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連載エッセイ|#ijichimanのぼやき「ウナギ」

  • 2022.8.2
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夏と言えばウナギ。なんだけど、ウナギはいつの間にかやたら高騰してしまった。いまや、うな重4,000円は当たり前。高級店だと5,000~7,000円くらいする。いつからこんなことになったのだろうか。

連載エッセイ|#ijichimanのぼやき

第38回「ウナギ」

夏と言えばウナギ。なんだけど、ウナギはいつの間にかやたら高騰してしまった。いまや、うな重4,000円は当たり前。高級店だと5,000~7,000円くらいする。いつからこんなことになったのだろうか。

Photographs and Text by IJICHI Yasutake

高校の頃でも、土曜昼にちょっと贅沢しよう的なノリになった時は気軽に行けたし、(渋谷スクランブル交差点にある「松川」によく行った)、社会人になったばかりの頃も銀座に行った時は「登亭」でサクッと食べたりした。当時は1,000円前半で食べられたから、ここ20年でざっと3倍くらいに跳ねている。

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養殖に使う二ホンウナギの稚魚であるシラスウナギの取引価格は、2003年16万円/1kgだったのが、2013年には248万円と約15倍となっている(水産庁データ)。その理由は、日本が食いちらかしたせいだとか、中国や韓国で需要が急に伸びたせいだとか、色々言われているがどちらも正しいのだろうし、そうした過程の中で、安価な輸入ウナギのメインだったヨーロッパウナギが絶滅危惧種に指定されて取引が全面禁止になったことも影響しているだろう。

これに伴ってか、日本での1世帯あたりのウナギのかば焼きの年間支出額平均は、2001年には3,670円だったのに対し、2021年は2,241円まで減っている。ここのところ徐々に持ち直しているが、2019年は1,637円まで落ち込んでいた(総務省調べ)。ウナギの取引価格と消費者の年間支出額を照らし合わせれば、食べる頻度が激減していることは間違いなく、色んな理由が重なったにせよ、とにかく、ウナギが急な価格高騰によってケの日からは遠ざかり、ハレの日のご馳走になったことは紛れもない事実と言えるだろう。

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ただ、松茸や河豚のように生まれた時から高級品だったなら良いものの、そもそも庶民的だったものが急に高級品になっても、僕はちょっと気持ちがアジャストできない。仲良かった友だちが有名になって垢ぬけたらなんだか天狗になってしまったような、そんな感じに近い。有名になっても何も変わらず天狗にならない人は多数いるわけで、できればウナギにもそういう親しみやすい存在でい続けてほしいと思っている。

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僕は浦和に縁がある家系だからウナギは身近な存在だったし、子どもの頃は浅草あたりに遊びに行くとウナギかどぜうを食べて帰る、という感じだった。15年くらい前に、浅草の「色川」という1861年創業の老舗ウナギ屋に妻(当時彼女)と行った。今は亡き先代のおやじがなかなか粋な人で、常連のおっさんと酒を酌み交わしながら三社祭の話ばかりしてた。で、何を頼もうか迷ってたら、「細かいことでそんな悩んでたら振られんぞー」とか言われて、一気に空気が和らいで、オヤジが持っている江戸情緒を存分に楽しませてもらった。

そんなわけで、ウナギに関しては、数々の名店があって確かにおいしいのはわかるのだけど、僕としては、「今日はウナギ食べるぞ!」と気合を入れて味わって食べるんじゃなくて、「ウナギにしようか」くらいのノリでカジュアルに楽しみたい。

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1.寿々㐂:東京都大田区西蒲田7-63-2

蒲田のウナギ酒場。蒲田と言えば餃子に行きがちだけど、たまにはウナギも良かろう。西口の高架に沿う商店街~飲食街の奥にある、1935年創業という老舗。外観からして昭和然としている。予約必須の肝焼きから、うざく、たたき、柳川、〆にかば焼きというウナギフルコースを大勢で楽しみたい。

みんなで行けば、酒も呑んで、ひとり4,000円くらいでフルコースが楽しめる。ただし、19:00には売切れ御免のメニューも多数あるので、早めに行くのがオススメ。17:00くらいから早めスタートして、一杯やりたい。

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2.ほさかや:東京都目黒区自由が丘1-11-5

1950年創業の歴史深い自由が丘のウナギ酒場。自由が丘で呑むなら、隣の「金田」とあわせてこの「ほさかや」は外せない。ひと昔前までは喫煙OKなのに灰皿がなく、タバコは床で消してそのまま捨てていたのだとか。それくらい昭和文化がガッツリ残る酒場。瓶ビールを傾けながら、まずは、うざくや煮こごりをつまむ。

