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星野佳路、中村洋基、田中絢子。あの人はどんなビジネス書を読み込んでいる?

  • 2022.7.13
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『実践 顧客起点マーケティング』西口一希/著

観光産業の概念を広げる、リゾート経営のトップランナー。星野佳路

星野リゾートの基本はこの本に。

アメリカの経済学者、フィリップ・コトラー先生とお会いした時のこと。ビジネスの話になり、「ファイブ・ウェイ・ポジショニング」という経営理論を教えていただきました。当時はそういったタイトルの書籍や論文もなく、1年かけて探し当てたのが『The Myth of Excellence』でした。

今回紹介する本はその和訳版。ここで言うファイブ・ウェイとは、商品、価格、経験価値、サービス、アクセスの5つの要素からなるポジショニング戦略のこと。本書では、すべての要素において完璧を目指すのは非効率的であり、各企業の状況により磨くべき要素は異なると書かれています。

5つのうち、どれか1つの要素を最高レベルで達成し、2つ目に選んだものは、同業他社との差別化を図るための要素に、そしてほかの3つの要素は業界標準程度にとどめる。それが最も良い状態と規定しています。

それはなぜか。企業活動は予算や人員を含む有限なリソースの中で行われています。そのリソースをどこに割り当て、どこに売りを作り、業界の中でどうマーケティング上の競争優位を築くべきか。その基本戦略に大きな影響を与えてくれました。

今でも新たにホテルを開業させる時や、違う挑戦をする前には、この本に立ち返って、リソースの配分は間違っていないかを定期的に確認しています。

Information

『ファイブ・ウェイ・ポジショニング戦略』フレッド・クロフォード、ライアン・マシューズ/著

『ファイブ・ウェイ・ポジショニング戦略』フレッド・クロフォード、ライアン・マシューズ/著 星野佳路/監修 長澤あかね、仲田由美子/翻訳

コモディティ化と資源の有限性という企業の課題に対する実践的経営理論、アプローチを集約。同業他社から差別化を図り、限られたリソースの中でマーケティング上の競争優位を築く基本戦略がここに。イースト・プレス/¥2,420。

profile

〈星野リゾート〉代表取締役社長・星野佳路

星野佳路(〈星野リゾート〉代表取締役社長)

ほしの・よしはる/1960年生まれ。大学卒業後、アメリカのコーネル大学ホテル経営大学院修士課程へ。先代より会社を引き継ぎ現職に。所有と運営を一本とする日本の観光産業からの脱却を図り、運営サービスを提供するビジネスモデルへ転換させた。

twitter:@skier1960

クリエイティブアイデアを社会に実装し、新領域のビジネスを作る仕掛け人。中村洋基

危機に陥った時、大切なのは交渉術?

会社の経営に携わっていると、胃がキリキリするような不測の事態に見舞われることがあります。弁護士を連れ、ペン型ボイスレコーダーを忍ばせて先方との交渉に臨む。そんなピンチが数年前にやってきました。

もともとビジネス書を読む習慣がなかった僕ですが、藁にもすがる思いで「交渉」についての本をかき集めて、出会ったのが『ハーバード流交渉術』。激昂する相手と対峙し、混乱する僕の心理状況に、本書はてきめんに効きました。感情と問題を分離し、双方にとってプラスに働く出口を見つける。交渉の相手とは敵対しているのではなく、こちらと同じ問題の解決者である。

この原則立脚型の考え方のおかげで、直面している事態を俯瞰的に捉えることができ、なんとかその危機を回避することができました。シビアな交渉の場においては、「感情は置いておく」という旨を相手に提示することが大切です。その前提をお互いに共有するだけで、スムーズな交渉が実現できるんです。それから同じようなピンチのたびに読み返しては、考えを整理しています。

立場に固執すると合意は遠のく、当事者の数が多いと余計にこじれる、相手に敵意を芽生えさせない。本書から学んだこの指針は、クリエイティブワークのプレゼンでも、経営方針を決める社内会議でも、欠かせない考え方ですね。

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『ハーバード流交渉術』ロジャー・フィッシャー、ウィリアム・ユーリー/著

『ハーバード流交渉術』ロジャー・フィッシャー、ウィリアム・ユーリー/著
岩瀬大輔/訳

ハーヴァード大学交渉学プログラム研究所所長と、その共同設立者による共著。交渉相手の立場に応じた実例を用い、場を切り抜けるための交渉術を集約。世界累計の発行部数は1,300万部を超えるベストセラー。三笠書房/¥1,430。

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〈PARTY〉ファウンダー・中村洋基

中村洋基(〈PARTY〉ファウンダー)

なかむら・ひろき/1979年生まれ。電通に入社後、クリエイティブチーム〈PARTY〉を伊藤直樹氏らと共同創設。代表的な仕事には、「SLAM DUNK 10 DAYS AFTER」「TOYOTOWN」「SoftBank/嵐:5Gバーチャル大合唱」「警察庁/TEHAI」など。

twitter:@nakamurahiroki

小柄な女性のためのファッションを当たり前に。田中絢子

刺さるマーケティングを再確認できる一冊。

洋服は山のようにあるのに、小柄な私のための服はない。そんな実体験から、身長140~155cm以下の女性のためのアパレルブランド〈COHINA〉を始めました。

起業当時の私はまだ学生。周囲との社会経験の差を埋めるために、マーケティング関連のビジネス書を色々読んでいたんです。自分のやり方が正しいのか迷っていた時に、小柄な女性という特定の顧客設定を肯定してくれたのがこの本でした。

まず1人に刺さるプロダクトを作る、ということが重要と書かれていて、それが私にとっての「小柄な女性のための服」でした。本の内容と私の実現したいことが完全にリンクし、このまま頑張れと背中を押してくれた気がしましたね。

マスではない特定の層=N1に響くものを作るためには、顧客を徹底的に理解し、リアルな声をプロダクトに反映させる。それが商品の独自性につながり、数あるブランドの中から、選んでいただく理由になる。顧客に寄り添ったうえで、マーケティングが始まる。本書を読み込んでからは、SNSを運用する意識も変わりました。

以前は認知を増やすことに注力していましたが、今では顧客との対話の場に。だから私たちは、インスタグラムライブのコメントやDMでのやりとりを大切にしています。その距離の近さがあるから、本当のニーズが見えてきます。

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『実践 顧客起点マーケティング』西口一希/著

『実践 顧客起点マーケティング』西口一希/著

数々の有名企業における、著者のマーケティングの実務経験を基に、1人の顧客から始めるマーケティングノウハウを実例解説。抽象的なフレームや解釈ではなく、実際に起こる現実に対して本質的に切り込む。翔泳社/¥2,200。

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〈COHINA〉代表・田中絢子

田中絢子(〈COHINA〉代表)

たなか・あやこ/1994年生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科に在学中、小柄な女性のためのアパレルブランド〈COHINA〉を共同創業。現在ブランドのインスタグラムのフォロワー数は22万以上。毎日配信されるインスタライブは900日目を超えた。

twitter:@ayako_cohina

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