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「ひろゆきの応援演説以外は話題にもならない」政治離れする若者が唯一関心を寄せる"ある争点"

  • 2022.7.9
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参院選が間近に迫っている。Z世代の若者たちは、今回の選挙のどこに関心を寄せているのか。若者研究の第一人者である芝浦工業大学教授の原田曜平さんが大学生の座談会を開催。彼らの本音を聞き出した――。

乙武洋匡氏 参院選政策発表イベント
〈乙武洋匡氏 参院選政策発表イベント〉2022年6月19日、初めて政策を発表をした後、写真撮影をする乙武洋匡氏(中央左)とゲストの西村博之氏。

【座談会参加者】
田中(仮名)/慶應義塾大学4年生
佐藤(仮名)/法政大学1年生
斉藤(仮名)/慶應義塾大学3年生
井上(仮名)/慶應義塾大学4年生
鈴木(仮名)/慶應義塾大学2年生
後藤(仮名)/東京理科大学3年生
梅田(仮名)/日本大学3年生

総裁選ほどの盛り上がりは見られず

【原田】参院選挙が間近に迫っていますが、皆の周りではどれくらい話題になっていますか? 昨年の自民党総裁選挙は、若者の間でかなり話題になっていたようですが、今回も盛り上がっていますか?

【田中】定期的に政治の話をするような意識高い系コミュニティーーにいますが、あまり盛り上がっていません。昨年の総裁選では、総理も変わるなど規模が大きかったため、投票はできないけど、お酒を飲みながらみんなで誰を応援したいか話したり、誰が当選しそうか予想したりして盛り上がっていました。しかし、今回は話題にすら出ないことが多いです。

【佐藤】自分もそんなに盛り上がっているとは感じていません。前回の選挙(衆院選)は、自分たちが初めて投票権を持った選挙だったため、周りでも関心を持っている人が多かったです。インスタグラムでサイトや投票の有無を共有して、お互いに投票を促しあっていました。しかし、今回は周りで関心を持っている人が少ないですね。それから、これは以前からある問題ですが、住民票を実家に置いているために投票しにくい人が多かったりであまり話に出てこないです。

投票
※写真はイメージです

【井上】私も比較的社会問題に対する関心の高いコミュニティーに属していますが、今までの選挙と変わらない印象です。自分で選挙のことについて調べて、SNS上で「投票行こうね」というアピールをしている人は相変わらずいます。特に、最近は自分の意見に最も近い政党とマッチングできるサイト(「投票マッチング2022参議院選挙」)があるので、選挙への関心の高さをシェアしやすくなりましたが、意識高い系の間で止まっている印象です。

【梅田】私は、盛り上がっていると思っています。現在SNSを中心にひろゆきさんが若者の間で人気ですが、乙武さんの応援演説にひろゆきさんが来ていたことがあって、その街頭演説を周りがインスタグラムに載せていました。また、TikTokでは、後藤輝樹さんの『笑ゥせぇるすまん』の音源が流行ってたりもします。

直接影響がなければ関心を持たない

【原田】今回の選挙では、原油価格・物価高騰の対策が主に注目されていますが、若者の間で注目の議題はありますか?

「物価高」と書いたニュースの見出し
※写真はイメージです

【田中】原油価格を気にしている大学生は多いと思います。ドライブに行く機会の多い大学生にとって、ガソリン価格は自分たちの財布に直接影響があるため、気になります。自分や周りの子は実家暮らしの子が多いため、ガソリン価格やGo To、給付金など短期間で直接影響を感じやすいものでなければあまり気にしないのではないかと思います。逆にGo Toが再開されたり、どこかの政党がGo Toをやると言えば、若者の興味関心を引きやすいのではと感じます。

【鈴木】僕が注目しているのは、物価、改憲、同性婚の是非です。特に、大学生くらいになると性的マイノリティーを公表する人も周りにいて身近な問題に感じるため、多様な生活の形があってもいいのではないかと思い、気になっています。また、例えば候補者が同性婚についてどちらの立場に立っているのかなど、候補者のアンケートの回答も細かく見られる時代になっているので、新聞を読むよりも政党マッチングのサイトをよく見ています。自民党の議員はなぜここまで同性婚に反対するのか……など考えさせられます。

他の社会問題よりもLGBTQ+に関心の高いZ世代

【原田】日頃、Z世代研究をしていても思うことだけれど、これだけ社会や企業がSDGsと叫ぶ時代になっているのに、日本のZ世代のSDGs意識は極めて低い。ある超有名グローバル企業は、日本のZ世代向けにSDGs訴求はしない、と社内で共通認識になっているようです。しかし一方、LGBTQ+への意識は大変高くなっています。なぜそこまで意識が高くなったのだと思いますか?

