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テレビアニメ「氷菓」放送10周年!「クドリャフカの順番」編を軸に、そのおもしろさを再確認してみる

  • 2022.8.14
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青春時代の輝きと葛藤をミステリーと合わせて描いた、京都アニメーション制作による名作テレビアニメ「氷菓」が、2022年4月に放送10周年を迎えた。原作は2001年から刊行された推理小説「〈古典部〉シリーズ」で、原作者の米澤穂信はシリーズ第1弾となる「氷菓」で、第5回角川学園小説大賞のヤングミステリー&ホラー部門で奨励賞を受賞。以降多くのミステリー作品を発表し、山本周五郎賞や直木三十五賞などにも輝いたほか、第43回横溝正史ミステリ&ホラー大賞の新選考委員にも就任した。

【写真を見る】おなじみの「私、気になります!」で奉太郎を翻弄する千反田える

テレビアニメ放送10周年の「氷菓」 [c]米澤穂信・角川書店/神山高校古典部OB会
テレビアニメ放送10周年の「氷菓」 [c]米澤穂信・角川書店/神山高校古典部OB会

日常に潜む些細な“謎”を解き明かす青春ミステリー

テレビアニメ「氷菓」は2012年4月から9月にかけて2クールで放送。ずば抜けたひらめきと推理力を持ちながら、省エネ主義で面倒事を嫌う神山高校の1年生、折木奉太郎(声:中村悠一)は、同校のOGである5歳上の姉、供恵(声:雪野五月※現在はゆきのさつきに改名)の頼みで廃部寸前の古典部に入部する。そこで出会ったのは、成績優秀で眉目秀麗だが、好奇心旺盛で日常の些細な違和感や謎に首を突っ込みたがる千反田える(声:佐藤聡美)だった。

なにかに強く興味を引かれたえるが、目を輝かせて「私、気になります!」と発言するたび、奉太郎は持ち前の推理力を働かせて“事件”を解決していく。自らを“データベース”と称し、多彩な情報をもたらして奉太郎をサポートする親友、福部里志(声:阪口大助)、奉太郎とは小学校からの同級生で、ことあるごとに辛辣な言葉を投げかけてくる伊原摩耶花(声:茅野愛衣)といった、個性豊かな古典部メンバーも加わり、様々な謎を解き明かしながら、青春の光と影が描かれていく―。

「〈古典部〉シリーズ」の「氷菓」(角川文庫) 著/米澤穂信 発売中 価格:572円 KADOKAWA刊
「〈古典部〉シリーズ」の「氷菓」(角川文庫) 著/米澤穂信 発売中 価格:572円 KADOKAWA刊

高校生活最大のイベント、文化祭が舞台の「クドリャフカの順番」

「〈古典部〉シリーズ」は計6巻が刊行されており、テレビアニメではそのなかから、「氷菓」「愚者のエンドロール」「クドリャフカの順番」「遠まわりする雛」をメインに構成。特に高校生活最大のイベントである文化祭を舞台にした、「クドリャフカの順番」(アニメでは12~17話に相当)は、他人の才能への羨望と嫉妬、挫折など、青春時代特有の歯がゆい思いが様々な謎と共に描かれ、謎解きの爽快感と同時にほろ苦い後味を残してくれるエピソードとして人気が高い。

神山高校最大のイベントである文化祭、通称“カンヤ祭”で、文集「氷菓」を出品することになった古典部は、部数を間違えて大量発注してしまい、あの手この手で完売を目指すことになる。一方、各展示ブースでは「十文字」を名乗る怪盗が様々な部から物品を盗みだすという事件が起き、生徒たちを騒がせていた。十文字の犯行にある法則性を見つけた奉太郎は、これに乗じて「氷菓」の宣伝をしようと画策する。

「〈古典部〉シリーズ」の「クドリャフカの順番」(角川文庫) 著/米澤穂信 発売中 価格:704円 KADOKAWA刊
「〈古典部〉シリーズ」の「クドリャフカの順番」(角川文庫) 著/米澤穂信 発売中 価格:704円 KADOKAWA刊

古典部に訪れた試練に絡む「十文字事件」

「クドリャフカの順番」のおもしろさは、ちりばめられた複数の謎が伏線となり、最終的に一つの思いへと収束していくところにあるだろう。これだけ多くの伏線を、非常に緻密な計算で配置した構成力、意外性の数々には脱帽し、観始めると止まらなくなる。クイズ大会、壁新聞への掲載、お料理バトル、校内ラジオの生放送出演と、文集完売のため宣伝活動に勤しむえると里志。漫画研究会と兼部している摩耶花は、漫画に関する見解の相違から部の中心である先輩と口論になり孤立してしまう。

そんななか、奉太郎は部室でのんびり店番をしながら、姉にもらった壊れた万年筆をきっかけに、「安全ピン→水鉄砲→小麦粉…」と“わらしべプロトコル”を行い、最終的には同人漫画「夕べには骸に」を手に入れる。一見すると無関係と思われていたものが意外なところで仲間を助け、十文字の正体を暴きだす重要なキーアイテムとなる。ミステリーにおける最大の魅力である謎解きと、アニメにおける伏線回収の楽しさが相まって、なにがどう転がっていくのかわからないワクワクへと導いてくれる。最後に奉太郎は、その明察な推理力と機転によって、古典部のピンチを救うことになるのだが…。

神山高校古典部を舞台に青春の光と影が描かれていく [c]米澤穂信・角川書店/神山高校古典部OB会
神山高校古典部を舞台に青春の光と影が描かれていく [c]米澤穂信・角川書店/神山高校古典部OB会

才能と羨望…青春期の光と影があぶり出される

テレビアニメ「氷菓」は単なるミステリーにとどまらず、登場人物たちの光と影も映しだす。自分と他人を比べ、才能のあるなしで勝手に期待したりあきらめたり、自分の将来と現実の狭間で思い悩む学生たち。ミステリーとはそんな人の心の隙間から生まれるものであり、まだ自分のことすらわかっていない奉太郎たちの年代にとっては、青春こそがミステリーだと言えるだろう。そんな彼らの前で起こった「十文字事件」は、とある学生の無自覚な才能によって心に傷を負った者による犯行であり、その正体を奉太郎が公にすることはなく、どこか歯切れの悪い幕切れを迎える。

【写真を見る】おなじみの「私、気になります!」で奉太郎を翻弄する千反田える [c]米澤穂信・角川書店/神山高校古典部OB会
【写真を見る】おなじみの「私、気になります!」で奉太郎を翻弄する千反田える [c]米澤穂信・角川書店/神山高校古典部OB会

「クドリャフカの順番」だけでなく、文集「氷菓」と“カンヤ祭”の名前の由来、「愚者のエンドロール」の結末なども同様だ。しかし、それらのしこりは青春時代に誰もが感じたであろう苦味や痛みを呼び起こし、観た者の心にしっかりとなにかを残していく。これこそが「氷菓」が並のミステリーではないことの所以なのかもしれない。

文/榑林史章

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