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向井理、地に足のついた俳優「面白い役を演じることに意味がある」【てれびのスキマ】

  • 2022.7.1
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■理知的で聡明なイメージの向井理

「ニワトリ・オボアルブミン遺伝子をエストロジェンに応答し卵管組織においてのみ活性化させるコントロールエレメントの決定」

そのタイトルを聞いただけでは、チンプンカンプンであろう研究で、世界的に権威のある国際動物遺伝学会議(2004年)の「ベストポスターアワード」を受賞した経験のある異色の経歴を持つ俳優といえば向井理だ。彼は、明治大学農学部で遺伝子工学を専攻し、「太陽を浴びれない」ほど研究を重ね仲間とともに栄誉ある賞を受賞した。

その知性は、バラエティーでも活きている。「熱血!平成教育学院」(フジテレビ系)に2度ほど出演し、いずれも1位を獲得。単純に「だから」とは言えないが、理知的で聡明な役柄が多いイメージがある。その説得力は抜群だ。

もともと向井理は、芸能界にはまったく興味がなかった。学生時代からバーテンダーのバイトを始め、その実直な仕事っぷりが認められ、大学卒業後は社員として店長を任せられた。

その店に客として訪れたのが、のちに彼の初代マネジャーとなる人物だった。実は、彼女が来店したのは偶然ではない。雑誌「Tokyo graffiti」の「街のイケメン」として向井を紹介した記事の写真に「一目惚れ」し、彼が勤める店を探し当てスカウトしたのだ。

その熱意と人間性に、「この人と仕事をしたい」と思い、俳優になることを決意した。しかし、興味のなかった仕事。最初は"本気"になれなかった。初仕事は、映画監督・犬童一心が演出したCMだった。いきなりの大チャンス。しかし、あろうことかこの仕事に向井は30分以上の遅刻をする。最悪の雰囲気で始まった逆境のCM撮影だったが、向井はその実力の片鱗を見せつけ、その後、順調に仕事を摑んでいった。

中でもその名を知らしめたのは「のだめカンタービレ」(2006年フジテレビ系)だろう。監督が「あ、菊地が出てきた」と見初めて、女たらしのチェリスト・菊地亨役に抜擢した。その翌年、「世界ウルルン滞在記」(TBS系)でカンボジアを訪れ、その誠実な人柄が多くの人の知るところとなった。

さらに2009年、「an・an」の「SEX特集」でオールヌードを掲載。本人は乗り気ではなかったが「この仕事が俳優・向井理を必ずワンランク上に押し上げるから」(田島未来「向井理を捨てた理由」マイナビ)とマネジャーに説得され決断した。大きな話題となり、事実として彼を「ワンランク上」に押し上げた。

そして2010年、朝ドラ「ゲゲゲの女房」(NHK総合ほか)でヒロインの夫・村井茂、つまり水木しげるを演じた。これまでいわゆるイケメンで爽やかな役がほとんどだった向井にとってこれは大きな挑戦であり、そのイメージを大きく変えるものだった。一気に役柄を広げた向井は、翌年にも大河ドラマ「江〜姫たちの戦国〜」(NHK総合ほか)で主人公の夫・徳川秀忠役に起用され押しも押されもせぬ国民的俳優のひとりとなった。

その後、数多くのドラマや映画で主演を務めていった。主演格になるとそうでない役では出ないという俳優も少なくないが、向井は違う。意外なほど主演以外の作品が多い。近年でも「着飾る恋には理由があって」(2021年TBS系)や「悪女―」(2022年日本テレビ系)で、決して長い時間の出演でないにもかかわらず、強烈なインパクトを残している。

「主役をやったことがないときには、すごく意識してましたし、主役というものに対するこだわりもありました。でも、主役をやらせていただく機会が増えて、番手は関係ないと感じるようになりました」「面白い役を演じることに意味があると思うようになりました。それは、主役をやってみなければ分からなかったこと」(「クランクイン!」2019年7年7日)

いまだに自分のことを「芸能人」だと思っていないという向井。「仕事は何?」と聞かれたら「映像をつくっています」と答えるだろうと言う(「向井理を捨てた理由」)。監督やスタッフと同じ作り手のひとり。だから俳優だけが特別なわけじゃない、と。そんな向井は以前、初代マネジャーにこんなメールを送っている。

「たまにはそうやって自分の鼻をへし折ってください」(同)。その意識が続く限り、地に足のついた向井理の強さが損なわれることはないに違いない。

文=てれびのスキマ

1978年生まれ。テレビっ子。ライター。雑誌やWEBでテレビに関する連載多数。著書に「1989年のテレビっ子」、「タモリ学」など。近著に「全部やれ。日本テレビえげつない勝ち方」

※『月刊ザテレビジョン』2022年8月号

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