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有村架純×中村倫也『石子と羽男』3話。ファスト映画の何が悪いのかわからない相手を弁護できるか

  • 2022.8.5
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金曜ドラマ『石子と羽男―そんなコトで訴えます?―』(TBS系)3話では「ファスト映画」事件を主軸として「著作権法違反」の問題に迫ります。有村架純と中村倫也をダブル主演に、『MIU404』『最愛』(ともにTBS系)などを手掛けた新井順子プロデューサー×塚原あゆ子ディレクターがタッグを組んだドラマの3話を振り返ります。

「何が悪いのかわからない」

7月29日放送の金曜ドラマ『石子と羽男ーそんなコトで訴えます?ー』(TBS系)第3話。映画好きの大学生・山田遼平(井之脇海)は、映画を短く編集したいわゆる「ファスト映画」を動画サイトに無断アップロードしていた。映画会社から「著作権法違反」で告訴され、逮捕された遼平。国選弁護人として、羽男こと羽根岡佳男(中村倫也)は不起訴にするために示談に持ち込むことを目指す。

逮捕され後悔しているかと思いきや、遼平は「ファスト映画は喜ばれていた」「映画を見たくなったというコメントもあった」などと言う。反省していることを示し、せめて執行猶予を、と考える羽男の思い通りにならず、遼平は法廷でも「何が悪いのかわからない」と言い切る。世間から注目されている事件とあってやる気を出していた羽男だが、被告人の態度に事件を投げ出そうとしてしまう。

ファスト映画に関しては、実際に「何が悪いのか、実はあまりよくわからない」と思うひとも多いのではないだろうか。羽男とパラリーガルの石子こと石田硝子(有村架純)は、「著作権法違反」という概念を共有できている。第3話は、映画の違法アップロードはいけないということを共有できない相手をどう弁護するかが、ふたりに立ちはだかった壁だ。

潮法律事務所は羽男の居場所に

第3話では、初めて羽男の家族が登場した。姉の優乃(MEGUMI)は検事、父の泰助(イッセー尾形)は裁判官だ。泰助は自分の子どもたちが有能であると疑わない。羽男にも「君は誰にも負けないよ」「君は天才だ」「できる子なんだ」と声をかけ続ける。優乃は父親の言葉に適当に相槌を打てるが、羽男はそれができないでいる。

確かに、法律の知識は誰にも負けない。けれど羽男は、どうすれば依頼人の望む結果を得られるのかがわからずに弁護士として苦労をしてきた。羽男は他人の気持ちを察したり、自分をそれに合わせることが難しい性質なのだろう。優乃と泰助とのやり取りから、家族が羽男のそんな性質を理解してくれていないこともうかがえた。
石子が好きなのかと大庭蒼生(赤楚衛二)に聞かれて「俺そういうの鈍いから」と答えていたのも冗談や照れ隠しではなさそうだ。

潮法律事務所には、同じ名字を名乗っている人はいない。潮綿郎(さだまさし)、石田硝子、羽根岡佳男、大庭蒼生とバラバラだ。でも、一緒に食卓を囲む時間があり、石子は羽男の「ブランディング」にこだわる性質に歩み寄る。綿郎は羽男の悩みをわかったうえで雇っている。石子が育てている豆苗を茶化したり、食事に誘う綿郎に素直に従ったり、羽男が自分のしたいように振る舞える空間になっている。

石子の両親が離婚していることは第2話で語られたが、なぜ石子と綿郎が別々の名字を名乗り続けているのかは謎のままだ。石子と綿郎がその距離感を選び続けている理由はまだわからないが、同じ名字ではない距離感だからこそ良い関係が築けている可能性はあるだろう。

綿郎は、「真面目に生きる人々の暮らしを守る傘となろう」をモットーに法律相談を受けている。その言葉は相談者に限らず、石子、羽男、大庭にとっても、潮法律事務所は彼らの弱い部分を守る居場所となっている。

「わからない・知らない」を出発点に

山田遼平を演じた俳優・井之脇海は、2018年にドラマ『義母と娘のブルース』(TBS系)で演じた上白石萌歌の幼馴染み役が印象的だった。笑顔に嫌味がないさわやかさと朴訥さを感じる俳優だ。

井之脇海が演じる遼平は、法廷で「ファスト映画の何が悪いのかわからない」と言い放つ。

彼は映画好きで、特に山田恭兵監督(でんでん)の映画のファンだ。「繊細な心理描写」などの山田恭兵作品の良さもちゃんと理解している。作品の良さを知ってほしくてファスト映画を投稿し続け、「動画を見て映画を見たくなった」などの肯定的なコメントを素直に信じる。山田映画以外の投稿についてもそう思っていただろう。

インターネット上で起こる問題については、悪意や人を傷付けることに目が向けられがちだ。ネット上のいじめや誹謗中傷、詐欺の問題は多くのドラマで扱われてきた。しかし、遼平には悪意がなかった。彼が「何か悪いのかわからない」の理由のひとつに挙げていたのが、自分の投稿したファスト映画を見た人が喜んでいたということだ。

そもそも映画をつくることに憧れていた遼平だから、編集した動画が肯定されたら嬉しかっただろう。動画から収益は得ていなかった。好きな映画を無償で宣伝をしているような気持ちすらあったかもしれない。だが、彼の善意は「著作権法違反」だ。

遼平が逮捕勾留されたあとに山田恭兵監督の新作映画『穢れし曳航(えいこう)』のファスト映画が投稿され、事態は複雑化する。「監督が(話題作りのため)ファスト映画を投稿した」とまで勘違いされ、風評被害が起きてしまう。その影響で、監督が10年かけて制作した映画『穢れし曳航』は上映打ち切り、興行的にも失敗する。山田監督は65歳、次回作にまた10年かかるとしたら、もう映画はつくれない可能性もあるという(終盤で明かされる『穢れし曳航』のファスト映画投稿者は、監督ではなかった。もちろん遼平でもない)。

石子は「声をあげてほしい」と繰り返し言う。だが、山田監督のように「映画の評判はすべて私の責任です」「身内の恥は身内で解決したい」と考える人にとっては、声をあげることは自分の生き方や美学に反する。自ら声をあげるのは難しいことだった。そんな現実社会の問題を、『石子と羽男』は「わからない・知らない」を出発点にして描いていく。

8月5日放送の第4話では、最近急増している電動キックボードの事故の加害者弁護をする。堂前絵実(趣里)と妹の一奈(生見愛瑠)家族と接することで、石子や羽男がそれぞれの家族との関係を変化させていくのだろうか。

■むらたえりかのプロフィール
ライター・編集者。エキレビ!などでドラマ・写真集レビュー、インタビュー記事、エッセイなどを執筆。性とおじさんと手ごねパンに興味があります。宮城県生まれ。

■pon3のプロフィール
東京生まれ。イラストレーター&デザイナー。 ユーモアと少しのスパイスを大事に、楽しいイラストを目指しています。こころと体の疲れはもっぱらサウナで癒します。

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