1. トップ
  2. 『パンドラの果実』止められない科学の暴走 小比類巻と星来に魔の手が忍び寄る

『パンドラの果実』止められない科学の暴走 小比類巻と星来に魔の手が忍び寄る

  • 2022.6.12
  • 174 views
『パンドラの果実~科学犯罪捜査ファイル~』(c)日本テレビ

『パンドラの果実~科学犯罪捜査ファイル~』の第8話(日本テレビ系)は「いよいよ最終章」、先週の放送終了後からたびたび予告されていたとおり、冒頭から衝撃の事実が判明する。次から次へと明らかになる新事実、その複雑さにひとときたじろぐが、一つひとつのピースがはまっていく。榊原(加藤雅也)が星来(鈴木凜子)の存在を知った瞬間、行きつく先が見え、そのおぞましさに背筋が凍った。

小比類巻(ディーン・フジオカ)が見かけた、亜美(本仮屋ユイカ)と瓜二つの女性・美羽(本仮屋ユイカ)が、全身の血液を抜かれた状態で見つかった。彼女の身元を捜索するうち、あらゆる点と点が繋がってゆく。美羽の死因は、サイトカインストームによる多臓器不全、すなわち免疫機能の暴走。美羽の身体が打ち勝とうとしたのは、プロメテウス・ウイルスーー最上(岸井ゆきの)と速水(栗山千明)が生み出し、もうこの世には存在しないはずの「科学の光」だった。

調べにより、美羽と亜美は正真正銘、一卵性の双子であることが判明する。さらに驚くべきは、美羽に「奇跡の遺伝子」エルマー遺伝子が見つかったこと。つまり美羽は、プロメテウス・ウイルスと戦い、老化することなく打ち勝ったが、サイトカインストームを引き起こし死亡した。そして、美羽を拉致し、プロメテウス・ウイルスを投与した黒幕こそ榊原だった。

すべては、1990年に榊原茂吉が起こした「悪魔の子」事件に遡る。茂吉は、患者に無断で受精卵の遺伝子操作を行い、エルマー遺伝子を作り出そうとしていた。それはつまり「思い通りの子」を作るということ。無断とあらば、それは「人体実験」だ。

事件を知った小比類巻の顔が曇る。愛する妻の出生に驚いたことはもちろんのこと、「悪魔の子」だと報じるメディア。小比類巻の愛する妻、星来が会いたくてたまらない母、聡子(石野真子)の愛する子、亜美がそうであったように、美羽も誰かにとっての「美羽」であったはず。それを「悪魔の子」と耳にするのも心が痛む。

美羽は、自らの出生を知りたいと榊原をたずねてきたという。そうして、実験に使われたのち死亡した。榊原は、心痛める様子もなく「もう一人の悪魔の子」を探し、聡子に接近した。ロブスターにかぶりつきながら榊原が語った弱肉強食、そして不老不死。エルマー遺伝子とプロメテウス・ウイルスがあれば、理論上は叶うだろう。だが、そのために誰かが苦しみ、命までも落としてしまえば、それは科学の暴走だ。

美羽も亜美も亡き今、エルマー遺伝子を引き継ぐ者、小比類巻と亜美の娘・星来に、魔の手が忍び寄る。

「科学者は探求心を抑えられない」「科学の闇」と最上が繰り返していた言葉の恐ろしさを噛みしめる。そして科学者だけではなく人間の欲望も、どうしてこうも際限がないのだろうかと虚しくなる。けれど本作は、人の命が悲しくも有限であること、行き場のない寂しさも、リアルに描いている。

DNA検査時、「彼女の洋服にたまたま」毛髪が残っていたと、小比類巻は言った。部屋もきっと、亜美がいなくなった日から時を止めたのだろう。亡くなってから届いた亜美の荷物を、未だに開けることができない、それを「変でしょう」と、小比類巻が寂しそうに笑う。死を受け入れることになってしまう気がするから、と。

変なはずがない、当たり前の葛藤だ。開けてしまえば、受け取るはずだった亜美が「もういないこと」を、時間が進んだことを、嫌でも実感してしまうだろう。あるいは、知りたくなかったことを知るかもしれない。現代の科学技術では、いつか「その日」は訪れる。それまでは、幸せな想像で箱の中身を満たして、ふっと笑えるほうがいい。それは現実逃避ではなく、事実と向き合うための準備期間だと思うから。

(新 亜希子)

元記事で読む
の記事をもっとみる