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【地下足袋登山ってアリなの!?】ゴツい登山靴、見直してみない?レトロな履き物で、山歩きはもっと楽しくなる!

  • 2022.6.6
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そもそも、地下足袋って?

柔軟な動きを足元から支える、伝統的履き物。

起源は千年以上遡るとも言われる伝統的な履き物、足袋。親指を入れる部分と、他4本の指を入れる部分の2つに分かれ、かかと部分をこはぜと呼ばれる金具で留めるのが特徴です。
中でも地下足袋は、底がゴム製の足袋のこと。下駄などの履き物を履かずとも「直に」地面を歩くことができるため、「地下足袋」と名付けられたんだとか。つま先に力が入り踏ん張りがきくことから、農林業や建設業の現場、お祭りなど、現在も様々な場面で人々の足元を支えています。

今回は、そんな地下足袋を履いて、低山からアルプスまで様々な山歩きを楽しむハイカーを紹介。地下足袋と登山の相性の良さを知れば、あなたの常識が変わるはず…!

ベテランハイカーが辿り着いた、地下足袋登山スタイル

今回インタビューしたのは登山歴40年のハイカー、h.hiroさん。長年の登山経験をもとに、地下足袋登山のいろはを教えてくれました!

怪我をきっかけに出会った地下足袋

――地下足袋登山と出会ったきっかけは?

44歳から始めたランニングの1年経過時に故障し、一時は走るのをやめようかとも考えましたが、走り方の根本的な改善を探る中でナチュラルランニング(裸足ランニング)に行きつきました。
身体の使い方を見直し、薄底のランニングシューズへスイッチしたことで故障は改善。その後、同様の怪我はしていません。身体の使い方の試行錯誤を続ける中で、裸足でフルマラソンを完走したり、サンダルで富士登山をしたりしました。この富士登山の際に、サンダルでは下りの砂走りがきついと考えたのが、地下足袋登山のきっかけ。山での履き物には、サンダルより足袋の方が合っていると感じるようになりました。

――抵抗感は無かったのでしょうか。

大学の沢登りでは地下足袋+草鞋スタイルだったり、先輩やOBも積極的に登山靴以外の履き物を履いていました。登山靴は必要なシーンでのみ履くという考え方で、普通の縦走や夏場には重いだけで不必要と思っていたようです。私自身、登山は中学からですが登山靴を買ったのは大学に入ってからだったりと、「山に登山靴は必須」という考えがもともとなかったですね。


――初挑戦した時の感想は?

サンダルに初挑戦した時は、ドキドキしましたし足裏が刺激的で大変でした。ただサンダルで八ヶ岳縦走などに取り組んでいたため、地下足袋に関してはサンダルと比べると安全、という意識でしたね。初めて地下足袋を履いた時は、「足裏が良く動き歩きやすい。」「いろいろなシーンに反応しやすい。」「岩の上を飛んで進みやすい。」と感じました。

履いた者にしか分からない!地下足袋登山の魅力

足裏で味わう、大地の感触。

――ずばり、地下足袋の魅力は?

履き物が身体の動きを阻害することがほぼないため、ノンストレスで身体を動かせて安全なこと。山での様々なイレギュラーシーンに素早く反応できます。また、足裏で感じる地面の感触が素晴らしいです。


――「ノンストレスで身体を動かせる」とは具体的にどういうことでしょうか?

薄い足裏から路面状況をロスなく感じることができるので、捻挫・転倒のリスクが大きく軽減し、怪我をしにくくなります。地下足袋は足裏が刺激的なので、どうしても優しい足の運び方にならざるを得ません。その結果、乱暴に歩くことがなくなり、疲れにくくなってくるんです。

また、足裏を岩などの形状に合わせて置けるため、スリップ率が大幅に下がり、軽やかに岩場をこなすことができます。その形状からゲイターとしての役目も果たしてくれるため、小石や小枝、枯葉などが足に入りにくいというのも地下足袋のメリットですね。

――逆に、地下足袋のデメリットはありますか?

