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「上司の顔よりお客様を見て」売上過去最高を更新したオルビス最年少女性役員の手腕

  • 2022.6.17
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スキンケア商品を中心とするビューティーブランドで知られるオルビス。西野英美さんは、そのブランドの基幹商品である「オルビスユー」のリニューアルに2度にわたって携わり、同社の商品イメージを大きく向上させた立役者だ。女性社員ばかりの特殊な環境だったという新人時代や、女性部長の前例が少なかった管理職時代をどう乗り越えてきたのか――。

新人時代は特殊な環境での生き残りに必死だった

西野英美さんは2002年、新卒でオルビスに入社。商品企画部門に配属され、最初の数年間は大好きな化粧品に携われる喜びでいっぱいだったと振り返る。だが、その喜びは長くは続かなかった。

「当時、上司は絶対的存在。私もいかにうまく立ち回るかが最優先でした。女性社員ばかりの部署ということもあって流行っていたドラマの影響で「大奥みたいだね」と同期と語っていました(笑)。常に上司の顔色と間合いを伺いながら「慣習だから」「新人だから」と命じられた作業もとにかく必死でこなしていました。でも後に自分が管理職になった時、自分がやられてイヤだったことを“逆ロールモデル”にして、自分なりのマネジメントスタイルを見つけることができました」

オルビス 執行役員 ブランドデザイン・QCD担当 西野英美さん
オルビス 執行役員 ブランドデザイン・QCD担当 西野英美さん

ただ、当時は生き残りに必死で、上司の機嫌が最優先、たまった鬱憤は周囲や後輩に向けていたという。本人いわく、ひたすら強がっていた「尖った石ころ時代」。優秀な若手として生き残りには成功していたものの、モチベーションは低下するばかりだった。

直属の上司に初めて抵抗した日

その後、マーケティング部門への異動でいったんは意欲を取り戻した西野さん。ところが、ほどなくしてブランドの象徴商品「オルビスユー」の開発が決まり、再び商品企画部門へ異動を命じられる。それまで、会社や上司には決して逆らわない姿勢を貫いていたが、このとき初めて抵抗し、直属の上司に心中を打ち明けた。

「以前の経験を話して、あの環境に戻るのは嫌だと訴えました。そうしたら『この異動はチャンスだし、ここぞというときは動かなきゃ』と励ましてくれて、上司自らが動き異動先の組織体制も変えてくれたんです。そこまでしてくれるなら、と異動を受けました。当時の上司には今も感謝しています」

西野さんは刷新された商品企画部門で力を発揮し、まもなく「オルビスユー」の初代ブランドマネジャーに就任。商品改革に取り組む中で、人を巻き込むことの重要性を知り、社員の心を動かすために自ら熱く語る姿勢も身につけた。

あえて“熱く語る人”を演じていた部分もあったそうだが、「言葉や働きかけ次第で人はこれだけ動いてくれるようになるんだ」と実感できたのは大きな収穫だったという。

西野さんのLIFE CHART
年上部下に認めてもらえず大事な会議にも呼ばれない…

そして今度は商品管理部へ異動して管理職に就任。実績が認められての昇格だったが、当時まだ30代半ば。よその部署からいきなり上司として異動してきた西野さんに対し、「ベテランを差し置いてなぜあの子が上司に」という声も上がったという。

撮影=遠藤素子

特に年上の部下には上司と認めてもらえず、大事なミーティングに呼ばれないなど、蚊帳の外に置かれることもたびたび。だからといって落ち込んでばかりもいられない。西野さんは「そっちがその気なら1人でできる仕事だけやろう」と気持ちを切り替えたが、それは同時にマネジャーという役割の放棄も意味していた。

「会社にいたくなかったのか、この頃は1年で30回以上も外部セミナーに行っています。今思えば、環境や相手のせいにしてマネジメントから逃げていたんですね」

“やさぐれマネジャー”が部長に

そんな“やさぐれマネジャー”だった西野さんを見かねたのか、1年後、上司が古巣のマーケティングの新規獲得チームに戻れるよう取り計らってくれた。部下が若手ばかりだったことも幸いし、西野さんはここで初めてマネジメントの面白さを知る。

