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ドキュメンタリー好き・月永理絵(エディター)、忘れられないあのシーン。『空に聞く』

  • 2022.6.22
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『空に聞く』イメージイラスト

主人公が毎月ラジオで行う黙祷を「録音でいいのでは」とテレビ記者に言われたとき

どうすれば、人の話を聞き、その言葉に正確に応じられるのか。インタビューの仕事を何度やってみても、いまだに正解がわからない。だから『空に聞く』を観てハッとした。

災害FMで働く阿部さんは、決して無理に話を聞き出すことなく、語り手の大事なところにそうっと触れていく。技術ではなく、ただ真っすぐに人の声に向き合う彼女の仕事ぶりに、そうだ、これが話を聞くということだ、と心の底から納得した。

『空に聞く』
©KOMORI HARUKA

そんな阿部さんが、一度だけぴしゃりとこう言い放つ。「バカじゃないの」。
以前テレビ記者から、毎回同じ内容にもかかわらず月命日の黙祷の呼びかけを生放送で行う理由を問われ、思わずそう言ってしまった。やる理由があるからじゃない、やらない理由がないからやる、ただそれだけだ、と彼女は凜とした表情で語る。

そんな人に「なぜやるんですか」と問いかけてしまった記者の迂闊さを、私は笑うことができない。きっと自分も、聞くまでもないことを何度も問いかけてしまったはずだ。
このシーンを、私は何かあるたび心のなかで噛み締めている。阿部さんの、そのきっぱりとした声を自分自身に向けながら。

『空に聞く』イメージイラスト

Information

『空に聞く』

『息の跡』の小森はるか監督が、東日本大震災の後、『陸前高田災害FM』のラジオパーソナリティを務めた阿部裕美さんを撮影したドキュメンタリー映画。町のあちこちで取材をし、プレハブの放送室でその言葉と音をラジオに乗せて町の人々に届けていく。FMでの仕事ぶりと、数年後に地元で和食屋を再開した彼女にインタビューをした様子とを交差させるうち、震災後の陸前高田の町の変化が浮かび上がる。

profile

月永理絵(エディター、ライター)

つきなが・りえ/『映画横丁』編集人。『朝日新聞』『メトロポリターナ』『週刊文春』ほかにて映画評を連載中。

twitter:@eiga_sakaba

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