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【みんなのニュース】的形(兵庫県)のアーティスト・イン・レジデンス施設「M1997」にて写真展開催

  • 2022.5.19
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芸術家が一定期間ある場所に滞在して創作活動を行う、アーティスト・イン・レジデンス。兵庫県の瀬戸内に臨む「M1997」は、日本では珍しい個人運営の施設だ。フォトグラファー・室岡小百合さんの展示を開催中の「M1997」に、話を聞いた。

知らない場所に出かけて気分転換になった、という経験は誰しも持っているだろう。アーティスト・イン・レジデンスの発想も、そこからそう遠くはない。

アーティストが普段の制作現場を離れ、ある土地に一定期間滞在し、インスピレーションを得たり作品を制作したりする…アーティスト・イン・レジデンスは、古くは17世紀のフランスに端を発し、1960年代以降新たな芸術創造のかたちとして欧米を中心に広まったアイデアだ。日本にも輸入され、国際交流の一環として自治体主催で行われている例などが多い。

そんな中、2021年に兵庫県でアーティスト・イン・レジデンスに特化した場所が生まれていた。

「M1997」を、なんと呼べばいいのだろうか。アーティストが寝食をとり、制作し、発表(展示)まで行う場所。単なる宿ではないし、ギャラリーでもない。ただ言えるのは、そこはアートが生まれるところだ、ということ。

「M1997」を運営する井上有紀さんは、パリの大学院でアート・マネジメントを学んでいた。その時フランスのアーティスト・イン・レジデンスにも触れ、出会いと創造の場としての熱量に魅了される。修士課程に通いながら美術館に勤務し、日本美術の企画のキュレーティングに携わった。それらの点と点が全て線となり、「M1997」につながる。「どうしても商業的にならざるを得ないギャラリーなどの仕事よりも、よりアーティストに寄り添える形が、自分の性分には合っていると感じたんです」。アーティストと直接触れ合った経験や美術館での仕事から、方向性が見えてきたという。

明治時代から残る庄屋屋敷の入り口。写真:間澤智大 | Tomohiro Mazawa

「M1997」展示室。写真:間澤智大 | Tomohiro Mazawa

「M1997」展示室。写真:間澤智大 | Tomohiro Mazawa

屋敷内には茶室も。写真:間澤智大 | Tomohiro Mazawa

「M1997」が入っている建物は、かつて塩田で栄えた的形地区の庄屋屋敷(旧植田邸)。実は、「M1997」以前の2017年から、一部が「井上茶寮」というカフェレストランとして再利用されていた(*現在は店頭販売のみ)。オーナーは、井上さんの夫・祖人さんである。

どうして茶寮を開こうと思ったのかと尋ねると、「建物ありきだったんです」という答えが返ってきた。「的形は出身地ではないのですが、町を訪れてこの屋敷を見たときに、あぁここで何かしたい、と思ったんです」と祖人さん。大阪のフレンチレストランでの経験を生かし、茶寮をオープン。和と洋が無理なくモダンに融合するスタイルにファンが多い。

そして有紀さんがフランスから帰国。夫の店が入った屋敷を見て、使っていない部屋がたくさんあるなと気づいたのだという。その時、フランスで抱いていたアイデアが、現実に形を取り始めたのだ。そこからは早かった。茶寮がある母屋の別部屋にギャラリースペースを作り、離れの小屋をアーティストが滞在するスペースとして利用することに。コロナ禍に妨げられながらも、2020年に最初の滞在者であるフォトグラファーを迎えた。アーティストの選定には独自の基準を持ちながら、こちらから声をかけたり、連絡をくれた人に会ってみて“フィーリング”を見たり。個人でやるからこそ、柔軟さも保てるし、「M1997」という場所の個性も磨かれやすい。

「アーティストには基本自活してもらっていますが、やっぱり同じ敷地で暮らしているので、ご飯を一緒に食べたり、夜はお酒を飲み交わすことも多いです。アーティストの友達が訪ねてきて、みんなで飲むということもしばしば(笑)」。井上さんの話からは、「アーティスト・イン・レジデンス」という枠組み以上の温かな何かが感じられる。アーティストに寄り添い、作品が生まれる過程を見守る。一見簡単そうだけど、実際的な方法も距離感も難しいだろうことが、「M1997」ではごく自然な流れで成立しているのだ。

けれど、「M1997」が少し特別なのは、滞在作家には必ず「発表」を課しているという点だろう。普通、アーティスト・イン・レジデンスでは、アーティストが知らない土地で過ごし、新たな視点やインスピレーションを得るところまでしか場所側も関与しないことが多い。ただ、井上さんは「せっかく自分のところで時間を過ごしてもらうのだから、結果として何か残したい」という想いのもと、作品の展示までを「M1997」で請け負う。作品のセレクトや展示構成などは、アーティストと井上さんの共同作業だ。展示期間外には、作品を販売するブテイックも開かれてもいる。これもまた、旧植田邸という場所を持っている強みだろう。

2022年5月22日(日)までは、フォトグラファー・室岡小百合さんの展覧会を開催中。普段は東京を中心に活動し、ファッション写真も手がける室岡さんは、2021年の5月、的形で2週間ほどを過ごした。知らない街で暮らすことで見つけたのは、日常のなかの「一瞬のこよなき浮揚」。撮影にはドローンが使われ、鳥瞰的視点から的形が映し出される。写真の中では、町の古さと海の静かさとが心地よく混ざり合っている。

作品の展示風景。

室岡さんの作品。

アーティストが見知らぬ土地と出会い、そこに身を置くことででてくるエネルギー。それが、「M1997」を発信地として、まぶしく光っている。アートが生まれる場所のあり方の、ひとつの未来形が見えるような気がして、わくわくすることこの上ない。

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