【鈴木】インフルエンサーの影響が大きいと思います。Kemioや井出上 漠など、カミングアウトする当事者が多いので。社会問題に意識が高い子の中では、環境問題や貧困問題などSDGsの他のテーマもイシューとして挙がりますが、ほとんどのZ世代はインフルエンサーが発信するような社会問題に関心が偏ってしまっているというのはあると思います。

【井上】最近よく見かけるのが、最年少30歳で出馬したさいき陽平さんという方のTikTokです。ゲイの当事者でもあるので、LGBTQ+の話題を取り扱っていて若者に受け入れられやすく、TikTokでは若者に寄り添った際どくて面白いコンテンツをよく配信しているので、バズっています。

日本はG7の中で唯一LGBT平等法がない国。一刻も早く制定を

【原田】確かに日本は相対的貧困も問題で、SDGsに関しては問題が山積みですが、そこにZ世代の関心は向いていないように思います。いずれにせよ若者はLGBTQ+の問題に強く関心を持っているので、それについてもっと政党や候補者が気づいて争点にしていくといいのかもしれないですね。さっき出た同性婚もそうですが、他にどんなことに問題意識がありますか?

【井上】同性婚によって認められる事柄(同性カップルの共同資産管理や養子縁組を認めるなど)には興味があります。また、LGBT平等法のように性自認に関する差別の撤廃にも同じくらいの関心があります。それに付随して、LGBT教育がどこまで推進されていくのか気になっています。

【斉藤】私もLGBT教育に興味があります。LGBT教育がどんどん普及していけば、LGBTQの問題だけがこんなに盛り上がってしまうことなく、より多様性が認められて皆がフラットに生きやすい世の中になっていくのではないかなと思うからです。

【田中】日本はG7の中で唯一LGBT平等法がない国となっています。一刻も早く制定していただきたいです。自分の身の回りにもカミングアウトしている方がいるため、少しでも生きやすい社会になるといいなと思っています。他にも性教育を通じて、多様性への理解が進み、働きやすい、過ごしやすい環境が整ってほしいです。

Z世代はLGBTQ+に敏感な世代だと思われがちですが、欧米ほどの関心はなく、ただ当事者たちへの理解がある程度だと感じています。自分も、当事者でないため、投票行動の中ではどうしても優先順位が下がってしまいます。社会のもっと多くの人に関心を持ってもらわなければ、環境整備は難しいのではないかと思っています。

プライドパレードの虹色の旗の前でハート型を作る手
※写真はイメージです
Netflixの映画やドラマの影響は大きい

【原田】ジェンダー平等の中でも、男女の賃金格差や女性の貧困といった課題よりも、LGBTQ+の問題に関心が高いのはなぜでしょうか。

【佐藤】Netflixの映画やドラマ、漫画の題材として挙げられ多くの若者が見ています。たとえば『おっさんずラブ』(ドラマ、映画)、『ギヴン』(漫画、アニメ)『チェリまほ』(ドラマ、映画)などがあります。最近ではタイBLも人気が急上昇していると感じます。どの作品も、性別の壁による主人公たちの苦悩や葛藤を垣間見ることができ、その切ないストーリーに感情移入しやすいのだと思います。そういうドラマや映画、アニメを見ている私たち若者は、性別の壁を超えて成す愛に憧れや応援したい気持ちがあり、LGBTQを身近に感じ興味関心を抱きやすいのではないでしょうか。

大学生が考える良いばら撒き

【原田】Z世代の間で他に盛り上がったり、政治に関心がいくようなイシューはないのでしょうか。

【田中】そこまで大きな話題になっているわけではないですが、給付金などはコロナ禍で話題になり、気にしている人もいると思います。

【原田】LGBTQ+以外だとしたら、Go Toや給付金のような、場合によってはばら撒きと言われてしまうこともある政策に目を向けやすいというわけですね。

【井上】LGBTQ+とGo Toや給付金のような政策しか刺さってないのが現状だと思います。自分に身近な問題でなければ、Z世代の間で刺さらないのかもしれません。

【原田】ばら撒くにしても、良いばら撒きと悪いばら撒きがあると思うんだけど。例えば返済不要の給付奨学金であれば、現状奨学金をもらっている大学生は50%以上もいるから、学生にとっては教育機会を平等にするという意味で、良いばら撒きですよね。他に良いとされるばら撒きはありますか?

【鈴木】僕らは世代が過ぎてしまいましたが、中学校まで給食費無料などは大事なんじゃないかなと思います。原材料の高騰により、公立の学校のメニューが貧相になったというニュースもこの間見ました。自分たちの中学時代を振り返った時に、給食が貧相だったら嫌だなと自分ごとで考えやすいので目を向けやすく、良いばら撒きだと思います。

高齢者よりも若い世代の政策を

【原田】なるほど。奨学金や給食費といった教育や学生支援に関することが「良い」と捉えやすいんですね。

【後藤】最近Twitterで明石市の市長がバズっています。高齢者ではなく、自分たちよりも下の世代にフォーカスしていることに好感を持ちました。

【原田】子育ての政策は、その親に向けた政策でもある。ただ、いまの話からすると、現役世代への政策を持った上で現役世代に届くだけの強い発信力を持つことも重要になってくるのかもしれませんね。

Z世代注目の候補者

【原田】では次に今回立候補している候補者について、どのような印象を持っているか聞いていきましょう。まず、乙武さんはどう思いますか?

