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自らの道を切り開いた、ロックミュージシャンたちの素顔。曽我部恵一とReiが語り合う、3作の音楽ドキュメンタリー

  • 2022.5.19
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曽我部恵一_Rei

紆余曲折の人生を描いた映画3本、その見どころ。

『ZAPPA』

アメリカの音楽家、フランク・ザッパを描いた巨編。ジャズやロック、現代音楽を行き来しながら膨大な作品を生み出し、社会に対する主張も活発に行った、独創的で複雑な人間性を解き明かす。要所に挟まるクレイアニメも得体の知れなさを演出。4月22日、シネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国順次公開。

映画_『ZAPPA』
©2020 Roxbourne Media Limited,All Rights Reserved.
映画_『ZAPPA』
©2020 Roxbourne Media Limited,All Rights Reserved.

『リンダ・ロンシュタット サウンド・オブ・マイ・ヴォイス』

ウェストコースト・ロックやカントリーから出発し、オペラなどにも取り組んだ歌手、リンダ・ロンシュタット。映像を通して類い稀な歌声を楽しめるとともに、音楽仲間や恋人たちとの親交が、愛に溢れた証言を通して描かれる。

またメキシコ音楽の発音を練習する場面を筆頭に、一生懸命に音楽に向かう人としての魅力が満載だ。4月22日、全国順次公開。

映画_『リンダ・ロンシュタット サウンド・オブ・マイ・ヴォイス』
©LR Productions, LLC 2019 – All Rights Reserved
映画_『リンダ・ロンシュタット サウンド・オブ・マイ・ヴォイス』
©LR Productions, LLC 2019 – All Rights Reserved

『スージーQ』

女性ロック歌手の草分け的存在であるスージー・クアトロが、その道を切り開いていく過程を克明に描いた作品。ベースを抱えたハードロック歌手から、俳優やラジオDJまで幅を広げながら、現在まで50年以上、貪欲な姿勢を崩さない彼女のキャリアを追う。

70年代の日本で絶大な人気を誇っていたことを示す来日シーンやCM映像も登場。5月6日、全国順次公開。

映画_『スージーQ』
©The Acme Film Company Pty Ltd 2019
映画_『スージーQ』
©The Acme Film Company Pty Ltd 2019

曽我部恵一

一番グッときたのはスージー・クアトロを描いた『スージーQ』だった。実は彼女はこれまであまり知らなかった存在で、お姉さんたちとやっていたプレジャー・シーカーズの7インチを持っていたくらい。

だけどこの映画でキャラクターがわかったし、デトロイトで家族と過ごしていた少女時代を回想する終盤は本当に感動しちゃった。

Rei

お姉さんたちとのバンドを抜けて、ロンドンに渡って頑張ってきたのに、家族に悪口を言われていた場面は悲しかったですね。故郷に複雑な感情を抱きながらも、たくましく生きようとする志の高さを感じました。

曽我部

「ファンだったことはない」とか言ったり、お姉ちゃんたちはずっといけ好かなかったけど、なんか愛も感じられたんだよね。

Rei

やきもち焼いたりはするけど、どこかで応援はしている気持ちも見えました。

曽我部

そういう意味で『リンダ・ロンシュタット サウンド・オブ・マイ・ヴォイス』にも共通するテーマがあった気がする。音楽に生きた女性ってだけではなく、どちらも愛を失いながら表現していたり、最後は現在の家族との関わりを描いているのが素敵。

Rei

わかります!リンダは最初、人にプロデュースをしてもらっていたけど、どんどん自分の意思が出てきて色んな音楽性を努力の賜物で身につけていく過程が良かった。

最後はパーキンソン病で素晴らしい声が出なくなってしまうのに、ずっと歌への情熱はあって、年老いたリンダが家族と歌うシーンも泣いてしまいました。また私はブルーズからの影響が強いので、ボニー・レイットやライ・クーダーたちが出てくるのも興奮しましたね。

曽我部

リンダの全盛期の歌は本当に天才だと思った。リトル・フィートの曲も彼女が歌った方がいいじゃん!っていうくらい魅力的でかわいい。だからデイヴィッド・リンドレーとかニール・ヤングみたいな優れたミュージシャンが周りにわんさかいたこともすごくよくわかる。

あと歌で世の中に認めてもらいたいという純情もすごく感じた。『ZAPPA』を観て思ったけど、ザッパは真逆でしょ?音楽は自分が聴くために作っていると言い切っていたし。変な人だったなぁ。

ザッパで痛感、寝ないと死ぬ!

