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西島秀俊演じる“おじさん”はなぜかわいい? 『ユニコーンに乗って』が描く成長のチャンス

  • 2022.8.2
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『ユニコーンに乗って』(c)TBS/撮影:加藤春日

「西島秀俊」をSNSで検索すると「かわいい」とサジェスト表示された。火曜ドラマ『ユニコーンに乗って』(TBS系)を観た視聴者が、どれだけ彼に心を掴まれつぶやいているのかがわかる現象だ。

とはいえ、『ユニコーンに乗って』で彼が演じているのは、20代が中心となって立ち上げたスタートアップ企業「ドリームポニー」に転職してきた48歳の元銀行員・小鳥。年下の上司や同僚たちから「おじさん」と呼ばれる人物だ。

一般的に「おじさん」という呼称に「かわいい」が付くのは非常にレアだ。むしろ「おじさん」には「いい年した男性」のような、どちらかといえば少々ネガティブな場面で使われる場面も多いように感じる。実際、本作においてもそうした「おじさん」が何人か登場してきた。

若きCEOとして会社の資金繰りに奔走する佐奈(永野芽郁)に投資の話を持ちかけながら、最終的には下心が透けて見えた投資家の高山(飯田基祐)。息子の功(杉野遥亮)が思い通りの就職をしないことから、ドリームポニーの入るオフィス賃料を値上げしようと圧力をかけてきた功の父親……。彼らの言動を見て、同じ「おじさん」だからといって、みんなが「かわいい」とはならないことがわかる。

では、なぜ西島秀俊が演じる「おじさん」は「かわいい」のか。西島の持つルックスに年齢を感じさせない魅力があることはもちろんだが、それ以上に小鳥という人物の誠実さがまっすぐ伝わってくるからではないだろうか。

「素直さだけは満点だね」とは、ドリームポニーの面接にやってきた小鳥を見て栗木(前原滉)の口から出た言葉。教育系IT企業にも関わらず、教育業界の経験もIT用語にも疎い未経験者の小鳥は、即戦力を希望していた中途採用において場違いとも言える存在だった。しかも、かなりの年上。扱いに困る佐奈たちだったが、そんな不利な状況においても一目置かざるを得ないほど、小鳥の魅力が伝わってくるセリフだ。

また、一緒に面接を受けた大学生の森本(坂東龍汰)のPC画面を無邪気に覗き込み、その高い技術に感動して思わず拍手……と、好奇心旺盛な小鳥らしい言動が見て取れた場面だったが、このシーンについて西島はオーディオコメンタリーで「無茶なこと要求されてるんですよ。“覗きに行ってくれ”とか“拍手してくれ”とか(笑)。おかしいじゃない!」と監督に笑顔でクレームを述べていた。

そんなツッコミどころを感じながらも全力で演じている西島の柔軟さと、全くの未経験でありながらも若い上司や先輩たちのもとで懸命に新しいことに取り組もうという小鳥の素直さとがリンクしているかのようだ。

さらに先のオーディオコメンタリーでは、共演者とスタッフとで「佐奈の家の家賃がいくら(の設定)なのか」という話題になると、「その値段では住めないのではないか……」と現実的な意見も飛び交う。すると西島が「いいじゃない、ドラマなんだから、ちょっと夢のある(設定でも)」と笑いをまじえて場を収めていく。そんな余裕のある対応にも小鳥と通じるものを感じた。

西島も小鳥も積み上げてきた確かなものがあるにも関わらず、そのキャリアを自らひけらかすような驕りはない。むしろ「能ある鷹は爪を隠す」のごとく、まるで小さなシジュウカラのように振る舞い、若き力から「学ばせてもらう」という謙虚さがベースにある。

そして、いざその若さや勢いだけでは収拾がつかなくなったときには、経験をもとに落ち着きある行動に出る。そんな実は頼りがいのある「おじさん」が、健気にアップデートしようと取り組む姿は「かわいい」し、「すごい」し、「かっこいい」のだ。

このドラマは主人公の若い佐奈たちが学び、成長していくのと同じく、小鳥の存在が何歳からでもそのチャンスはあるのだと示してくれるようだ。そのためには誇りを胸に秘め、プライドを捨てていく勇気のほうがよっぽど魅力的な人間だと見せてくれる。

この作品において小鳥が銀行員として取引先企業との付き合いやアナログの体験会など地道な営業活動が活きたように、西島がこれまで培ってきたキャリアが垣間見えるシーンも多々あった。佐奈が思わず投資家の高山にパンチしそうになったのを止める場面は『ストロベリーナイト』(フジテレビ系)で姫川の拳を素手で受け止めていた菊田を思い出す。また、朝から手料理を惜しむことのない丁寧な暮らしぶりは、『きのう何食べた?』(テレビ東京系)のシロさんがよぎる。そんな西島が見せる安定感のある仕草が、まだ明かされていない小鳥のバックグラウンドを想像させる。もっと知りたいと思わせる魅力的なキャラクターとなっていく。

この社会では「若者」と「おじさん」だけではなく様々なギャップがある。ものすごいスピードで情報が駆け巡る現代では、かつてどの時代にもなかったような格差が広がる可能性も。そんな分断が生まれやすい時代において、異なるものを見て生きてきた人を「もっと知りたい」と思わせる人がきっと必要なのだろう。イノベーションはいつだって既存の要素を掛け合わせるところから始まるのだから。

その掛け合わせの最も身近な入口が「かわいい」なのではないだろうか。本作を見ながら、何歳になっても青春時代のようにワクワクしながら生きることへの憧れを持った人もいるはずだ。どうしたらそんなふうに日々を過ごすことができるのか。そのヒントは、西島から、そして小鳥から感じられる「誇りを持つ大人こそ、かわいくあれ」のマインドなのかもしれない。

(佐藤結衣)

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