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資本主義の原理を体現するファンドに。おおぶねシリーズを提供する意義

  • 2022.6.30
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<前回まで>

投信業界のキーパーソンにロングインタビューする投信人物伝。農林中金バリューインベストメンツ(NVIC)の「おおぶねシリーズ」を運用する奥野一成常務取締役CIO(最高投資責任者)に、これまでのキャリアやファンドへの想いを伺いました。奥野氏はロンドンからの帰国後、長期投資やプライベートエクイティの理想を実現するため農林中央金庫に移籍し、オルタナティブ投資の道に進みます。農林中央金庫ではヘッジファンド投資とプライベートエクイティを担当し、目標にするバフェット流の長期投資の原点を築きます。数あるプライベートエクイティファンドとの共同投資を通し、企業価値を算出することに喜びを感じながら投資先企業の価値創出に尽力。そして、この培った企業価値評価の経験を上場株投資にも活用できるはずと考え、新たなプロジェクトに着手するのです。

●連載1回目はこちら

NVICの設立趣意書の中心理念は「経世済民」

長銀で経験した「金融+コンサルティング」、それから農林中央金庫でのヘッジファンドやプライベートエクイティへの投資経験を融合した社内ベンチャーとしてスタートしたアルファプロジェクトは、ウォーレン・バフェット氏のように、売り買いせずにリターンを挙げることが日本でも可能なのかという、壮大な社会実験の始まりでした。

当初は社内においても、「本当にそんなことが可能なのか」という懐疑的な意見もありましたが、2008年のリーマンショックを経て明らかになったのは、私たちのチームが運用したファンドのリターンが、他の日本株アクティブ運用のファンドのリターンを上回っていたことでした。これによって、「売らなくていい企業しか買わない」という運用が、実は正しいのではないかという見方が、徐々に優勢になっていきました。

こうしたなか、ファンドの規模をさらに大きくするため、農林中央金庫の自己資金運用だけでなく、たとえば企業年金やソブリン・ウェルス・ファンド(SWF:政府系ファンド)の運用受託をめざそうと考えるようになりました。そして、農中信託銀行に運用チーム全員で移籍し、運用トラックレコード(運用実績)を蓄積するとともに、それらの外部投資家に対する訴求を開始したのです。最初は理解してくれる投資家も本当に少なかったのですが、実績が上がる中で、徐々に投資家も増えてきました。そうして、長い紆余曲折を経て2014年に、農林中金バリューインベストメンツ(NVIC)が立ち上がったのです。

農林中金バリューインベストメンツ(NVIC)立ち上げ時の社内創立パーティーの様子(2015年)

NVICを立ち上げるに際して、私は「設立趣意書」をつくりました。設立趣意書とは、企業理念を明記したもので、この会社を設立した目的、経営方針を明らかにしています(※参照:NVIC公式ウェブサイト)。

私たちの設立趣意書の中心理念は「経世済民」です。「経済」の語源になった言葉で、人々に貢献し世の中を良くするという意味です。価値に基づく資本配分を通じて、世の中を豊かにしたいと思っています。それを実現するために、NVICのステークホルダー3者に対して価値を届けること提示しました。3者とは、投資家、投資先企業、投資コミュニティです。

まず、運用者として投資家に価値を提供するのは当然です。投資先企業には、企業価値に関する建設的な対話を通じて、長期的な価値を提供できればと考えています。そして、投資コミュニティですが、長期投資を可能にするインフラであるとか、人財であるとかが不足していることに対してNVICとしてはなんらかの貢献をしていきたいと考えています。例えば高校や大学での金融教育や、官公庁への協力などがこれにあたります。このような一見、関係がないように見える価値提供が長期的にはブーメランのように私たち事業にポジティブな働きをしてくれるものと信じています。

企業が長期的に生き残るためには「設立趣意書」にあるような企業理念や哲学が不可欠です。それこそが長期的に有能な人財を惹きつけ、育むからです。銀行の子会社のくせに独自に設立趣意書をつくることに反発もありましたが、絶対に譲れませんでした。なぜならNVIC自体の持続性を担保できなければ、長期投資など絵に描いた餅にすぎないからです。

長期保有の本当のリスクがとれるのは個人投資家

私が「売らなくていい企業しか買わない」運用を始めるに際して立証したかったのは、「株式を頻繁に売買して値動きを取りに行くのではなく、継続的に利益を増やしてくれる企業のオーナーになれば、保有企業の価値増大とともに自身の資産価値を増やすことが出来る」ということでした。

これは理論的には常識と言えるほど正しいのですが、当時そんなことは頭ではわかってはいても、機関投資家向けに実行しているファンドは、皆無に近い状況でした。だからこそ、自分の運用を通じて、それを立証したいと考え、まずは機関投資家向けの運用をスタートさせたのです。

ただ本来、その運用哲学や運用商品を必要としているのは、機関投資家ではなく個人です。機関投資家というと生命保険会社や企業年金等が代表的存在ですが、いずれも運用金額は大きく、自分のお金を運用しているわけではありません。生命保険会社は保険を掛けている大勢の個人から集めた保険料、企業年金は企業で働いている人たちの退職金を増やすために、投資を行っています。つまり、生命保険会社も企業年金も、個人の代弁者に過ぎません。