強いて挙げるとしたら、綿素材のため雨だとそのまま濡れるのが弱点です。
また、登山靴に慣れた方がいきなり地下足袋のような薄い履き物を履くと、地面の凸凹が刺激的でつらいかも知れません。半面これは脚の運びや身体の使い方が雑な証拠でもあるので、どうすれば刺激をいなせるのかを考える良いきっかけにもなります。そのため表面的にはデメリットかも知れませんが、実はこの点はメリットでもあります。

登山靴と地下足袋、それぞれの良し悪しを理解する

登山靴はオーバースペック?

――なぜ登山靴ではなく、地下足袋で山に登るのでしょうか。

通常の登山において、登山靴ではデメリットの方が多いと感じます。具体的には、「重量があること」「シェルが固いため接地感が悪く、路面状況への対応がしにくいこと」「捻挫しやすいこと」などです。


――登山靴が捻挫しやすい、というのは意外に感じます。

捻挫しやすいというのは、ソールが固かったり厚みがあったりすることで、路面の凸凹を身体がもろに受け取ってしまうからです。逆だと思うかもしれません。確かに足裏の突き上げはなくなりますが、路面の凸凹は固いソールの傾きとして身体にフィードバックされます。しかも厚いソールのせいで路面情報の伝達が遅くなり、衝撃が突然やってきます。これが疲れている時などに起きると、足首の捻挫や転倒に繋がってしまうんです。

――そうした登山靴のデメリットを地下足袋が解決してくれるのですね。

地下足袋の場合、ソールがぐにゃぐにゃで柔らかく薄いので、地面の凸凹をリアルに感じることができます。すなわちリアルに身体が反応できるということです。登山靴で靴底に木の根や石が入るとカックンとぐらつくことがありますが、足袋にはそれがありません。つまり、一般的な捻挫のきっかけ自体が無くなるのです。個人差はあると思うのですが、私自身、登山靴を履いていた時期は年に数回捻挫をしていたのですが、地下足袋をはじめソールが薄く柔らかい履き物での登山に変えてかれこれ13年、一度も捻挫はありません。

もちろん、登山靴の方がいいシーンもあると思います。雪の季節やクランポン(アイゼン)の装着が必要なコンディションの場合は登山靴を履くべきです。ですがそういった状況でなければ、登山靴は足かせになってしまうと考えています。

地下足袋登山の注意点

地下足袋に適した季節と山

――地下足袋登山に適した季節を教えてください。

冬季以外は地下足袋で問題ないと思います。前述した通り、積雪があったりクランポンの装着が必要だったりする場合には適していません。


――どんな山に地下足袋がおすすめですか?

岩場の多いアルプスには向いていないと思われるかも知れませんが、岩場でのグリップ性はとても高いです。足裏が自在に動く事の恩恵はとても大きいですよ。

冬季に地下足袋登山をするなら…

――h.hiroさんは冬山でも地下足袋を履かれているんだとか。

おすすめはしませんが、私は冬山にも足袋で登っています。この場合、スパイク地下足袋という鉄ピンが打ってある地下足袋を履きます。厚めの靴下を履いても血行が悪くならないよう、2サイズ大きなものを使用し、さらに上からネオプレンオーバーシューズを被せれば、スパイク地下足袋でもだいぶマシになります。学生の頃、一番安い革製の登山靴で冬山に登ると足先がかなり冷えましたが、それと同じくらいの冷たさにはなりますね。

靴下は履くの?

――地下足袋を履く際、靴下は履くものなのでしょうか。

地下足袋登山の仲間は、基本履いていない人が多いです。私も履いたり履かなかったりですが、履くときはムレ防止と濡れた際の不快感対策として、finetrackのドライスキンメッシュという薄手の靴下を履いています。あとは山域や気温に応じて靴下を重ねたり、少し厚手のものに変えたりしています。何れにしても、温度対策以外で厚手の靴下を履くことはありません。薄いほうが、より的確に接地感が得られるからです。また、圧着系の靴下は避けるようにしています。

地下足袋登山ブーム、じわじわ来てます。

仲間と地下足袋でOMMに参加!

