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独身42歳、結婚式参列で見える景色が変わった

  • 2022.7.7
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20代後半から周囲で続く結婚式ラッシュ。たとえ親しい友人であっても、参列するとどこか微妙に心がザワつくもの。が、それも30代半ば以降はだんだんとお呼ばれの回数も減り、40代に差し掛かると、心境に変化が生まれるようで……。そのわけとは?

緊急事態宣言もまん延防止等重点措置も出てなかった今年3月、コロナ禍以降初めて、数十人規模の「ザ、結婚式」に参加することになった。

20代半ばからラッシュだった結婚式も、30代後半にもなると少なくなる。40代になればなおさら。しかもコロナ禍で式を延期したり、取りやめたりした人もいることもあり、かなり久しぶりの披露宴への出席だった。

ピンクのドレスが似合わない!

まず、久しぶりすぎて悩んだのが、着ていく服だ。数年前の結婚式以降、クリーニングに出してナイロン袋を掛けたままになっているドレスをクローゼットの奥から引っ張り出してみる。見た瞬間、息をのむ。

淡いピンク、そして膝丈……。
恐る恐る袖を通してみたが、あまりの似合わなさに愕然とした。最近はもっぱらロングスカートばかり。しかも淡い色より赤や黒など、ハッキリした色を好むようになっていた。いつから私は、ピンクが似合わなくなったのだろう……?

30代の頃、確かにこのドレスはわたしに似合っていた(と思う)。この数年で、顔かたちが大きく変わったわけではない。それはおそらく、さまざまな経験によって醸し出る“なにか”だろうと悟る。

そうか、年代によって結婚式に出る際の服装も変わるはずだ。一般的なマナーはどうなっているのだろう?と気になり、「40代 結婚式衣装」で検索してみた。すると、「40代からは、落ち着きと上品さを大事にしましょう」「黒、ネイビー、パープル、グリーンなど、シックなカラーが人気」と書いてある。

な、なるほど! 危うくピンクを着て行くところだった、危ない。慌てて黒のロングのワンピースに大きめのアクセサリーを合わせ、何とか結婚式仕様に仕立てた。年が変わると、服装も変わるのだと改めて学ぶ。

写真はすべてGetty Images

「ブーケプルズ」は若い未婚女性だけの特権

披露宴当日。新郎・新婦両家の主賓挨拶から始まり、乾杯、ケーキカットからのファーストバイト……これでもか、という王道の演出が続く。そういえば、今回の20代の新婦と式の前に会ったときに、「結婚式らしい結婚式がしたいんです!」と言っていたことを思い出す。「彼女らしいな」と微笑ましく思う。令和のいま、このベタな感じが逆に新鮮でもある。

結婚式に参列しているゲストを見渡してみると、40~50代で独身の人、結婚はしたけれど離婚した人、事実婚を選んだ人、いわゆる男女の恋愛とは違うセクシャリティを持っている人などさまざま。ゲストたちの多様性と、王道な結婚式の対比が興味深い。

ともあれ、結婚式の楽しみといえば、料理とお酒だ。おいしい料理をしっかり食べ、ワインをたらふく飲むわたしの後ろで、男性スタッフがワインのボトルを抱えて嬉しそうに待ち構えている。新郎新婦とバーで出会ったため、ゲストも酒飲みが集まっているのだ。中でも、わたしが座るテーブルは、ワインの消費スピードが速いようだ(笑)。

披露宴の中盤、「ブーケプルズ」が始まった。ブーケに数本のリボンをつけ、ゲストたちに引っ張ってもらう演出だ。「当たり」を引いた人が、次の花嫁になれるとされている。20代、30代の独身女性たちが呼ばれ、演出に参加する。

40代になると、独身であってもブーケプルズには呼ばれないんだな、私にもあのグループに入っていた時代があったな、と微笑ましく彼女たちを見つめる。これもまた、新たな発見だった。

