1. トップ
  2. 「コウノドリ」作者、鈴ノ木ユウが『ベイビー・ブローカー』に共鳴「生まれや育ちが不幸であっても、どんな命も奇跡」

「コウノドリ」作者、鈴ノ木ユウが『ベイビー・ブローカー』に共鳴「生まれや育ちが不幸であっても、どんな命も奇跡」

  • 2022.6.29
  • 115 views

是枝裕和監督が、ソン・ガンホら韓国の至宝ともいうべき俳優陣と紡いだ映画『ベイビー・ブローカー』がついに公開となった。複雑な事情を抱えた若い女性が、我が子を“赤ちゃんポスト”に預けることから始まる物語で、“赤ちゃんポスト”を通して出会った登場人物たちの不思議な旅を通して、“生まれること、生きていくこと”という命の根源を浮き彫りにしていく。産科医を主人公に新しい命の祝福を描く漫画「コウノドリ」の作者、鈴ノ木ユウに本作を鑑賞してもらうと、「好きな人に、“生まれてきてくれてありがとう”と言いたくなるし、言ってもらいたくなるような映画」としみじみ。本作の見どころに加えて「コウノドリ」誕生秘話や本作との共通点まで語った。

【写真を見る】『ベイビー・ブローカー』のメイキング風景。旅を通じて絆を築いていく登場人物たちさながらに、楽しそうなキャストたち

「“この仲間に入りたい”と思わせられるような楽しさがあった」

本作は、“赤ちゃんポスト”に赤ん坊を預けたソヨン(イ・ジウン)、ベイビー・ブローカーを裏稼業とするサンヒョン(ソン・ガンホ)とドンス(カン・ドンウォン)らが、成り行きから一緒に赤ん坊の養父母探しの旅に出かけ、彼らを検挙しようと追いかけるスジン刑事(ぺ・ドゥナ)、イ刑事(イ・ジュヨン)と絡み合いながら繰り広げるヒューマンドラマ。作品を観終わった鈴ノ木は、第一声「すごくおもしろかった」と笑顔。

漫画「コウノドリ」の作者・鈴ノ木ユウが、『ベイビー・ブローカー』に感動!共感を寄せた [c] 2022 ZIP CINEMA & CJ ENM Co., Ltd., ALL RIGHTS RESERVED
漫画「コウノドリ」の作者・鈴ノ木ユウが、『ベイビー・ブローカー』に感動!共感を寄せた [c] 2022 ZIP CINEMA & CJ ENM Co., Ltd., ALL RIGHTS RESERVED

クリーニング店を営みながらも借金に追われるサンヒョン、児童養護施設出身のドンス、そして“赤ちゃんポスト”に預けざるを得なかったソヨンたちの間には、同じ車に乗り込んで日々を過ごすうちに、不思議なつながりが生まれていく。鈴ノ木は「一人一人が重たい背景や事情を持っているけれど、彼らの旅を見ていると、“この仲間に入りたい”と思わせられるような楽しさがあった」とロードムービーとしての魅力に大いに惹かれたと話す。

ソン・ガンホは、本作の演技で第75回カンヌ国際映画祭の最優秀男優賞を受賞した [c] 2022 ZIP CINEMA & CJ ENM Co., Ltd., ALL RIGHTS RESERVED
ソン・ガンホは、本作の演技で第75回カンヌ国際映画祭の最優秀男優賞を受賞した [c] 2022 ZIP CINEMA & CJ ENM Co., Ltd., ALL RIGHTS RESERVED

さらに「俳優さんたちも魅力的な方々ばかり。赤ちゃんもすごくかわいかったですね」と役者陣の名演にも惚れ惚れ。「ソン・ガンホさんの演じているサンヒョンはダメなところもたくさんあるけれど、彼のちょっとした瞬間に優しさを感じる。なぜだかみんながついて行きたくなる魅力がありますよね。ロードムービーってなにが起きるのかハラハラするような危うい点もあるけれど、本作は優しい視点で彼らを見つめていて、『こういう映画、好きだな』と感じて観ていました」と温かさに包まれながら鑑賞したという。

「どんな命も、“生まれてきてくれただけで、ありがとう”」

是枝監督は、本作の脚本を書きながら韓国で様々な取材を行い、赤ちゃんポスト出身の子どもたちの声にも耳を傾けたことで、「捨てられた子が、生まれたことを後悔するような着地にはしたくなかった」と本作に込めた想いを明かしている。鈴ノ木は、自身の代表作で実写ドラマも話題を呼んだ「コウノドリ」との共通点を感じることも多かったと語る。