いちばん役に立ったのは新人時代の苦い思い出。「こういう上司は嫌だな」と感じていた自分を思い出し、その上司を反面教師として逆の行動をとるよう心がけた。

指示するだけでなく自ら動く。チームのあるべき姿をメンバーと一緒に模索する。変えたいことがあれば慣習に縛られず実行する。ミスがあっても部下のせいにするのではなく自分が責任をとる――。そう行動するうち、自分らしいマネジメントスタイルが少しずつ見えてきたという。

だが、順風満帆なキャリアとは裏腹に、事業は成熟期を迎え業績も伸び悩んでいた。他の通信販売ブランドやナチュラルオーガニックブランドが台頭するなか、市場でのオルビスのプレゼンスが低下。価格勝負の通販事業を脱却し、スキンケアを中心としたビューティーブランドに生まれ変わることが求められていた。同時に「オルビスユー」についても、会社はリブランディングの象徴とし、初のリニューアルを決定した。

西野さんは再び商品企画部に、今度は部長として戻ることになる。

「女性部長の前例があまりなかったので、正直、なりたくないと思っていました。『課長のままでいいです、それで部長と同じぐらい働きますから』と言ったのを覚えています。でもよく考えたら、断る明確な理由もなかったんですよね」

女性部長、古巣に戻り叫ぶ

オルビスは第二創業期と捉え、リブランディングを実行。西野さんが部長として任されたのは、事業回復の起爆剤となりうる大規模な商品改革だった。ブランドの思想を体現する商品をつくろう、新たな世界観を世に打ち出そうと懸命に取り組んだ。

リブランディング前の商品ラインナップ(上)とリブランディング後のオルビスユー(下)
リブランディング前の商品ラインナップ(上)とリブランディング後のオルビスユー(下)(画像提供=オルビス)

ブランド改革は、まず開発期間を要する商品企画が先行して取り組んでいくことが求められる。だが、西野さんが着任したときは、商品を支持するお客様が徐々に離れ、チームの雰囲気は暗く、メンバーも自信を失っている状態。上司の顔色を伺いながら仕事をしているメンバーもいて、「私は寵愛から外れちゃって……」という自虐混じりの会話も飛び交う始末。

「体制は変われど、本質的には『あの頃』となにも変わっていないなと。だから、まずはメンバーのモチベーションを上げることに力を入れて、同時に『上司の顔ではなくお客様の顔を見て』と訴えて回りました」

社内の“反発”に対して説明した2つのこと

モノづくりへの意識改革にも着手した。徹底して「既存顧客の声」に応える商品企画は同社の強みだったが、“内向き”志向が強くなり、企画から販売までが合理的で分業的だった。西野さんはミッションやビジョンからコンセプトを立てて商品に落とし込んでいくやり方を実践。市場で勝ち抜くため、内からだけでなく外からも積極的にヒントを見つけ、商品に込めた思いを自ら発信し、全社で一体感をもって前進する企業へと転換を図ったのだ。

もちろん、反発もあった。特に経験が長い社員ほど「せっかく承認がとれた商品はそう簡単に変えるものではない」と抵抗した。時代の空気感を反映し、商品の見せ方を変えれば「他社の真似をしているだけ」と嫌味を言われた。

撮影=遠藤素子

こうした大きな変化や改革に抵抗感のある“反発勢力”に対して、西野さんが言った言葉は2つ。1つは「まったく違う商品にするのではない。原点を大切にしつつ、市場や時代の変化に合わせて商品を“進化”させていくんだ」ということ。

「もう1つは、まずはお客様に選ばれるための土俵に上がるんだということです。そして、土俵に上がったその先で他社ブランドを凌駕するんだと。長くモノづくりをしてきた私たちが負けるわけがないと、とにかく熱く語り続けました」

このとき、西野さんが合言葉としてメンバーに言い続けていたのが「follow me」。自分についてきてほしい、この熱量に応えてほしいと願ってのことだった。だが、思い入れが強すぎて1人で突っ走っていたのかもしれない。「自分では手ごたえを感じていても、振り返ったら、誰もついてきていなかったこともある」と苦笑する。

