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米津玄師が最新シングルで語る「ウルトラマン」からの“祝福の連鎖“

  • 2022.5.18
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全国公開中の映画『シン・ウルトラマン』の主題歌「M八七」(エムハチジュウナナ)を5月18日にリリースする米津玄師。稀代のヒットメイカーが書き下ろした楽曲の制作過程から、話題となった「POP SONG」CMやMVでの扮装まで、特別インタビューをお届けします。

──主題歌のオファーがきた時、どう思われましたか?

結構前にお話をいただいていて。まさか自分にそういう話がやってくると思ってもいなかったというか、1ファンとして公開を楽しみにしている状態だったので、青天の霹靂の一言で。『シン・ゴジラ』も劇場で何度も見ましたし、庵野秀明さんのアニメや映画は子どもの頃からずっと好きでいたので、願ってもないお話しだなぁという風に思いました。

──『シン・ウルトラマン』の樋口真嗣監督、企画・脚本の庵野さんから楽曲に対して具体的なリクエストはありましたか?

「米津さんの思ったように、この作品に関して感じた通りに作ってください」と言っていただきました。なので、本当に自由に作らせていただきました。最初に脚本をいただき、ストーリーを把握しながら、ラッシュを見て、徐々に作っていった感じです。

──米津さんは普段曲を作られる際、情景的なイメージから入ることが多いと伺っています。今回はどのようにして作られたのでしょうか?

映画の大きなコンセプトのひとつに、(初期ウルトラシリーズのデザインを担当した)成田亨さんのデザインしたウルトラマンの姿を踏襲して復活させるというものがあり、まずは、「ウルトラマンとはなんぞや?」という所から噛み砕いていく必要があるなぁと思いました。
成田さんとはどういう人なのか、そこから始めるのがすごく重要なんじゃないかと。もちろん映画を見ながらそこに合わせて作ったのですが、それと同じくらいに、成田さんの描いた絵を眺めながらインスピレーションを探していくという時間がすごく大きかったですね。

──もともと「ウルトラマン」に親しみはありましたか?

自分が幼稚園に通っていた頃、すごくウルトラマンが好きだったらしいんです。ソフトビニール人形も持っていて、名前も全部言えたらしくて。でも、そのことを忘れてしまっているんですよね。覚えていないけれども、その体験自体がなくなるわけではない。そういったことも曲の立脚点となりました。
何年か前、「パプリカ」という曲をFoorinに提供したのですが、曲が世に出た時、たくさんの子どもたちが歌って踊ってくれたんですよね。とても嬉しい体験でしたが、その子どもたちが大人になった時に、果たしてどれくらい覚えているんだろうかっていうと、ほとんどの子は忘れてしまうのではないかと思うんです。記憶としては朧げになってしまうけれど、忘れたところでなくなるわけではない。子どもの頃の体験が土壌になって、その上に色々な体験が積み重なり、豊かな人間性に発展していくと思うんです。
自分もウルトラマンに祝福されてきたんだろうなという予感があるし、祝福を受けて、与えていく、という関係性が人間同士の営みの中には明確にあると思うんです。そういう祝福の連鎖というものを、この曲に落とし込みたいというのは強くあったかもしれません。

──“祝福の連鎖”、素敵な表現ですね。その思いはどのように楽曲に集約していったのでしょう?

ウルトラマンは、身を挺して人間を守りますよね。ひょんなことがきっかけで地球にやってきて人を守る使命を自分に課して活動しているけれど、人間は身勝手なもので、大きな力を目の前にすると、目先の利益を優先し、出し抜こうとする。一方で、怪獣(『シン・ウルトラマン』では禍威獣〈カイジュウ〉)たちや外星人とも闘わなくてはならない。
その両方から引っ張られながらも、当初の目的を決して忘れず、強く優しくある姿は本当に素晴らしい。願わくばこういう風に生きていきたい。だからその気持ちを、自分の口から歌にして出すことによって、そこに近づけていきたいと思いました。僕も31歳と、もはや若者ではない年齢となり、まわりの人たちや友人に何をしてあげられるだろうかと思うことも増えました。向こうには向こうの人生があり、僕が一方的に助言するだけでは彼らの人間性を否定してしまうので、僕がやれることは高が知れているわけですよね。自分に出来る事といえば、音楽を作ることであって、その中に自分の思想や意志を表現することで誰かに届いたらいいなという感覚です。

──米津さんの歌詞はつねに肯定感があると思うのですが、今回も「君が望むなら それは強く応えてくれるのだ 今は全てに恐れるな 痛みを知る ただ一人であれ」といったフレーズがあります。歌詞はどのような視点で書かれたのでしょうか?

多義的な何かを含ませておきたいというのは前提としてありました。初代ウルトラマンが好きだったかつての少年たちや、女性や若い世代、色々な人が観たいと思えるようなものにしたいという製作陣からの言葉があったりしたので。それが成立するような曲の構造にしたいと考えて。歌詞を書く時は、自分の子どもの頃を思い出したり、子どもの頃の自分との対話をすごく重視しました。それが“祝福の連鎖”に繋がっていきますね。

──タイトルである「M八七」の由来は?