初めて行くなら、“ひととおり”をオーダー。ひととおりとは、「ひれ」「きも」「からくり」「かしら」のいわゆるウナギのフルコース。ちなみに、「からくり」とは、さばく時に出る切れ端だそう。寿々㐂が大勢で行く酒場なら、ほさかやは1人でも楽しめる酒場。良質な酒場の証とも言えるコの字カウンターで、山椒をたっぷりかけたウナギ串を1本1本堪能しながら、酒で流し込む。おひとり様のなかなか贅沢な時間。差し呑みの日の0.5軒目で立ち寄ってもいいかも。こちらも席は常に埋まっているので早い時間から行くのがオススメ。

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3.なまずや(県庁前):岐阜県岐阜市薮田南1-13-9

さて。ウナギの食べ方が関東と関西で違うのは知っているだろうか。関東のウナギは蒸してから焼くのでふっくらしているけれど、関西は蒸さずに焼き上げるのでカリっとしている。ウナギの“ふっくら”という表現は関西の人に言わせると“べちゃべちゃ”だと言う。

数年前岐阜に行った時、一緒に仕事した地元の方に教えてもらった名産品がウナギ。山と川の国だから夏は鮎、冬は飛騨高山まで行けば牡丹鍋(猪)をはじめとしたジビエが絶品らしいけれど、冬の市街でサクッと文化を楽しむならウナギがいちばん良いと。「なまずや」は岐阜県内で複数店展開している(直営かFCか暖簾分けかなどは不明)。

複数店展開していると言ってもレベルは高い。運ばれてくるウナギは色濃い。カリっと言っても、パリパリサクサクというわけではなく、表面はこんがりしていながら中は職人の絶妙な焼きの技術によって柔らかく仕上げられている。ごはんとの相性も非常に良くて、一気にかきこみたくなる。関東ウナギも関西ウナギもどっちもいい。ちなみに、関東と関西では焼き方だけではなく、開き方も違うらしい。関東が背開き(腹を切ると切腹になるからという武士文化)で、関西は腹開き(腹を割って話すという商人文化)とのこと。味に影響があるのかどうかは、わからん。

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4.神田きくかわ(神田):東京都千代田区神田須田町1-24-2

夏になるとやっぱり一回はウナギ、それもちゃんとうな重を食べたい。けれど、あまりに高級だったり予約が取れなかったりというとちょっと面倒くさい。しかもウナギ屋は高価格なのにいまだに現金しか使えない店が多かったりして、色々と煩雑なことも多い。

そんな時に重宝するのが、きくかわ。1947年創業、神田須田町という文化的一等地にあって情緒もしっかり堪能できるのに、価格もいい具合で楽しめる。ウナギが高騰して以降、数年前のインバウンド景気で日本文化への需要が高まって以降、昔に比べてウナギのサイズがだいぶ小さくなったなぁ、、、と感じる残念な老舗もある中で、ちゃんと良いサイズ感をキープ。甘めだけどしつこくないタレとふっくらしたウナギ、そしてごはん。三位一体のバランスが最高。「あー、やっぱり夏はウナギだね」というこの上ない満足感で、胃も心も満たされる名店。

なんだかんだ夏はやっぱりウナギ。みんなでうな重をお腹いっぱい食べるのが簡単に叶わなくなったとはいえ、スーパーでパックに入っているのを買ってきて食べるのはなんだか味気ない。昔ながらの雰囲気を気軽に味わいながら手ごろに楽しむ術も、探せばまだまだたくさんあります。ウナギをつまみに日本酒くいっと呑んで、英気を養いましょう。

伊地知泰威|IJICHI Yasutake
1982年東京生まれ。慶應義塾大学在学中から、イベント会社にてビッグメゾンのレセプションやパーティの企画制作に携わる。PR会社に転籍後はプランナーとして従事し、30歳を機に退職。中学から20年来の友人である代表と日本初のコールドプレスジュース専門店「サンシャインジュース」の立ち上げに参画し、2020年9月まで取締役副社長を務める。現在は、幅広い業界におけるクライアントの企業コミュニケーションやブランディングをサポートしながら、街探訪を続けている。好きな食べ物はふぐ、すっぽん。好きなスポーツは野球、競馬。好きな場所は純喫茶、大衆酒場。
Instagram:ijichiman

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