同社の最高売上記録を出した「オルビスユー」
同社の最高売上記録を出した「オルビスユー」

組織を動かす難しさを痛感したが、それでも心が折れることはなかったそう。誰一人欠けることなく、自信をもって商品をお客様に届けていく状態を作りたかったから。持ち前のタフさでメンバーへの働きかけを繰り返し、約1年後、ついに新たな「オルビスユー」を世に送り出した。その成果は目覚ましく、発売からわずか2カ月で異例の販売累計67万個を突破し、同社のスキンケアシリーズの最高売上記録を更新したという。

部下の本音を聞こうと「西野の館」をオープン

ブランド改革の過程で、西野さんはもう1つのマネジメントスタイルも身につけた。それは部下の気持ちに寄り添うこと。相手の話をよく聞いて心情を理解し、厳しい指摘もするが、その分いい企画が出れば「めっちゃいいじゃん!」と大いに褒める。互いにフラットに話せる場も意識的に設けるようにした。

撮影=遠藤素子

しかし部下からすれば、悩みや課題を感じていても、部長にはなかなか言いづらいもの。そこで始めたのが「西野の館」だ。これは、自ら希望した部下と西野さんが1対1で対話する場で、内容は悩みでも愚痴でも何でもOK。本音や事業上の課題をぶつけてくれる社員も多く、自身の学びにもなったと語る。

「仕事って、いくら能力があっても気持ちがついてこなかったらうまくいかない。だから意欲が下がっている人がいれば上げてあげたいし、障壁があれば取り除いてあげたいんです。心がけているのは、自分を主軸にして語らないこと。常に相手の目線や立場に立って話すようにしています」

1on1の最後は必ず同じ質問を投げかける

「西野の館」は役員になった今も継続中。毎回、最後には必ず「私が何したら一番うれしい?」と同じ質問をしている。それは「声に出してくれたら私が動くよ」という、社員たちへの熱いメッセージでもある。

評判を聞きつけた社長も「小林の部屋」を始めたそうで、西野さんは「強力なライバル店が出現しちゃった(笑)」と楽しそうだ。

一度は断りながらも引き受けた部長職。振り返れば、そこがターニングポイントだったのかもしれない。世の中的には、まだまだ管理職になりたがらない女性も少なくないが、西野さんは「断る明確な理由がない限り受けたほうがいい」と、そうした女性たちの背中を押し続けている。引き受けた先に、必ずその経験からでしか得られないものがあるからと。

そのかいあって、今では後継の女性部長も誕生した。後に続く女性たちのために、今後は「ステップアップや昇格を女性にとって当たり前の経験にしていきたい」と力を込める。

「性別だけでなく、パートナーや子どもの有無を含めてさまざまな環境、さまざまなキャリアの人を増やしていきたいですね。他にも新規事業やダイバーシティ、サステナビリティなど取り組んでいることがたくさんあるので、自分や部下、会社のこれからが楽しみで仕方がないです」

■役員の素顔に迫るQ&A

Q 好きな言葉
私は私

「誰かと比べたくなることもあるけれど、そんなときは、私は私でしかないと思うようにしています。この言葉で大抵の悩みは片づきますね」

撮影=遠藤素子

Q 愛読書
ユクスキュル、クリサート『生物から見た世界』(岩波文庫)

Q 趣味
旅行とお酒とお肉

Q Favorite Item
生き物グッズ

「生き物が大好きで、動物や昆虫をモチーフにした商品を見るとつい買ってしまいます」

文=辻村洋子

西野 英美(にしの・えみ)
オルビス 執行役員 ブランドデザイン・QCD担当
2002年、オルビス入社。14年よりブランドの基幹スキンケアシリーズ「オルビスユー」の初代ブランドマネジャーを務める。18年に商品企画部長に就任し、スキンケアを軸とした商品強化を指揮。20年より、執行役員就任。21年より、新規事業領域を管掌下におき、オルビス初のパーソナライズスキンケアをローンチするなど、未来に向けたブランド成長戦略を描く。22年より、サステナビリティ領域も管掌下におき、ダイバーシティ、サステナビリティ推進にも取り組む。

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