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フィガロが選ぶ、今月のシネマ5選[2015.10.07~]

  • 2015.10.7
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フィガロジャポン11月号に掲載したカルチャー情報を、madame FIGARO.jpでもお届け。現在上映中&まもなく公開の注目映画5作品と、その見どころをご紹介!

負性を抱えた少年と闘犬の、意志的な自己克服と復活劇。

『シーヴァス 王子さまになりたかった
少年と負け犬だった闘犬の物語』


いまアジア各地に注目すべき"犬映画"が続々と生まれているのをご存じだろうか。韓国の『ほえる犬は噛まない』や『ムサン日記〜白い犬』は有名だが、独居老人に寄り添うダックスフントの悲哀を描いたフィリピンの『ブワカウ』は米アカデミー賞の候補になったし、捨てられた孤独なシェパードが街をさまようイランの『流れ犬パアト』も名作だった。後ろの2本は東京国際映画祭で上映されたものだが、昨年の同映画祭で日本でのお披露目を飾り、ついに一般公開されるのがトルコの『シーヴァス 王子さまになりたかった少年と負け犬だった闘犬の物語』である。この作品がユニークなのは、闘いに敗れて瀕死の状態だった闘犬シーヴァスの"敗者復活"のドラマと、シーヴァスを介抱しながら自らも成長していく少年アスランの物語を並行して展開させていく、その語り口の巧みさである。
『シーヴァス』が描くのは、動物ものにありがちな人間とペットのセンチメンタルな交流などではなく、お互いマイナスを抱えた少年と闘犬が強い意志でそれを克服していくプロセスにほかならない。アスランは小学校で上演する『白雪姫』の舞台で、村長の息子に割り振られた王子様の役を奪取して、想いを寄せる白雪姫役のアイシェと共演することができるのか。一方のシーヴァスは、敗北を喫した宿敵の闘犬ボゾとの再戦に勝利することができるのか――。このふたつのエピソードが観る者の心を掴んでぐいぐい引っ張っていく。その意味で本作はきわめてハードボイルドで観る者に元気を与えてくれる動物映画といえる。トルコ映画といえばカンヌ国際映画祭で最高賞を受賞した『雪の轍』が公開されたが、今度は『シーヴァス』に注目だ。


文/石坂健治(映画祭ディレクター)

国際交流基金専門員を経て、東京国際映画祭の「アジアの未来」部門、同「ワールド・フォーカス」部門のアジア映画枠でプログラミング・ディレクターを務める。共著書に『アジア映画の森 新世紀の映画地図』(作品社刊)など。

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