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ゴージャスな配役と衣装、パリ・オペラ座の『真夏の夜の夢』。

  • 2022.6.27
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パリ・オペラ座バレエ団によるシーズン閉幕作品はオペラ・ガルニエにてバレエ・ブランの傑作『ジゼル』、そしてオペラ・バスティーユにて『真夏の夜の夢』である。後者はシーズンの最後に公演されることの多い『リーズの結婚』同様に、明るく、軽く、家族揃って楽しめる。終了後、陽気な気分で劇場を後にできる2幕ものだ。シェイクスピアの同名の喜劇を原作に、ジョージ・バランシンが1962年にニューヨーク・シティ・バレエ団のために創作した2時間10分の作品。パリ・オペラ座のレパートリーに加わったのは2017年である。

オペラ座のプロモーションビデオより。レパートリー入りした2017年の公演からの映像。この時のオベロン役のユーゴ・マルシャンとヒッポリータ役のアリス・ルナヴァンは今回は『ジゼル』に配役されている。妖精パックは引退したマニュエル・ティボーだ。

この作品はバランシン作品には珍しくストーリーのあるバレエだ。シェイクスピア作品が原作といっても『ハムレット』や『オセロ』と違い、これは森を舞台に妖精の国の王オベロンと女王タイタニア、そして2組の人間のカップルが繰り広げる喜劇である。花粉がまぶたにかかると最初に目にしたものに恋をしてしまうという花を手に、ドタバタを巻き起こすのが妖精のパック。2組の男女のうち、ハーミアとライサンダーは愛し合い、ヘレナはディミトリアスを愛しているが彼はハーミアに気があって、という状況である。ディミトリアスの気持ちをヘレナの方に向かわせて2組を収めるようにオベロンに命じられたパックは、誤って花粉をライサンダーのまぶたにかけてしまう。そこに姿を現したのがヘレナだったことから、彼はハーミアを忘れて彼女を追いかけることになる。ライサンダー→ヘレナ→ディミトリアス→ハーミア→ライサンダーと4人が一方通行に。この物語の進行と同時に、森の平和を脅かす工事人たちにもパックは花の魔法を駆使。工事人のひとりをロバに変え、昼寝から目覚めた女王タイタニアがロバに恋をするようにいたずらをするのだ。もちろん、最後は大団円。

左: タイタニア役のリュドミラ・パリエロ。左後方の騎士(フロリアン・マニュネ)と踊るパ・ド・ドゥは短いながらも、テクニック的に興味深い振り付けだ。右: オベロン役のポール・マルク。後方は学校の生徒たち。photos:(左)Yonathan Kellerman/ Opéra national de Paris、(右)Agathe Poupeney/ Opéra national de Paris

左: いたずらっ子の妖精パック役は機敏さと演技が要求される。フランチェスコ・ムーラが怪我で降板し、アンドレア・サーリ(スジェ)が第1配役に。右: タイタニアが座る貝型の椅子は、彼女がオフシーンのときは後ろ向きにして舞台展開もスピーディに。photo:(左) Yonathan Kellerman/ Opéra national de Paris、(右)Agathe Poupeney/Opéra national de Paris

第2幕はアマゾンの女王ヒッポリータとアテネの公爵テゼ、そしてパックの誤りに振り回された2組の合計3カップルの結婚披露宴である。第1幕ではダンサーたちはステップを踏むより、ストーリーに合わせてステージ上を右往左往という印象だったが、第2幕はディヴェルティスマンでバランシン振り付けのダンスのオンパレードである。長くはないが、見ごたえたっぷり。なお、このバレエの音楽はメンデルスゾーン。有名な結婚行進曲は第2幕の最初に奏でられる。全幕、オーケストラの演奏に加え、女性コーラスとソプラノの歌もあってとダンスだけでなく音楽の楽しみもあり、物語は他愛ないにしても、とても贅沢な公演だ。

パリ・オペラ座が2017年に初上演した際、衣装と舞台装置がクリスチャン・ラクロワに任された。主人公、準主人公、そしてコール・ド・バレエの妖精や蝶々たち。光沢ある素材、華やかな色使い、装飾あふれる衣装がお手のものの彼には腕の振るいどころのある仕事だったことだろう。また2組の恋人たちの衣装は赤組とブルー組に分けられていているので、パックのいたずらで組み合わせがずれていることが視覚的にわかり、煩雑なストーリーを観客が理解するのに役立っている。

クリスチャン・ラクロワによるコスチュームと舞台装置もこの作品の見どころである。photos:Yonathan Kellerman/ Opéra national de Paris

第2幕、婚礼のシーンのコール・ド・バレエ。photo:Yonathan Kellerman/ Opéra national de Paris

6月18日から7月16日まで合計17公演あるのだが、配役はエトワールとプルミエ・ダンスールが大集合。たとえば第1配役ではオベロンがポール・マルク、タイタニアがリュドミラ・パリエロ。そして2組のカップルはオニール八菜とパブロ・レガザ、ローラ・エケとオードリック・ブザールで、タイタニアの騎士はフローリアン・マニュネ、ヒッポリータはエロイーズ・ブルドンと、実にゴージャスである。第2幕のディヴェルティスマンではミリアム・ウルド=ブラムとジェルマン・ルーヴェがここに加わる。彼らが揃ってラクロワによる衣装を着け、幻想的な森の舞台で踊るシーンの麗しさは夢を見ているよう。なお、2017年3月の公演でオベロン役は日本でエトワールに任命されたてのユーゴ・マルシャンと当時はスジェだったポール・マルク。今回ユーゴ・マルシャンは同時公演の『ジゼル』に専念し、ポール・マルクはエトワールとしての再演である。入団以来定評のある確実なテクニックにはさらに磨きがかかり、ステージの上での存在感はこのところひときわ増しているようだ。ジェルマン・ルーヴェとミリアム・ウルド=ブラムはオペラ座ならではのフレンチエレガンスをたっぷり披露し、エロイーズ・ブルドンはゴールドを配した衣装効果も合わさって、ステップを踏むたびにきらきらと輝く極上の美しさと躍動感で観客を魅了する。頭を空っぽにして、『真夏の夜の夢』で一夜のお祭り気分を味わってみるのも暑い季節の宵の過ごし方だろう。

ヒッポリータ役のエロイーズ・ブルドン。photo:Yonathan Kellerman/ Opéra national de Paris

ジェルマン・ルーヴェとミリアム・ウルド=ブラーム。photo:Yonathan Kellerman/ Opéra national de Paris

『Le Songe d’une nuit d’été(真夏の夜の夢)』Opéra Bastille公演)~2022年7月16日料)15~130ユーロwww.operadeparis.fr

 

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