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歌手・俳優の加藤和樹さん「実力は後から付ければいい。大事なのは気持ち」

  • 2022.6.2
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ミュージカル俳優や歌手、声優と多彩な顔を持つ加藤和樹さんは、6月3日からはWOWOWの新番組「加藤和樹のミュージックバー『エンタス』」でメインMCも。20代でミュージカルの世界に飛び込んだ加藤さんに30代になって感じることや、年齢の重ね方などについて伺いました。

苦境に立たされても下を向かず、空を見る

――6月24日まで出演のミュージカル『るろうに剣心 京都編』は、本来は2020年に上演の予定でした。また昨年、出演したミュージカル『マタ・ハリ』もラスト3公演が中止。コロナ下の2年強は、どのようにモチベーションを保ちましたか?

加藤和樹さん(以下、加藤): お稽古をしてきた公演が中止になるのは、やっぱり大変でした。それでも常に気持ちだけは明るくいようと思って、意識的に空を見上げたり、用事がなくてもなるべく外に出て散歩をしたりしていましたね。家に籠もらざるを得ないときは、テレビのバラエティー番組を意識的に見て、よく笑っていました。

――以前、女性誌でおせちを作られている様子を読みました。料理をするのはお好きなのですか?

加藤: そうですね。昔から自炊をしているので、料理は好きです。たしかに以前、企画でおせちを作らせていただきましたね……(笑)。男性が1人でおせちを作るのはなかなかないことですけど、手作りの黒豆は本当においしくて。取材の後も、実は結構自宅で作っているんです。

とはいえ、自炊にも限界があります。だから積極的にお取り寄せもしていました。公演で福岡に行くと必ず伺う所や知り合いのお店から食材や商品を買い、家でちょっとした贅沢をして気分転換をしていました。

朝日新聞telling,(テリング)

成長してきた過程を自分の中で意識する

――今年で38歳になられます。年齢を重ねる上で、自分で気をつけていることはありますか?

加藤: なんでしょうね……。まず年を重ねたことをマイナスにではなく、常にプラスに考えるようになりました。たとえば、お仕事面でいうと、今の僕は20代ではやれなかった役が演じられるようになっていますよね。

日々忙殺されていると、「自分が昔に比べてこれだけ大人になったんだ」、「これだけできるようになったんだ」ということを忘れてしまいがちです。なので、成長した過程を意識するようにしています。言葉遣いひとつとっても、人は年々変わっていくものですしね。
ミュージカルの現場で、僕が先輩としてどっしり構えているかというと、そうでもないんです。後輩が増えてきたので、本来であれば僕が教える立場にならないといけないのですが、僕は後輩に質問をしてしまいます。「どこから声を出しているの?」「よくそんなトーンの声が出るよね?」と。単純に人への興味が尽きないので、すぐ聞いてしまうんです。

僕より年齢が下のミュージカル俳優って、みなさん本当にうまいんですよ。彼らは先輩の助言がなくても1人で課題を克服したり、自分で気づいて直せたりする人がほとんど。それでも足りないときに、気がついたことをアドバイスできればいいんです。先輩としては、「もしも困ったら相談に乗るよ」という背中を見せるだけで充分だと思うので。

――30代としての居住まいの話が出てきました。加藤さんは、ファンの方の居場所や仲間としての一体感を、すごく大事にしていますよね。

加藤: それは常に意識していますね。ファンの方との関係は、応援する側とされる側というのではなく、「いつも一緒に頑張っている仲間」だと思っています。携わっている仕事はそれぞれ違えど、「日々頑張っている人」という意味では、ファンの方も僕も同じなので。

みんなつらいときはつらいし、楽しいときは楽しいし。ファンの方と同じ日常に生きているのだということをいつも意識しています。僕は特別な人間ではありませんから。
僕もファンのみなさんも、同じように毎日景色を見て、同じように空を見上げて、同じように季節を感じている。共感できることで、互いの存在を確かめ合うことは大事だなと思います。

朝日新聞telling,(テリング)

人生の食わず嫌いはもったいない

――2005年にミュージカル『テニスの王子様』で注目を浴びて以来、舞台にずっと出続けてきました。ミュージカル俳優としての加藤さんのターニングポイントは、いつだったのでしょう?

加藤: ミュージカルでいうと、2013年の『ロミオ&ジュリエット』のティボルト役ですね。あの舞台が僕にとって初めてのグランド・ミュージカルでしたし、ミュージカル人生の扉を開いた作品でもありました。

実は『ロミオ&ジュリエット』のオーディションを受けるきっかけが、山崎育三郎君。彼の声がけで挑む決意をしました。人とのつながりで人生が開けたかと思うと感慨深いです。

――実際にオーディションでチャンスをものにするために、心がけたことは?

加藤: 第一に、気持ちですね。「自分が何としてでもこの役をやるんだ」という強い思いが大事だと思います。実力は、後から付ければいい話で。もちろん、オーディションですから、一定程度の実力あってこそのものですけど。

でも自分が選ぶ側だとしたら、多少下手でも、役にかける気迫や気持ちが伝わってくる人を選びたいと思うので。いくら歌がうまくて、芝居ができても、そこに心がなければお客さんには絶対に伝わらないですから。
でも今振り返ってみると、オーディションを受けた頃の僕は歌もろくに歌えないし、ダンスもできなかった。努力もまったく足りていなかったと思うんですよ。

朝日新聞telling,(テリング)

――telling,読者の中には、「やりたいことはあるのだけれど、一歩踏み出せない」といった思いを抱えた20代、30代の方がいます。

加藤: 「どうしよう……やろうかな? ここはやらないでおこうかな?」と迷っていらっしゃるのだとしたら、「いったん、やる」という選択をした方が、後々の自分にとって絶対にいい経験になると思います。

その選択を「いい」「悪い」などとジャッジしなくていい。「あのときこの選択をしたから、今が変わったんだ」ということは、後々わかることです。何が自分に合うかどうかは、とりあえずスタートを切ってみないとわからないところがあると思うんですね。試してみて「違うな」と感じたら、また別のものを探せばいい。手を付けてみておもしろかったら、そのまま続ければいい。

食わず嫌いはね、結構もったいないです。トライアンドエラーじゃないですが、何かしらトライをしていくことで見つかる世界は絶対にあると思います。まず一歩踏み出すことを恐れないでほしいですね。

■横山 由希路のプロフィール
横浜生まれ、町田育ちのライター。エンタメ雑誌の編集者を経て、フリーランスに。好きなものは、演劇と音楽とプロ野球。横浜と台湾の古民家との二拠点生活を10年続けており、コロナが明けた世界を心待ちにしている。

■品田裕美のプロフィール
1983年生まれ。出版社勤務を経て、2008年 フリーランスフォトグラファーに。「温度が伝わる写真」を目指し、主に雑誌・書籍・web媒体での撮影を行う。

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