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『エシカルフード』で目からウロコ! 日本の食産業の問題点は、買い物ひとつで変わる?

  • 2022.5.23
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レシピ本をはじめ、マンガやエッセイ、ビジネス書など世の「食」にまつわる本はさまざま。今注目したい食の本を、フードライター白央篤司が毎月1冊選んでご紹介!

今月の1冊:『エシカルフード』山本謙治

『エシカルフード』で目からウロコ! 日本の食産業の問題点は、買い物ひとつで変わる?の画像1
『エシカルフード』(角川新書、990円)2022年3月10日発行

人間、毎日のように買いものをする。私はきょう、卵と油揚げ、ヨーグルトに冷凍食品、そしてペットフードを購入した。選ぶ際に考えていたことはまず値段であり、次に品質と値段のバランスである。物を選ぶ上での判断基準はこの2点がすべてという人は多いだろうし、私も実際そうであることが多いが、時折「そのメーカーがどんな会社か」ということも考える。

食品だけでなく、たとえば車を買うとしよう。A社、B社でそれぞれ欲しい車があって値段とクオリティが大体同じだったとして、A社で過労死のニュースがあったらどうだろうか。あるいはA社に特に悪いイメージがなくても、B社では環境に負荷をかけない取り組みが活発であるとか、社員の労働環境改善に取り組んでいるといった情報があったら、どちらを買おうと思うだろう。

買うこととは、そのメーカーを支持することに直結する。日々何気なく選んでいるあれこれが、時に自然環境を乱すことに繋がることもあれば、ブラック企業を応援してしまうこともありえる。だからこそ、エシカル(倫理的、道徳的)な視点を持った消費者になろうよ、というのが本書のテーマだ。

日々の買いものに、いちいちそこまで考えちゃいられないよという人もいるだろう。だけど「理想としては、そうあれたらいいな」と思う人も少なくはないと私は思う。

著者の山本謙治さんは農産物流通コンサルタントで、農政や食生活のジャーナリスト。昨今よく耳にするSDGs(サステイナブル・デベロップメント・ゴールズ 持続可能な開発目標)につながる「食のエシカル」について、実に分かりやすく解説してくれる。この手のテーマにありがちな「エシカルであるべき!」 的な圧のない筆致がありがたい。「こういう議論があります、どう思われるでしょうか」的な、読み手に判断をゆだねるフラットなアプローチで、読みやすい本であることをまずお伝えしたい。

エシカルな食消費を考える上で、山本さんは次の7つのテーマを軸に話を進めていく。

・環境問題
・アニマルウェルフェア
(ざっくり言うと劣悪な家畜飼育環境をなくしていこうという考え)
・人権と労働問題
・フェアトレード
・商品とサービスの持続可能性
・利益の公正な分配
・食品ロス

「うわー難しそう」と思うなかれ。世界の食産業界がこれらのことに対してどういう取り組みをし、消費者がどんなリアクションを起こしているかがそれぞれで語られ、日本の現状も差し込まれていく。ライブ感のあるその構成が面白く、読むごとに「目からウロコ」で視界が開けていく感じが爽快だ。

日本の考える「オーガニック」はヨーロッパと大違い

『エシカルフード』で目からウロコ! 日本の食産業の問題点は、買い物ひとつで変わる?の画像2
(C)サイゾーウーマン

印象的なところを挙げたらキリがないのだけれど、まず「オーガニック(な農業)」という概念のとらえ方が、ヨーロッパと北米、そして日本では大きく異なっている」という点に膝を打った。日本では安全性が高く、健康に良さそうなイメージであるのに対して、ヨーロッパでは有機物循環を大切にする持続可能なスタイルを指す、と。

「ヨーロッパは利他的な、アメリカや日本は利己的な見方とも言える」という表現には射られた思い。そう、利己ではなく利他を考えていこう、その回数をちょっとでも増やしていこうというのが、エシカルな消費観点そのものに思える。15ページに書かれてある食品トレーサビリティの考え方とあわせて、ぜひ多くの人に読んでほしい。

そしてやはり知っておきたい、日本の問題点。水産業における資源管理や、エコラベル普及に関してのこと。日本の家畜は質や安全性だけでなく、エシカルに育てられているのか? また、輸入大国日本は「買い叩き」をしていないか、フェアな取引をしているだろうか?

食品ロスに関しては、国民の「もったいない精神」に依りかかりすぎで根本的解決を目指していない現状も語られる。そして何より“身近”とも言えるブラック労働の問題……。先日も大手寿司チェーン店の元店長が自殺を図ったニュースが流れたばかりである。従業員を苦しめる店を選ばない消費者で私はありたい。

食に興味関心のある方なら、どこかにひとつは必ず問題意識を刺激される点が見つかると思う。まずはそこを軸に、情報を集めてみてはいかがだろう。そんな良いきっかけを本書はきっとくれるはずだ。

日々の買いものひとつでも、良い取り組みをしている生産者や食品業者を応援することもできるし、働く人や取引先のことを考えないメーカーと関わらない選択もできる。そういう選択幅の広い人が増えてくれば、エシカルな社会はより早く近づいてくる。

白央篤司(はくおう・あつし)
フードライター。「暮らしと食」をテーマに執筆する。 ライフワークのひとつが日本各地の郷土食やローカルフードの研究 。主な著書に『にっぽんのおにぎり』(理論社)『自炊力』(光文社新書)など。
Instagram:@hakuo416

白央篤司(はくおう・あつし)

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