もっと言うと、投資家として本当に長期投資のリスクを取れるのは、機関投資家ではなくむしろ個人投資家です。機関投資家といっても結局は皆、会社勤めですから、3年に1度くらいの頻度で異動があります。いくら「長期投資をやるんだ」と言っても、3年が経つと担当者が変わり、前任者とは全く違う運用を行ったりすることも、往々にして起こります。また、そもそも機関投資家の多くは、自身の企業決算があるため、ファンドの含み益を収益認識するためには売却する必要が出てきます。機関投資家が長期投資を行うには相応の覚悟と仕組み化が必要なのです。それに対して個人には決算が存在しません。つまり個人は本来的には所謂「利益確定」をする必要がないので、長期投資が可能であるという切り口では、個人投資家の方が機関投資家よりも決定的に有利なのです。

ところが、そのメリットを使うどころが「利益確定」をすることで、長期投資の最大のメリットである「企業価値の複利増大」を殺してしまう勿体ないケースが多いようです。また、個人が投資を行う仕組みとしては、すでにiDeCoやつみたてNISA、あるいは企業DCなど揃っているものの、個人が自分のお金を、自分の判断で投資先を選んで資金を投じるのに必要な情報や、長期投資に相応しい個人向け投資信託が足りていないのが現状です。結果、2000兆円ある個人金融資産の50%超が、現預金に偏在しています。

でも、それだけの個人マネーが現預金に偏在し、行き場を失っているのは、あまりにももったいない話です。

機関投資家向けの運用を個人にも提供

資本主義の世界では、お金を持っている人が、その資本を永続的に価値を生み出す素晴らしい企業に投じることによって、自らの資産を増やしていくと同時に、投資先企業が生み出す価値提供を通じて世の中が一段とより良いものになっていきます。それが資本主義の原理だということを、一人でも多くの個人に知ってもらいたい。だからこそ、NVICの運用を機関投資家だけでなく、個人にも提供するようにしました。それが「おおぶねシリーズ」です。

おおぶねシリーズのファンドは、機関投資家向けに提供しているものと全く同じです。といっても、別に難しいものを個人に提供しているわけではありません。私たちが常々、申し上げているのは、「素晴らしい企業のオーナーになって下さい」というだけの話で、これは本来誰にでも理解できるものと考えています。つまり、「おおぶねシリーズ」の投資家は、NVICを導管として、我々が選択した素晴らしい企業のオーナーになるということなのです。

提供:農林中金バリューインベストメンツ

だからこそ我々は、企業のオーナーである個人の受益者に、投資先企業が「いかに付加価値を創出しているのか」「参入障壁を築けているのか」「その状況が長期的に持続可能なのか」ということに関する手触り感をお伝えすることに全力をつくすのです。

投資信託のような金融商品は、普通の製品とは違って実物がないので、手触り感を出すといってもなかなか難しいのですが、私たちは「おおぶねメンバーズ・カンファレンス」というオンラインミーティングを毎月開催することによって、その実現に努めています。このカンファレンスを通じて、運用チーム自らが運用状況、投資先企業の状況、投資哲学などを、ファンドの受益者に対して直接報告しています。これは受益者であれば誰でも参加できるもので、毎回150-180人くらいの方が参加しています。一方的に私たちが話すのではなく、受益者の皆さまからも自由に質問していただくことが可能で、双方向のコミュニケーションの場にもなっています。

実はこのカンファレンスがスタートしたのは、コロナ禍真っ最中の2020年4月からです。その前月から緊急事態宣言を受けて一時的にNVICもテレワークに切り替えたのですが、外出自粛のこの時期、ジャズピアニストの小曽根真さんがフェイスブックのリアル配信で、自宅のリビングルームから「Welcome to Our Livingroom」と題したミニコンサートを53夜にわたって行ったのを、たまたま観て、これがカンファレンスを始めようと思ったきっかけとなりました。

本質は長期保有する企業への納得感。対話を通じ受益者と共有

当時、コロナがどういうものかよくわからず、緊急事態宣言で外出もままならず、大勢の方が不安に駆られていました。そのなかで、小曽根さんがピアノを弾き、大勢の人たちの心が癒されていく。それを目の当たりにした時、音楽の素晴らしさもさることながら、やはりリアルタイムで時間を共有することの凄さを感じたのです。

その時ふと思ったのが、おおぶねシリーズを持っている受益者の方たちも、この状況下で非常に不安な思いを抱えているのではないか、ということでした。皆さんの不安に応えるために、今の自分に出来ることは一体何なのか。そんなことを、小曽根さんのピアノを聴いているうちにふと考えるようになり、オンラインミーティングを是非始めてみようと思ったのです。

受益者の不安に応えるため始めた「おおぶねメンバーズ・カンファレンス」

もちろん運用成績も大事ですが、儲かったかどうかの結果だけに留まるのであれば、それは実はあまり本質的ではないと考えています。もちろんこれは「手を抜く」ということではありません。

私たちの投資リターンの源泉は、時間の経過とともに積みあがる企業の利益ですから、このやり方で儲けるには必然的に時間がかかります。投資である以上、ある一時期だけを切り取ると、株価が上がる時期もあれば、下がる時期もありますが、短期的な値動きに一喜一憂して売却してしまうと、本来得られるべきリターンを取り逃してしまいます。

仮に含み損になっていたとしても、受益者の皆さんが、保有する企業の素晴らしさについて納得感を持つことができれば、安心して長期保有してもらえると思います。その納得感こそが、長期運用において最も重要な要素の一つだと考えています。だからこそ、受益者の皆さんに運用の手触り感を実感していただけるようにするため、「おおぶねメンバーズ・カンファレンス」を通じて、私たちの考え方を常にお伝えするようにしているのです。

取材・文/鈴木 雅光(金融ジャーナリスト)

Finasee編集部

金融事情・現場に精通するスタッフ陣が、目に見えない「金融」を見える化し、わかりやすく伝える記事を発信します。

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