Rei

私にとってのザッパは、映画にも登場していたスティーヴ・ヴァイの師匠。ギタリストというイメージが強かったので、晩年のオーケストラとのプロジェクトはちゃんと聴き直したくなりました。

曽我部

僕は中学生の時に名盤とされる『Freak Out!』を初めて聴いたんですけど、良さが全然わかんなくて。でも30代のある時から急に自分の感性とマッチして、ザッパしか聴けなくなる時がありました。

特に70年代の半ばはバンドの状態が最高で、『ROXY & ELSEWHERE』が一番好きな作品です。でも今回映画を観たことでしばらく遠ざけてしまう気がする(笑)。

ずっと作曲しているし、あくびをしているシーンも多かったでしょ。それで52歳で亡くなっちゃうんだから、寝ないと死ぬ!っていうのを思い知らされた

Rei

メンバーを道具みたいに扱ったり、エゴが強くてひどい部分もありましたね。でも「売れたものが優れているという考えは、くだらない」という意思を貫く気持ちは、私も芸術家として、忘れたくないと思いました。

曽我部

ザッパは夫婦関係も複雑なんですよ。やばいエピソードが奥さんの証言にもあったし、問題があるところもちゃんと描いているのがすごかった。ほかの2人と違って、すでに亡くなっているからできた映画というか。

自分の映画ができたらどう?

Rei

ほかのお2人は初めて知ったので、リンダのバンドメンバーからイーグルスが生まれたこととか、たくさん発見がありましたね。

曽我部

僕もリンダとスージーはそこまで知らなかったから、作品を辿らないと。波瀾万丈があったり、有名かどうかは関係なく、どんなミュージシャンであっても丁寧に作られたドキュメンタリーはすごく感動できることが今回わかりました。

例えば何十年後かに自分の映画ができるとしたらどう思います?

Rei

えー!自分は棺桶に入る前日までギターを弾いていることを目標にしているので、その最後まで追ってもらうのはすごく興味があります。曽我部さんは?

曽我部

多分僕は死んだあとにできるタイプだと思うんです(笑)。ザッパと同じく、生きている間には本当のリアルな作品はできない気がしているので、嘘偽りなくとことん好きなこと言ってもらいたい。

もっと観たい! 音楽ドキュメンタリー。2人がおすすめする4作品。

『悪魔と ダニエル・ジョンストン』
シンガーソングライターとして人気を誇る一方で、うつ病に苦しみ続けるダニエル・ジョンストンの半生に迫った映画。「モノ作りの孤独さを感じる」(曽我部)。'05米/監督:ジェフ・フォイヤージーク。
『イヤー・ オブ・ザ・ホース』
ニール・ヤングと彼のバンド、クレイジー・ホースの軌跡を、1996年のツアーを通して描いた作品。「年老いたロックンローラーとしての魅力が楽しめる」(曽我部)。'97米/監督:ジム・ジャームッシュ。
『ライトニング・ イン・ア・ボトル』
2003年のブルース生誕100年記念ライブの模様を収めた、マーティン・スコセッシ製作総指揮の映画。B・B・キングらが出演。「バイブルのような作品」(Rei)。'04米/監督:アントワン・フークア。
『ザ・ブルース・ムーヴィー・ プロジェクト』
こちらもReiがおすすめするブルース映画。ブルース生誕100周年記念で制作された、スコセッシ企画の全7シリーズの作品群。エリック・クラプトンが出演。'03米/監督:ヴィム・ヴェンダースほか。

profile

曽我部恵一

曽我部恵一

そかべ・けいいち/1971年生まれ。サニーデイ・サービスのギター、ボーカル、ソロアーティストのほか、プロデュース、楽曲提供、映画音楽、CM音楽、執筆、俳優などでも活動。

profile

Rei

Rei

れい/1993年生まれ。シンガーソングライター、ギタリスト。4月13日に藤原さくらや長岡亮介、細野晴臣らが参加したコラボレーションアルバム『QUILT』を発表。

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