独身の40代女性なんて、微妙すぎてブーケプルズなんかに参加させられないだろう。わたしが花嫁でもそう思う。ブーケが当たったとして、結婚したい人なら切実すぎるし、結婚したくないなら余計なお世話だ。お役目がない分、「料理とお酒に集中できるなぁ」なんて思いながら、わたしはメインのお肉に手を伸ばした。

朝日新聞telling,(テリング)

人生の幸せは「結婚式」だけでは決まらない

披露宴も終盤に差し掛かり、この上なく幸せそうな新郎・新婦を眺めながら、わたしと同じく40代で独身の女友だちと、「わたしたちにもあんな人生があったかもしれないよね」と言って笑い合った。しかし、そこに悲壮感はない。

帰り道、とても爽やかに、「何だか純粋に結婚式を楽しめたな」と思った。20代、30代のときは、たとえ親友であっても、結婚式では心がザワついたものだ。当時のわたしにとって、結婚は人生の幸せの象徴だった。幸せそうな花嫁に嫉妬し、焦り、そんな自分を嫌になったこともある。

昨今、「結婚式の加害性」という言葉がSNSを賑わせている。結婚した夫婦がお披露目をする結婚式は、従来なら当たり前のイベントだった。しかし現代、招いたゲストの中には、独身者はもちろん、性的志向により法的な結婚が許されない人や、身内に不幸があった人もいるかもしれない。この「加害性」という言葉を用いた投稿は、結婚式という行事が当人たちは意図していなくても、他の誰かを傷つける可能性があることを示唆したものだ。

結婚式それ自体の賛否を問うものではないし、もちろん新郎新婦のことを加害者などと言うつもりもない。が、この言葉がネット上でトレンドワードになり、議論が巻き起こっているのを見て、結婚式にはさまざまな感情が渦巻くものだと改めて気付かされた。

かつて、「結婚って何だろう?」と考えたことがある。そのとき、既婚者の友人がこんなことを言った。「結婚が幸せのすべてではないけれど、幸せの選択肢の1つではあるよね」。そうか、選択肢の1つなのだ。そう考えると、すごく気持ちがラクになったものだ。

40代になると、20代で結婚し、人生の勝ち組だと思った友人も、離婚していたり、家庭の悩みを抱えていたりする。幸せだけの人生もないし、不幸だけの人生もないと実感を持って気づかされる。幸せそうに見える人にも、悩みはある。

朝日新聞telling,(テリング)

思い出したのは、社会学者の上野千鶴子さんが著書で述べていたこんな文章。

「わたしはシングルで子どもも産まなかったが、三〇代も終わりに近づくとそれまで子育てで離れていた友人たちが、泊まりがけで温泉旅行をしようと寄ってくるようになった。五〇代にもなると、夫に死別離別した友人たちが、海外旅行の誘いをかけてくるようになった。(中略)なぁーんだ、ちょっと待てば、彼女たちもわたしも、たいして人生は変わらないじゃないの。シングルを続けてきたわたしは、気が付いたら『一周遅れのトップランナー』になっていた」(『家族を容れるハコ 家族を超えるハコ』より)

20代の頃は想像もできなかったけれど、その後の人生には、さまざまな出来事が待っていた。29歳とかピンポイントの「点」では幸せも不幸も語れない。実際、(今のところ)結婚という選択肢を手に入れなかったわたしは、結果的に人生を懸けられる仕事という、違う幸せを手に入れている。

だからいま、20代、30代で友人の結婚式に心をザワつかせているなら、どうか安心してほしい。結婚式で見える景色は、年齢とともに変わっていく。人と比べ、自分は結婚出来ないから不幸だ、などと卑屈になる必要はない。人生は結婚式が頂点なのではなく、その先も続いていくのだから。

■尾越まり恵のプロフィール
ライター/株式会社ライフメディア代表。福岡県北九州市生まれ。雑誌、WEB、書籍でインタビュー記事を中心に取材・執筆。女性のハッピーを模索し、30代はライフワークとしてひたすらシングルマザーに密着していました。人生の決断を応援するメディア「わたしの決断物語」を運営中。

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