思います。「どうしてそうなんだ?」と聞かれても答えられないし、理詰めにされても困るから(笑)。

――今回、演じるのは「プロデューサーの紹介でそれなりの役に抜擢された女優」ですね? 台本は冒頭数ページだけが出来ていて、共演者との顔合わせもこれからと聞いています。

吉高: 気の強い女優の役じゃなければいいけど(笑)。気の強い役って、やっぱり体力を使いますよ。最終的に、どこに着地していいのかわからなくなりますもん。その上、劇中劇というか芝居の中で芝居をする人の役として全員舞台に出る。頭の中がいろいろとこんがらがりそうな役どころなんです。眞島さんが演じる映画監督も、いままで会ったどの監督を参考にしているのか楽しみですし。

朝日新聞telling,(テリング)

重大な交通事故で意識が変わった

――2004年にスカウトされて芸能界入りしてから、そのキャリアはもう18年になりました。これまでのお仕事を振り返って、俳優業のターニングポイントだなと思った時期はありますか?

吉高: 俳優っていうのはこういう仕事なんだと、心のスイッチが入ったのは連続ドラマに出た時ですね。小日向文世さん主演の『あしたの、喜多善男~世界一不運な男の、奇跡の11日間~』(2008年)とか、織田裕二さん主演の『太陽と海の教室』(同年)とか。世の中の連続ドラマの認知度のすごさというか。初めて街中で知らない人から声をかけられた時は、もうびっくりして。私の知らない人が私のことを知っている違和感は、10代後半から20歳ぐらいまで抱いていました。

『あしたの、喜多善男』の時は、役柄で「落ち目のアイドルの子」とか言われたり、『太陽と海の教室』の時は「あのギャルの子」とか言われたりして。あ、映画『蛇にピアス』の主演の時も、街で声をかけられました。

朝日新聞telling,(テリング)

――『蛇にピアス』は撮影前に、交通事故で重症を負ったんですよね。

吉高: 『蛇にピアス』の前までは、仕事に呼ばれたら現場に行って、その場で言われたことをして家に帰ってくるようなスタンスで。この仕事の責任とか、そういうのがあんまりわかっていなかったんです。

それが、『蛇にピアス』のオーディションに受かった後に交通事故で重症を負い、ICUに入って生死の境をさまよいました。撮影も他の俳優さんのスケジュールも全部飛ばしてしまうことになって。

私の知らないところで、私のことで頭を下げ続けている大人たちがいる。その様子を目の当たりにして、俳優の仕事は1人でやっているんじゃないっていう。こんなにも大勢の方が関わっていて、私1人の事故でこんなにも皆さんのスケジュールを引っ掻き回してしまうんだなと。そこから俳優の仕事に対する心構えが変わったと思いますね。

スタッフさんとの関係とか、ファンの方との関係とか、作品との関係とか。そういう関係性が客観的に見つめられるようになったんですよ。こうして長く関わった人や作品との関係を出来るだけ長く結びたい。末長く愛される作品にたくさん携わりたいんです。それがいまの目標かな。

■横山 由希路のプロフィール
横浜生まれ、町田育ちのライター。エンタメ雑誌の編集者を経て、フリーランスに。好きなものは、演劇と音楽とプロ野球。横浜と台湾の古民家との二拠点生活を10年続けており、コロナが明けた世界を心待ちにしている。

■岡田晃奈のプロフィール
1989年東京生まれ、神奈川育ち。写真学校卒業後、出版社カメラマンとして勤務。現在フリーランス。

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