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日本初、ホームレス状態にある人たちが撮影した写真集

  • 2022.6.24

『アイム Snapshots taken by homeless people.』は、ホームレス状態にある方々が撮影した写真集だ。大阪の認定NPO法人「Homedoor」が企画・制作し、クラウドファンディングで506人から600万円以上の支援を集めた。

フィルムカメラを託されたその人たちは、いったいどんな風景を切り取ったのだろうか。

「カメラを渡された時にすぐあそこに行こうと思った」

マエダさんは、下の美術館を撮影した。かつてお子さんの絵が二科展に選ばれ、ここで授賞式がおこなわれたのだそうだ。

「美術館。子どものあれで、ちょっと懐かしいなと思って。幼稚園のとき、先生に「うまく描けましたから、二科展に出したら優勝したんです。子どもさんと同行してください」って言われて。新聞に名前載ってね。ここで表彰式やったの。この階段で家族で写真撮って。賞状持って。それ懐かしかったから。」

「カメラを渡された時にすぐあそこに行こうと思った」というマエダさん。カメラが思い出に浸る時間を作ってくれたようだ。そんなマエダさんが家を失ったきっかけは、実家で漁師をしていた父親が、借金を抱えたまま脳梗塞で倒れたことだった。

「突然、妹から電話があって。「脳梗塞で倒れた」って。私が40代半ばのとき。私も大阪から新幹線に飛び乗って。どうしたものか考えて、親父を殺すわけにはいかんってその一心から電話しました。「すぐ手術してもらえ。あとでわしがなんとかする。親父を殺すわけにはいかん」って。それからや、借金を肩代わりする生活が始まって。体が助かったからよかったものを。こんな生活があるなんて、人生知りもせんで。まあ、いい勉強になった(笑)。ほんまにそうですよ。」

「ちゃんとしてるからと言って......」

音楽好きのエガワさんは、歌詞に歩道橋が出てくる尾崎豊の「十七歳の地図 SEVENTEEN'S MAP」になぞらえて、下の写真を撮ったという。バスの車窓から撮影したそうで、交差点を走り抜ける一瞬の速度が伝わってくる、印象的な一枚だ。

「仕事ですか? 働いてます。パートタイムではなく、ちゃんと正社員で。なので、属性としてはちゃんとした大人、社会人ではあるんですけど、ただ、ちゃんとしてるからと言って、給料が高いか低いか、高所得か低所得かというのはまた別の話ですよね。」

エガワさんは学生時代にひき逃げにあい、ナンバープレートを控えて通報したが事故証明を出してもらえず、自分で医療費を立て替えざるをえなかったそうだ。さらにストーカー被害やカツアゲ被害などが重なって負債を抱えてしまい、正社員でも定住ができない状況にある。

「ここまで生きてこられたということ自体がもう奇跡」

撮影者の一人、岡山出身のMさんという女性は、遠距離で交際していた相手に大阪へ呼び寄せられ、しかし結局一緒に住まわせてもらえず路頭に迷うことになった。Mさんはこんな話をしている。

「全然外に出たことないような人が、外の仕組みも何もわからないまま外で暮らすことになって。外で生活して5年くらいだと思うんですが。もうそういう生活をずっとやっていると日にちの感覚、時間の感覚、そういうものがもう現実と同じ速度では進んでいないんですね。だから、ここまで生きてこられたということ自体がもう奇跡ですね。神様が見てくださったんだろうなと。」

そんなMさんが撮ったのが、花々に囲まれた、家の形のオブジェだ。

「私は、おうちがない生活をずっとしていたものですから、きっとおうちに憧れているんです。だから、お花畑の中にこういう小さな赤い屋根の置物があったり、バラ園とかでも建物があってお花があったりしたら、その建物をすごくいいなあとか思ったりするんです。」

「いつまでもおれるとこではないです」

表紙にもなっているスズメの写真を撮ったヨシダさんは、以前土木の設計をしていて、植物、生き物に詳しい。当時の会社の倒産で困窮し、今は電子機器などを拾って買い取りに出すことと、リフォームのための解体工事や材料搬入の仕事をして生活している。

「このままずっと今の状態で飯食っていけたらいいけど、どこかで年金もらって引退しないとね。リズムはこっちに慣れてるのであれですけど。ただまあ、寒いとき暑いときは大変なんですね。蛇口ひねりゃ水出るわけじゃないから。いつまでもおれるとこではないです。」

ホームレス状態にある方と直接話したことがあるという人は、少ないのではないだろうか。本書のインタビューを読むと、撮影者の方々がまるで目の前で話しているかのような感覚になる。今まで別世界の人のように感じていた人たちの、一人一人の人間性や人生の軌跡が、鮮明に見えてくる。

「ホームレス」は、"人"ではなく"状態"

写真集のタイトルの『アイム』は、「I'm」の意味。「ホームレス」という括りではない、それぞれの「わたし」の話がそこにはある。

「ホームレス」という言葉は、人や集団ではなく、あくまで状態を指す言葉だ。そのことをこの写真集を通して知ってもらいたいと、Homedoor事務局長の松本浩美さんは言う。

彼らの世界をみる視点が、世界が彼らをみる視点に変化を与えることを願って。

本書の売上は、Homedoorによるホームレス状態の人たちへの支援活動に充てられる。

またHomedoorは、『アイム』をより多くの人に読んでもらうために、公共図書館、自治体施設、教育機関、企業・団体など向けに無料寄贈をおこなっている。

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