実は、最初は「M78」というタイトルだったのですが、先方に確認したところ、庵野さんからお返事があり、「M78でいくのであれば、M八七の方がいいのではないでしょうか」と。初代ウルトラマンの最初の企画段階ではM87星雲だったらしいのですが、何らかのきっかけでM78星雲になってしまったという逸話があるらしくて。今回の映画のコンセプトを考えると、庵野さんのご提案はすごく妥当なことだなと思いましたね。

──過去のインタビュー等で『シン・ゴジラ』や『エヴァンゲリオン』シリーズが好きとおしゃっていますが、庵野さんの作品はどういうところがお好きなんですか?

『エヴァンゲリオン』は刺激的で、ひとつの大きな発明だなぁというふうに思いますね。人間の孤独や寂しさ、痛みを生々しく描いていて、当時、自分のような人間には大きく響きました。実写映画の『式日』からもすごく影響を受けましたね。18, 19歳の頃に見たんですが、刺激されて音楽を作ったりしました。

──米津さんはよく普遍的なものを大切にしたいと発言されています。時代を超えて長く愛される「ウルトラマン」にも普遍性があると思いますが、楽曲制作において、その共通点は意識されましたか?

無意識にはあったと思うんですが、制作に関しては、余計なことは考えずに目の前の作業をクリアしていくことに注視していましたね。でも、なぜウルトラマンがここまで普遍的なヒーロー像なのかというと、不気味さというのも一つあると思います。わかりやすく角が生えているわけでもないし、武装しているわけでもない。流線的なフォルムに表情が読み取れないアルカイックスマイルで、子どもが見るには美しく不気味なものだと思うんですけど、それが正義の味方として地球に降り立つというバランスが良かったんじゃないかなと。子どもの頃って未知なるものに対する探究心というか、なんなの?なんなの?と思わせるものにすごく惹かれますよね。だから、ウルトラマンの造形も未知なものに映ったんじゃないでしょうか。成田亨さんがいなければ、ここまで大きな存在になっていないんじゃないかと思っていますね。

──ジャケットも米津さんが描かれたそうですね。カラータイマーがない点も成田さんへの敬意を感じます。

成田さんへのオマージュみたいな形にはなりましたね。彼のシュールな、ちょっと超現実的なニュアンスを踏襲できないかなと思いながら描きました。ウルトラマンは強く優しく美しい。その中でも強い者というイメージがあると思うんですが、痛みや寂しさをどこか感じるような表現にしたくて。ウルトラマンを毀損するような言い方かもしれませんが、ウルトラマンの中にある孤独な痛みをどこか感じるものを描きたいなと。楽曲を提出した後に取り掛かったのですが、絵を描いている時が一番楽しかったですね(笑)。子どもの頃から絵を描くのが好きで、音楽家になる前は漫画家になりたかったぐらいで。音楽に対しては責任がありますが、絵に関してはちょっとだけ自由になれる。

©2022「シン・ウルトラマン」製作委員会 ©円谷プロ ©REISSUE RECORDS

──最後に同シングルに収録されている「POP SONG」について伺います。赤髪、羽根のジャケット、ワンピース、青い足元といった、ゲームキャラクターのような扮装も話題になりましたが、あのアイデアもご自身から?

「POP SONG」の映像はミュージックビデオありきで、自分が何かに変身するというところからスタートしました。自分の身なりは、ラフスケッチを描いて、それを実現化するためにはどうしたらいいか、スタイリスト、ヘアメイクさんと話し合って、こういう形になりましたね。

──「ポップソングを作りたい」と過去幾度も発言されてきましたが、この時点でストレートにタイトルに選ぶというのは何か意味はあるのでしょうか?

「ポップソングを作りたい」と繰り返し言い続けてきましたが、別に大きな決意はないんです。過去の曲も全部ポップソングだと思ってるし、この曲が「POP SONG」というタイトルになったのは、言語化しようとは思わないぐらい自分にとっては自然なことで。

──ポップソングを作り続けることのジレンマはありますか?

確かに自分がやってきたことに後ろから引っ張られることもあります。ただ、いつ、いかなる時も同じ状況でいられるわけではないですし、今は大衆音楽家として成立しているけれど、それがいつまでも続くとは限らない。そこに固執していても仕方がないですよね。たかが市井の人間ひとりに過剰なプライドは必要ないと思っています。変に肥大したプライドがあると身体の可動域が狭くなり、自由にならないし、何をやったところで、結局自分は自分でしかないので。自虐ではなく、ポジティブな精神で、ある種の開き直りを持ち続けていたいと考えています。

「M八七」(エムハチジュウナナ)

©2022「シン・ウルトラマン」製作委員会 ©円谷プロ ©REISSUE RECORDS

2022年5月18日発売

<収録楽曲>
01.M八七 映画『シン・ウルトラマン』主題歌
02.POP SONG PlayStation® CM楽曲
03.ETA

*初回限定「ウルトラ盤」「映像盤」「通常盤」の3形態で展開。

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