――地下足袋登山の仲間がいらっしゃるそうですね。

足袋に至る前から、「ワラーチ」と呼ばれるサンダルでランニングやトレイルランをしており、その仲間が多くいます。私が積極的に山で足袋を使いだしたことで、今では仲間も山に入る時に地下足袋をチョイスするようになってきました。本栖湖で2日間にわたり開催されるマウンテンレース、OMM(Original Mountain Marathon)にも、全員地下足袋で参加しています。


――すれ違うハイカーからの反応はどうでしょうか。

総じて好意的な反応をいただきます。「凄い」とも言われますが、私としてはこっちの方が楽なので少しも凄くはないんです。また、山小屋の方と「地下足袋は良いよね」と話すことも多いです。山小屋の方の中には、長靴か地下足袋を履くという人が少なからずいるようです。

おすすめの地下足袋はこれ!

「ペラペラ」が地下足袋の醍醐味

――具体的にはどんな地下足袋がおすすめですか?

地下足袋なら何でもいいと思いますが、逆におすすめしない地下足袋があります。ジョグ足袋と呼ばれるものなど、エアが入った厚めのソールの地下足袋です。もちろんこれでもいいのですが、シューズとあまり変わりません。地下足袋の醍醐味を感じられるのは、やはりペラペラなものです。その方が、足の運びをより真剣に考えるようになります。

――h.hiroさんが実際に使っているのは?

私が通常使っているのは、「力王の実用地下足袋」です。ホームセンターで1,000円から1,500円くらいで買えると思います。

これから地下足袋登山に挑戦する皆さんへ

初めての挑戦には、いつもの登山靴を携行しよう

――地下足袋に初挑戦するハイカーが注意するべきことは何でしょう。

いきなり地下足袋登山をしても大丈夫な方、足裏が痛くてとてもじゃないけどダメな方と、タイプにより導入の仕方は変わってくると思います。足裏に痛みを覚えてしまう方は、膝から下の脚の使い方が固い場合が多いです。力が入ってしまっているとも言えますね。いきなり全行程を地下足袋にするのではなく、念のために普段の登山靴も背負って試してみることをお勧めします。

また、地下足袋は柔らかいゴム底でシェルは綿生地です。これまで登山靴で木の根や石に当たっても痛くなかったのが、当然ながら地下足袋では痛くなります。ただそれはこれまで雑に歩いてきた証拠であり、気を付けて歩く事が結果として安全につながります。

――慣れるには時間がかかってしまいそうです。

最初はなかなか刺激的だと思います。脚の運びや身体の使い方を見直していくうちにこの刺激を”いなせる”ようになってきますが、それが難しい場合もあるかも知れません。その場合でも、もしもがっちりした登山靴を履いているのであれば、徐々に軽めの登山靴やトレランシューズなどにスイッチするのがおすすめです。その際、選べるのであれば、ソールに過剰な厚みがあるものは避けた方が良いと思います。厚いソールの履き物は、間違いなく捻挫しやすいです。

もっと、軽やかな足元のハイカーが増えて欲しい!

――最後に、地下足袋登山に興味を持っている方へメッセージをお願いします!

とても安い履物なので、まずは低山から是非試してみてもらえればと思います。いつもと同じ山が新鮮に感じられて、楽しいですよ。

これは自分の考えですが、多くの人にとって登山には登山靴ではなく、もっと軽やかな足元で充分だと考えています。履き物が軽いと身体も楽になり、気持ちも軽やかになります。地下足袋に限らず、もっとライトな足元の登山者が増えていくことが抱負であり、願いです。

足元を見直して、よりアクティブに自然を楽しもう!

登山靴のイメージをがらっと変える、地下足袋登山。風変わりなスタイルに見えて、実は人間本来の足の機能を最大限引き立てる、優れた履き物なのです。
「せっかく大自然の中にいるのだから、大地の感触をリアルに感じたい。」
登山の足元の選択肢は、もっと広くても良いのかもしれません。まずは日頃の身体の使い方や歩き方を見つめ直し、山歩きをより安全で快適に楽しむための、自分に合ったスタイルを見つけましょう。

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