産科医・鴻鳥サクラを主人公に、産科医療の現場をリアリティたっぷにり描く「コウノドリ」 [c]鈴ノ木ユウ/講談社
産科医・鴻鳥サクラを主人公に、産科医療の現場をリアリティたっぷにり描く「コウノドリ」 [c]鈴ノ木ユウ/講談社

「コウノドリ」は、産科医の鴻鳥サクラを主人公に、妊娠、出産から見えてくる人々の結びつきや葛藤と、医療現場の奮闘を描く人気コミックで、鈴ノ木は、未受診妊婦や中学生妊婦の出産など、恵まれない環境で生まれてくる命についても描いてきた。そんななか、彼が常に大事にしてきたのは「生まれや育ちが不幸であっても、それは関係ない。どんな命も奇跡であり、“生まれてきてくれただけで、ありがとう”ということ」だそうだが、そういった作品を貫くテーマは、まさに『ベイビー・ブローカー』とも重なるものだ。

鈴ノ木は「“生まれてきてくれただけで、ありがとう”って、多くの親が赤ちゃんにそういった想いを抱いていると思うし、赤ちゃんのころには、多くの人がかけられてきた言葉かもしれません。様々な事情を抱えて生きる人々が描かれた『ベイビー・ブローカー』を観て、それって、年齢に関係なく、大人になっても、おじいちゃん、おばあちゃんになってもかけられたい言葉だなと改めて思いました。だって、大人になってもそう思いたいし、そう言われたいですよね。僕も帰ったら、息子にそう言ってもらおうかな」と目尻を下げる。

成り行きから赤ん坊を売るため、共に旅をすることになったサンヒョンたち [c] 2022 ZIP CINEMA & CJ ENM Co., Ltd., ALL RIGHTS RESERVED
成り行きから赤ん坊を売るため、共に旅をすることになったサンヒョンたち [c] 2022 ZIP CINEMA & CJ ENM Co., Ltd., ALL RIGHTS RESERVED

鈴ノ木が「コウノドリ」に着手したきっかけは、自身の長男の誕生と、妻からの「産科医の漫画を描いてみたら?」という言葉。妻の知人だった、りんくう総合医療センターの産科医に話を聞きながらイメージを膨らませていったという。「コウノドリ」のサクラと『ベイビー・ブローカー』のドンスには、“養護施設で育った過去がある”という共通点もあるが、一体、サクラはどのようにして生まれたキャラクターなのだろうか。

[c]鈴ノ木ユウ/講談社
[c]鈴ノ木ユウ/講談社

「産科医の先生からは『未受診妊婦が出産に来て、注射針を盗んで帰ってしまった人もいる』など、すごい話をいろいろと聞いて。赤ちゃんを置いていなくなってしまうお母さんも、実際にいるそうです。『その赤ちゃんはどこに行くの?』と聞いたら、『乳児院に行く』と。その後、乳児院や児童養護施設にも取材に行きましたが、子どもたちを見て『この子たちみんな、いい人に出会ってほしいな』と思っていました。僕らは誰しもがそうだけれど、いい人と出会うことが大切。“生まれてよかったな”と思える環境を作ってくれる大人と出会えれば、そこからどう生きるかは自分次第。きっと、どんな生き方だってできるはずです。そんな想いを込めて、乳児院と養護施設で育ち、医者になっていくサクラを描きました」と希望を注ぎ込んだ。

「ソヨンの葛藤や母親としての心の動きは、すごくリアル」

実際の産科医からあらゆる話を聞いてきた鈴ノ木にとって、赤ちゃんポストに赤ん坊を預けざるを得なかったソヨンの葛藤も「とてもリアルに感じるものだった」と胸の内を明かす。

ソヨンはサンヒョンとドンス、そして赤ちゃんのウソンと過ごすなかで、少しずつ変化していく [c] 2022 ZIP CINEMA & CJ ENM Co., Ltd., ALL RIGHTS RESERVED
ソヨンはサンヒョンとドンス、そして赤ちゃんのウソンと過ごすなかで、少しずつ変化していく [c] 2022 ZIP CINEMA & CJ ENM Co., Ltd., ALL RIGHTS RESERVED