【井上】ひろゆきさんと組んで選挙活動を展開しているイメージがあります。渋谷で一緒に演説した動画がバズっていたのを覚えています。ただ、話題性だけが目についていて、実際に乙武さんが何をするのかや公約などはよくわかっていません。

【原田】ひろゆきさんが出ると話題にはなるけど、話題性だけが目立ってしまうのかもしれませんね。

【斉藤】一時期テレビ出演も多かったので若者の間でも乙武さんの認知は進んでいる方だと思います。ただ、不倫などのネガティブなイメージが強くあります。

【原田】今もネガティブなイメージがぼやっとついているんですね。

【梅田】逆に私は、乙武さんに悪いイメージはないです。私は、政治に興味がないからこそ、面白いかどうかや推せるかどうかが重要かなと思います。候補者本人が何を考えているかは、自分にとってはあまり関係ないように感じています。

【後藤】私も乙武さんは好きなので頑張ってほしいと思っています。不倫などのスキャンダルがあっても負けずに頑張っているところを見ると応援したくなりますね。また、ひろゆきさんが乙武さんのためにわざわざパリから日本に来て演説を手伝っていたというのを知って二人の友情にも心を動かされました。

水道橋博士は…「知らない」

【原田】水道橋博士はどうですか?

【佐藤】知らないです。

【後藤】出ること自体知らなかったです。

【梅田】私もです。

【鈴木】出るのは知ってるけど、あまりわからない。テレビでも見てないので、若者にとっては薄い印象。

【原田】乙武さんも水道橋博士も、ひろゆきさんやひろゆかないさんを起用するってことは、ある程度若い人たちの影響力を借りようと思ったのでしょう。でもそれでは本末転倒で、ひろゆきには力があるけれど、お二人にはもう昔ほどの知名度はないわけだから、彼ら自体が若い人たちに受けるようなことをすべきだったのかもしれませんね。

【原田】ガーシーはどうですか?

【井上】話題にはなってるけど、賛否両論でヤバい人なんじゃないかという話もある。

“賛”は、芸能界の闇を暴いているためヒーローのような存在に感じている人と、“否”は芸能界は闇が深いものだから、わざわざ暴く必要がないのではないか、誹謗ひぼう中傷や活動自粛に追い込まれている人もいるからそこまでして何をしたいの? という人もいる。

【原田】そういう意味ではN国党に近い部分があるのかもしれないですね、一部の人には非常に刺さる。若者であっても。

【梅田】親近感は持てるけど、乙武さんとかとは違って応援はできないです。動画などからヤバい人のイメージが強く投票はしないです。

【後藤】ぽっと出の勢いで選挙を茶化しに来てる感じがしているので投票はしないですね。

高齢者の間での人気投票になってしまっている

【原田】いくいな晃子さんはどうですか?

【田中】選挙に立候補してるなんて知らなかったです。

【佐藤】私も。

【斎藤】この人の名前すら知りませんでした。

【梅田】私も名前自体初めて知りました。元おニャン子クラブということで確実にファンの票が入りそうだなと思いました。

【井上】同性婚や選択的夫婦別姓に反対という立場をとられていて、よくSNSで炎上しているイメージがあります。特に、若い子の間では同性婚の議題に敏感なので、あまり良いイメージを持っていないです。

【後藤】この世代のアイドルを候補者に立てる自民党のやり方はあまり好きじゃないです。政治のための投票であるはずなのに、おじいちゃんおばあちゃんの中での人気投票をしている感じが嫌です。この前も三原じゅん子が街頭演説をしているのを見かけましたが、他の街頭演説よりもおじいちゃんおばあちゃんの熱量がすごくてちょっと引きました。

【鈴木】ほとんどの政策アンケートに無回答なこと、自分らしく生きられる国を目指すと言っているのに同性婚には反対であることなど、他にも矛盾する言動が多く見られているため、全く信頼できません。

例えば英国の女性議員は法や何らかの専門分野で活躍した人が多いそうですが、日本ではあまり中身のない、名前だけの、前時代的な人が起用されることが多く残念に思っています。たとえ元アイドルでも、今では有名大学を出て意見を持っている人もいるので、そういった知名度と叡智を兼ね備えた人を起用してほしいと思います。

原田 曜平(はらだ・ようへい)
マーケティングアナリスト、芝浦工業大学教授
1977年東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダーを経て、現在はマーケティングアナリスト。2022年より芝浦工業大学教授に就任。2003年、JAAA広告賞・新人部門賞を受賞。主な著作に『ヤンキー経済 消費の主役・新保守層の正体』(幻冬舎新書)、『パリピ経済 パーティーピープルが経済を動かす』(新潮新書)、『Z世代 若者はなぜインスタ・TikTokにハマるのか?』(光文社新書)、『寡欲都市TOKYO』(角川新書)、『Z世代に学ぶ超バズテク図鑑』(PHP研究所)などがある。

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