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「二週間で7キロ落とした」過酷なダイエットをした姉を家族が止めない理由

  • 2022.8.16
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青戸しのが乙女の憂鬱に寄り添うコラム連載!

”女の子の憂鬱に寄り添う”がテーマのarwebコラム連載「今日は乙女休みます」。毎回違うテーマに沿って紡がれる青戸しのさんの言葉にちょっと身を委ねてみて♡

第五回のテーマはダイエット。「ダイエットしなくても痩せてるのに」そんな何気ない一言に青戸さんが思うことは?

二週間で七キロ減量した姉、心配なのは体だけじゃなく…

「あんた深夜にそんなもの食べて太るよ」

時刻は午前一時。突然背後から声をかけられて持っていたピザを落としかけた。
振り向くとお風呂上がりの姉が恨めしそうにこちらを見ている。
私たち姉妹はタイミングを合わせて久々に実家に帰省していた。
「お母さんが夜食勧めてくれて断れなかったの」
姉はふうんと怪訝な顔をして正面の椅子に腰掛けた。
「飲み物いる?」
キッチンから顔を出した母が嬉しそうに姉に声をかけた。
「うん欲しい」
「何がいい?ビール、レモンサワー、紅茶、コーヒー、牛乳、お茶、あ、スムージーも作れるよ、バナナあったかな」
飲食店でも経営するつもりなのだろうか。
冷蔵庫を確認しに行こうとする母を姉は慌てて引き留めて「ビール、ビールがいいです」と注文した。

Photo by Adrian Dascal on Unsplash

「何かいいダイエット方法とかあるの?」
三枚目のピザに手を伸ばしたところで姉に聞かれた。
「うーん、食べなくてもいい時は食べないよ、あとはなるべく歩くとかそれくらい」
「別に太ってないじゃない」お皿洗いを終えた母が会話に入ってきた。

「だってダイエットしたもん二週間で七キロ落としたもん」

信じられない数字に耳を疑った。
二週間で七キロ痩せるには相当過酷な制限をかける必要がある。
「どんなダイエットしたの」「ほぼ食べない、飲み物は水だけ、ひたすら筋トレ」
夏にそんな生活をすれば下手したら命に関わる。そんなことは誰にでもわかるし、きっと姉もわかっている。母は心配そうに「もう十分細いよ」と説得していたけれど、私にはもっと心配な要因があった。

「誰かに何か嫌なこと言われた?」
「いや、言われてない私がしたかっただけ」

母はきょとんとして私達の話を聞いていた。
それなら気の済むまでやればいいよ、暑いから水と塩は摂取してね」
「そうする」と姉は笑った。

人のダイエットについて心配すべきなのは”過程”ではなく”動機”なのだ

一人一人身長や体質が違うように、それぞれに合ったダイエット方法があるのだ。

自分の持つ知識が、相手にとって正しい内容とは限らない。
唯一心配できる事があるとするなら、過程ではなく、動機についてだ。

昔Instagramの質問箱に「友達や両親に心配をかけたくなくて無理して食べて吐いてしまいます」と連絡をくれた女の子がいた。プロフィールに飛んでみると、彼女は高校生だった。
DMで話を聞くと彼氏の些細な一言がきっかけだったらしい。

「命に別状がない限りはやりたいようにやればいいよ」とそんなようなことを当時の私も言った気がする。
近しい人間には健康でいて欲しいと願う気持ちもよくわかるが、心が置き去りだと意味がない。
どうでも良いと思っているわけではなくて、どうにもならないと思っているのだ。

食べても、食べなくても、太っていても、痩せていてもあなたの身体はあなただけのものだと伝えたかった。
自分の好きなように、自分を好きでいられるように自由に生きていいのだ。

青戸しの

「ダイエットは心をいっぱいにしてから」

三枚目のピザを食べ切ったあたりで「昔は何出しても全然食べなかったのに」と母が嬉しそうに言った。
お弁当を残して帰ってきたこと、朝ごはんを食べずに学校に行ったこと、家族揃って食べる夕飯に私だけ参加しなかった夜を思い出して胸が痛んだ。

「美味しいよ全部、朝ごはんも楽しみ」

声に出すと涙が出そうになって慌ててお茶を飲み干した。
「私も朝は白米食べようかな」と姉が言うと「じゃあ土鍋で炊かなきゃ、そっちの方が美味しいのよ」と母は足早にキッチンに向かっていった。

ピザは一枚目でもう満腹だったけど、今は大切な人と美味しいご飯をお腹いっぱい食べたい。

丁寧にグラスに注がれたビールを揺らす姉もきっと同じ気持ちなのだろう。ダイエットは心をいっぱいにして、明日からまた頑張ればいいかと母の後ろ姿を見て思った。

青戸しの
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