「出産って、周りのサポートがあったとしてもとても大変なものだと思うんです。それが一人で悩んでいたとしたら、どんなにつらかっただろうと。きっと心まで壊れてしまいますよね。例えば中学生や高校生が一人で悩んで、誰にも言えないままお腹が大きくなっていったとします。そういう時って、誰かに責められるととてもつらい。妊婦さんにとっては、困った時に“助けて”と言える場所が、絶対に必要。逃げ場所というか、どうしたらいいかわからない状況を非難されることなく、自分の居場所となるようなところ、そして赤ちゃんを預けられる場所が必要だと思います。本作の場合、ソヨンが赤ちゃんポストに預けに行けて本当によかったなと。だって赤ちゃんを育てられず、亡くなってしまったとしたら、なんの意味もないですから」と真摯にコメント。

続けて「ソヨンは赤ちゃんポストに置いた後、次の日にそこに戻ってくる。なぜだかわからないけれど、戻ってきてしまう。その葛藤や母親としての心の動きは、すごくリアルだなと思いました。実際にそういった状況になった時に、戻りたいと思った人ってたくさんいると思うんです。是枝監督はたくさん取材を重ねたんだろうなと感じました」と是枝監督の手腕に舌を巻く。鈴ノ木自身「コウノドリ」を描くうえでは、「同じように妊娠や出産、それに関わる経験をした人たちが、“そうそう、そうだよね”、“こういうことを知ってほしかった”と思えるようなものを目指したいと思っていました」とデリケートな問題を扱っているからこそ、リアリティを大切にしてきたという。

「コウノドリ」の1巻では、サクラが乳児院に預けられていく赤ちゃんを見つめながら、「これから人の何十倍もつらいことがあるかもしれない。でも幸せになることもできる。負けるなよ」とエールを送る場面があった。鈴ノ木は「本作の赤ちゃんを見てもそう思いますし、どの赤ちゃんを見てもいつもそんな気持ちになる」と告白。「赤ちゃんや、子どもには無限の可能性があるし、赤ちゃんには周りを変えていくようなパワーもある」と力強く語る。

[c]鈴ノ木ユウ/講談社
[c]鈴ノ木ユウ/講談社
[c]鈴ノ木ユウ/講談社
[c]鈴ノ木ユウ/講談社

「僕自身も子どもが生まれたことで、人生が180度変わりました。それまでは、ラーメン屋さんと牛丼屋さんで働いていて、しんどいな…など思ってしまっていたんですが、立ち会い出産をして、女の人ってすごいなと驚いて、子どもを抱っこした瞬間、自分の人生がまた新しくここから始まったという気持ちになりました。ソヨンが赤ちゃんポストに戻ってきたのも、赤ちゃんを産んで、きっとその尊さを実感したからだと思うんです。この映画のすべては、赤ちゃんの尊さから始まっている」としみじみ。

過酷な状況にありながらも、赤ちゃんの幸せをめぐって特別な絆が生まれていく登場人物を描く本作を通して鈴ノ木が実感したのは、「『生まれてきてよかったな』と思うことってたくさんあるものだ」ということ。

【写真を見る】『ベイビー・ブローカー』のメイキング風景。旅を通じて絆を築いていく登場人物たちさながらに、楽しそうなキャストたち [c] 2022 ZIP CINEMA & CJ ENM Co., Ltd., ALL RIGHTS RESERVED
【写真を見る】『ベイビー・ブローカー』のメイキング風景。旅を通じて絆を築いていく登場人物たちさながらに、楽しそうなキャストたち [c] 2022 ZIP CINEMA & CJ ENM Co., Ltd., ALL RIGHTS RESERVED

「本作の登場人物のように、生きていると“辛いな”と感じることは誰しもが抱えていると思いますし、たとえ背負っているものが不幸であったとしても、出会いやきっかけさえあれば、人っていくらでも笑えるものなんだなと思うんです。劇中、洗車機で車を洗っている時に、(旅に途中から同伴する)少年、ヘジンが窓を開けてしまってみんなで大笑いするシーンがありましたよね。ああいったシーンもそうですが、本作では登場人物それぞれの笑顔が印象的で、それがとてもいいなと思いました」とにっこり。「人生においては、泣いたり傷ついたりすることの方がインパクトが大きいもの。僕も『あの原稿よかったですよ』と言われたことよりも、原稿がボツになったり、怒られたりする方がよく覚えていたりしますから(笑)。でも考えてみると、生まれてきてよかったなと思うことってたくさんあるもの。改めてそう感じることができて、好きな人に、“生まれてきてくれてありがとう”と言いたくなるし、言ってもらいたくなるような映画だなと思いました」と実感を込めながら語っていた。

取材・文/成田おり枝

元記事で読む
の記事をもっとみる